見出し画像

ねえパーティー抜け出さない?

はあーん。やれやれ。
クソつまんないレセプションだかオープニングだかから抜け出て、アタシはお近くのセブンイレブンで一服。コンビニさんWi-Fi借りるわね。喫煙所も借りてんのに悪いわね。
「酔っ払いばっかでやってらんねーーーーなんか頭いたーーーーーーーーーーーーーい」

普通の会社勤めの人がそうするように、アタシはツイッターを開いて「クソクソクソクソ」って打ち込む。はー。ツイッターはいい、言いっぱなしに出来て、合わない人は外れていってくれる。アタシはみんなの愚痴とかキチゲ解放とか苦悩とか七転八倒とか好きだし、みんなものたうち回るアタシで笑ってくれりゃいいなって思う。笑えよ。

さておきアタシのお仕事は画家。しかも若くて可愛いの。だからまあよく叩かれるわねえ。オバサンならともかくオッサンもよ?知るかそんなの実力主義だ。しっかしどいつもこいつも酒ばっか飲んで何なのかしらねえ。サケ飲むな!(INUっぽく読んでね❤️)

まったく自分という名の空間に耐えられないからって。

ほら、ライブハウスなんかでもさ、楽しくて声かけてくるんじゃなくて、なんつーの?お喋り目的で話しかけてきて勝手に死ぬ奴とか、お喋り下手なのはともかく自分を良く見せたくてマウント取っちゃう奴とか、なんかもー。出会いもステキな恋の始まりもあっていいと思うのよ。ステキじゃないのが問題なのよ。どういうことよまったく。

酒臭いアートジジイどものせいで酷い頭痛がする。
荒くれてるけどあたしはお嬢さんなんだわ。

会場に戻るととても静かな絵があった。どんな人が描いてるんだろうと思った。普通に。そこへちょっと髪がぼさぼさの男の子がやってきた。この人だ、と思った。この絵の空気をまとっている。夕暮れどきのような、静かな月の夜のような、透明で澄んだ空気ーーーーーーーーー


の、男の子はあっという間におばさま方に囲まれた。ああうん、分かるわ。アタシも好き。おばさま方はアタシなんだ。ただの娘に戻ってしまったんだ。すごい能力ですこと。そしてまったく自覚がなさそう。アタシはあるわよ。どけ酔っ払いジジイ。お前はもうお年寄りなんだよ。しかもダンディーでもなくてアンモニア臭いほうの!アルコール分解出来てないんじゃないのー?病院行きなさいよね!定期検診は欠かさずにね!まったく。

ロックでもアートでも何でもいいわあ。
みんな赦してもらいたいだけ。異常な自分を赦してもらいたいだけ。いいよ、アタシが全部赦してあげる。でもだからってさわんじゃねーよジジイ。それは普通にセクハラだ。

はあもうだめ、鎮痛剤飲もっと。こんなパーティーで飲めるのが緑茶しかないってどういうことよまったく。と、ふと横を見ると。さっきの素敵な男の子が

紙コップに
なみなみと
ワインを注いで
一気飲み


....つらいのかな。さっき変な男の人に絡まれてたし。どうせあんなの嫉妬だよ、君みたいに素直な作品が作れないから。崇めりゃいいのにバカよね。いいところは見倣えばいいのよ。あいつら模写とかするくせにそーいうところがなってない。

「あなたの絵、下地が赤なのね。なんだか雨が降りそう」
エネルギーが満ちていて、まで言うとうざくなりそうだったから、そこで切った。男の子はこちらを見た。「他に聞きたいことはない?」という雰囲気だった。アタシにはもう聞きたいことはなかった。だってなんか、分かっちゃったから。その、皮膚感覚的な空気の、色の選び方が。きっと夏のゆうがたの夕方の影には、ローズのようなピンクを用いるんでしょう。多くの人が黄色やオレンジを塗ってるときにーーー

あたしたちはとっくにパーティーの外にいたのだ。心だけがね!くだらない渦の中じゃなく、目を見つめ合うことは出来ないけど、お互いの目はお互いのこころを見てる。それだけで充分じゃない?実際は連れ出したいけど。(太字)

くだんないパーティーがお開きになって、あの男の子は先輩のお供で二次会。どこの世界も変わんないわねえー。「お疲れさまでした、お気をつけて」アタシはとっとと逃げる。走ってあの坂を降りて、三つ目のコンビニで煙草を吸おう。アタシが汚れないために。世間様の邪気や毒気にやられないように、自分で自分にちょうどよく毒を与えろ。練って蛇を育てろ。腹に力を入れていけ。アタシは生ゴミ臭いパーティー帰りだって堂々とキレイだ。


画像1



画像2

(ゆうがたのくに第十三号掲載)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?