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人間失格-最後の愛妻をめぐる考察


人間失格を読みなおしました。

強烈な強姦事件が悲劇のクライマックス。

でもなんだか腑に落ちない。

ヨシ子さんについての記述の仕方に、太宰のトリックがあるような気がする。

それでは以下の疑問点について考察していきたいと思います。

※考察といっても、学術的価値のない、ただの私見でございます。ご容赦ください。


疑問点:ヨシ子さんは本当にひとを疑うことを知らなかったのか。


人間を失格する主人公の葉蔵さん曰く、

自分の妻ヨシ子さんは、純粋すぎて、人を疑うことを知らないがために、強姦されてしまったと仰ってますが、

本当に文字通りにそう思っていたとは思えません。

そう思おうとしていたのではないかと思うのです。

その根拠を示す前に、葉蔵さんとヨシ子さんの馴れ初めから見ていきましょう。


葉蔵さんとヨシ子さんの馴れ初め


ヨシ子さんはタバコ屋の店員。

いつも酔ってる葉蔵に、お酒の飲みすぎを注意するヨシ子さん。

葉蔵が、冗談で「キスしてやろうか」と言ったところ、「してよ」と返します。

(お茶目です)


今度二人が出合ったのは、葉蔵が、酔い過ぎて、タバコ屋のマンホールに落っこちて、けがをした時。

ヨシ子さんは真剣に、彼の飲みすぎを心配して、傷の手当てをしました。

葉蔵は、冗談で、「今後酒は飲まないと約束したら結婚してくれる?」と言ったところ、返事は「モチよ」。

二人は指切りげんまんして約束した。

(一目ぼれです)


その次の日、葉蔵はべろんべろんに酔いながら、お酒を飲んだことをヨシ子さんに白状しました。

しかしヨシ子さんは全く信じません。指切りげんまんして約束したのに、飲む訳ないもんとのこと。

葉蔵は、ヨシ子さんの純粋で人を疑わないところに感動して、結婚することを決めました。

(ガチです)


ヨシ子さんってあざといんじゃ・・・?


時は過ぎ、葉蔵が、友達の堀木にお金を工面するために、ヨシ子さんの着物を質屋に入れさせ、余ったお金で焼酎を買わせた。


ちょっと待って!


あれ?あの時酒飲まないって約束したご主人、お酒飲もうとしてるよ?!


っていうかヨシ子さん買いにいっちゃうの?!


約束はどこいっちゃったの?!結婚がかかっていたとはいえ、あれだけ約束に固執したんだから、覚えているはずだと思うんだけど、、、?


葉蔵さん、ヨシ子さんの疑うことを知らない、無垢の信頼心に感動して、結婚を決めたみたいですが。


ヨシ子さんのあれ。


多分、あざといってやつです。


葉蔵さんは、人を演じるのが得意でも、人の演技を見破るのは苦手なようです。それとも、その時は、まだ見破れなかったと言った方がよいのでしょうか。


ヨシ子さんの決定的なミス?!


家の屋上で、葉蔵は堀木と、焼酎を飲んでいました。


ヨシ子さんから枝豆を取りに行った堀木が取り乱して、葉蔵を呼びました。


なんとヨシ子さんが男に犯されていたのです。


さらになんと葉蔵は、恐怖心から再び屋上へ逃げ出してしまいます。


そこでおいおい泣いていたら、いつのまにかヨシ子さんが、彼の背後に、頼まれていたそら豆を山盛りにしたお皿をもって、ぼんやり立っていたそうです。

そしてヨシ子さんから第一声


「なんにも、しないからって言って、・・・」


ちょっと待って!


おそらく、ヨシ子さんは、葉蔵が泣いていることから、この事件を目撃したと確信したのでしょう。なので第一声で、なぜこんなことになってしまったかを説明しました。


でも、自分が強姦されているのに、夫が守ってくれなかったら、「なんで助けてくれなかったの」と怒っても良いはずです。というか怒るのが普通では?!


それをなんだか言い訳じみた説明をしたということは、合意のもとだったのでは?と思わされます。


その後の生活で、ヨシ子さんが、家でおどおどしてしまって、葉蔵に呼ばれただけで、ビクっとしてしまうのは、彼に対して罪の意識を感じているからでは?!


なんだか納得がいきました。


葉蔵は、「信頼は罪なりや」と神様に問いかけておりましたが、ヨシ子さんも、葉蔵の理解できなかった「人間」でしかなかった、ということに尽きるのではないでしょうか。それとも、その問いかけは、自分がヨシ子さんを信頼したことに対してでしょうか?


伏線は初めから張られていたのでは?!


ヨシ子さんも、葉蔵の理解できなかった「人間」でしかなかったということを裏付ける理由を、以下引用文を用いて、4点にわたって述べます。


まず、葉蔵さんは、あの有名な「恥の多い生涯を送ってきました」で始まる「第一の手記」で、後日談のようなことを述べておりますのでご覧ください。

「自分には、あざむき合っていながら、清く明るく朗らかに生きている、或いは生き得る自信を持っているみたいな人間が難解なのです。人間は、ついに自分にその妙諦を教えてはくれませんでした。それさえわかったら、自分は、人間をこんなに恐怖し、また、必死のサーヴィスなどしなくて、すんだのでしょう。人間の生活と対立してしまって、夜々の地獄のこれほどの苦しみを嘗めずにすんだのでしょう。(P24「人間失格」新潮文庫 平成18年改版)
「そうして、その、誰にも訴えない、自分の孤独の匂いが、多くの女性に、本能に依って嗅ぎ当てられ、後年さまざま、自分が付け込まれる誘因の一つになったような気もするのです。」(P25 「人間失格」新潮文庫 平成18年改版)

①「ヨシ子さんも、あざむき合っていながら、清く明るく朗らかに生きていた」

出合った頃のヨシ子さんは、その処女性に裏打ちされているように、清く明るく朗らかであり、そして葉蔵をあざむきました。一目ぼれして、結婚に話をこぎつけるために。


②「人間の生活と対立したのが事件の後」

人間の生活と明らかに対立していったのは事件のあとです。

薬物中毒の時、脳病院に隔離されている時です。


③「ヨシ子さんの信頼が汚されたことが、地獄の苦しみ」

事件の直後、葉蔵が述べたこと

「ヨシ子が汚されたという事よりも、ヨシ子の信頼が汚されたという事が、自分にとってそののち永く、生きておられないほどの苦悩の種になりました」(P130 「人間失格」新潮文庫 平成18年改版)

これが夜々の地獄の苦しみだったのではないか。もしくは、葉蔵自身、あの事件がなければ、ヨシ子さんの無垢の信頼心を、信じていられたのに、あの事件のせいで、ヨシ子さんが「人間」であったことが発覚して絶望したとも読み変えることができそうです。

実際、

唯一のたのみの美質にさえ、疑惑を抱き、自分は、もはや何もかも、わけがわからなくなり、おもむくところは、ただアルコールだけになりました。(P132 「人間失格」新潮文庫 平成18年改版)

と、ヨシ子の信頼心を疑っている描写もありました。

そして、アルコールはヨシ子さんの信頼性崩壊の象徴になっています。

葉蔵が飲酒をしたと再三言ったのにも関わらず、その言葉を(あえて)信用しない。

焼酎を飲んでいる間に事件勃発。

信頼性に疑惑を抱いて、再びアル中に。


④「女性に付け込まれたと思っている」

私から見ると、葉蔵は、女性から助けられてきています。でも、それを付け込まれたと思っているということは、結局、出合ってきた女性もみな、「人間」でしかなく、そんな彼女たちの、エゴイズムの犠牲になったと言いたいのではないかと思いました。


結論

以上4つの理由から、ヨシ子さんは、人を疑うことを知らない訳ではなく、結局、自分の目的のために人をあざむく、「人間」だったと考えられるのではないでしょうか?


再度※考察といっても、学術的価値のない、ただの私見でございます。ご容赦ください。


勢いに任せて、かなり長文になってしまいました。

読んでいただいた方に大変、感謝申し上げます。






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