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1ミリも太ることがダメな理由

まさか、この私が人前でダンスを踊ることになるとは、想像することすらできなかった。

5年前、ベリーダンスのお試し体験講座に行こうか
どうしようか、ちょっと悩んだ。
元々、スポーツは全て苦手。ダンスと名のつくものも全て経験ゼロ。

(こんな私がダンスなんて踊れるんだろうか?
でも、やってみないと分からない。自分に合わなかったら、もうやらなければいいんだし。
あっ、そうだ。ベリーダンスは皆、女性だけ?
女性だけの集団って、ちょっとイヤだな。それに私、人見知りだし。う〜ん、でも更年期のせいか
体重増えるとなかなか元に戻らないから、何でもいいから運動しないと!)

ということで、心の準備に多少時間がかかった。
なぜ、ベリーダンスを選んだか? というと
mixiのコミュニティで、ベリーダンスを始めたら女性らしい体型になったと、何人かで盛り上がっていた書き込みを見て

(そっか、ベリーダンスって、どんなダンス?
けど、やってみたいな)
と思った。

ベリーダンスへの好奇心が膨らみ、とうとうカルチャースクールにお試し体験講座の予約の電話をかけた。当日、不安と緊張と興奮が入り混じり、ドキドキしながらレッスンルームのドアを開けた。
四方八方、鏡張りの、だだっ広いフロアーが目に飛び込んできた。

(う〜ん、ダンスやってる人達って、こういう所で練習してるんだ!)

講師の女性は私より少し年下? に見えた。

「今までダンスの経験は?」と聞かれ
「全然ないです」
と、堂々と返答した。

生徒は10人くらいで、当日お試し体験に来た人は私を入れて3人だった。
最初はストレッチやピラティスみたいな動作で体をほぐし、次は基本の動き方、最後は曲に合わせて踊る、という流れだった。

全てのレッスンを終え、慣れない動きで疲労感が
あったにもかかわらず、何だか清々しさでいっぱいだった。

(体を動かすのって、こんなにも気持ち良くて
さっぱりするんだ)
風呂上がりの爽快感にも似ているし、何も考えなくていい無の状態にもなれるのも、また良かった。

講師に
「どうでしたか?」
と聞かれ
「すごくいい運動になりました」
と、私はハキハキと言い放った。

その後、毎週レッスンに通う日々が始まった。
ベリーダンスは世界最古のダンスで、踊る曲は
エジプト、トルコ、アラビア風の(オリエンタルという表現もします)異国情緒溢れるエキゾチックな音楽です。

講師曰く、
「新しく生徒が入ってきても、ついていけなくて
辞めていく人もいるのよね」

う〜ん、確かに体を思い通りに動かすのはホント難しい。自由自在に舞うって大変だ。上達するにはかなりの時間を要するだろう。

「辞めないで、頑張って続けてね」
そう講師に言われた。

もちろん、辞めないで続ける気でいた。
なぜなら、ひたすら楽しかったからだ。
ウォーキングや筋トレは、黙々とやるだけで飽きてくるけど、ダンスは音楽に身をゆだねて舞うのが心地良い。
ただ、ベリーダンス特有の動きは、ちょっとやそっと練習しただけでは、なかなか上手くならない。
胸を激しく上下させたり、お腹をめいっぱい膨らませ、めいっぱいへこませる。
両腕を蛇のように、にょろにょろ動かす。
両膝をカクカク早く動かして、同時に腰を振動させる。フラフープをやるみたいに、腰を前後左右に大きく動かすなど、初心者は慣れるまで大変だ。
まあ、私は焦らないで続ける気でいたから、少しづつ少しづつ上達していけばいいと思っていた。
発表会やイベントへの誘いは、まだまだないだろう、と楽観していた。

ところが、レッスンを始め3ヶ月が過ぎた頃
夏にベイエリアで開催されるイベントに出てみないかと、講師に声をかけられた。

(えっ! まだ、そんな上手じゃないのに、何で?
あっ、もしかして私、筋がいいと思われてるのかな? ヤダ、どうしよう! でも、人前で踊るなんて、幼稚園のお遊戯会以来だ。大丈夫だろうか?
けど、嬉しい!)

と、舞い上がってしまったのです。
が、舞い上がったのも束の間、振り付けを必死で覚える日々が始まった。私が踊るのは2曲だけだったが、完璧に踊るには指先まで神経を使わなければいけない。見よう見まねで踊るだけでは、細かい動きが覚えられない。

「動画を撮って覚えたらいいよ」
そう他の生徒さんに助言されたので、皆が踊る様子を携帯で撮ってみた。当時、まだガラケーだったので、画像が粗くて少し分かりづらかった。目を皿のようにして、繰り返し何度も見て覚えていった。

「衣装は何でもいいよ。自分の好きなデザインで」
そう、講師に言われた。
そういえば、ベリーダンスの衣装がどういうものなのか、全く知識がなかった。ただ、運動できるだけでいいと思ってた私は、衣装についてはあまり
興味がなかったのだ。だから、何でもいいと言われて困ってしまったので、他の生徒さんに聞いてみた。

「こんな感じだね。上下で1万円くらいがちょうどいいんじゃない? 注文しようか?」
そう言って見せられたスマホの画面に、私はギョッとした。

(えっ! 何これ? すごい派手なブラジャー!
イヤ、ビキニなのか?)

スパンコールやビーズなどで装飾された赤いビキニ? の上の部分にしか見えない。
下はオーガンジーの生地みたいで、裾がヒラヒラしてるロングスカートだ。

「わっ、すごいね! じゃあ、注文お願いしていいかな。えっ、色? う〜ん、青がいいな」

特殊な衣装のせいか、市内には販売してる店舗はない。皆、ネットで注文している。

(それにしても、あんな衣装、決して若くない私が着ていいのかしら? 石、投げられないだろうか?
スカートはいいとして上半身は、ほぼ肌が露わだ。
胸元、お腹が丸見え、太ってはいないが、下腹ぽっこりしてるかも? えっ! えっ! どうしよう!
恥ずかしい! こんな体、人に見せられない!
ダメ! ダメ! ムリ! ムリ!
人前で踊るだけでも恥ずかしいのに、あんなビキニみたいな衣装を着なくてはいけないなんて)

しばし、私は葛藤することとなった。

(イベント参加を撤回するのは、何か都合悪いよなぁ。衣装も注文したし。恥ずかしいけど、皆と一緒に踊ってみたい気持ちもある。未知との自分に出会えるチャンスだし)

イベントが近づいてくるに従って、緊張と興奮が高まっていった。

イベント当日、会場に着くと緊張と興奮は頂点に達した。
ステージでは丁度、ジャズダンスが披露されていた。講師とジャズダンスクラスの生徒達だ。
皆、髪振り乱し、一心不乱に踊っている。

(ああ、なんて上手なんだろう! ん?)

ステージからは結構離れているのに、踊ってる講師や生徒達が、割りとハッキリ見える。

(結構、ハッキリ見えるのね。えっ、じゃあ私のダンスも、ハッキリくっきり見えるってこと?)

ドギマギしたが、もう腹をくくるしかなかった。

とうとう本番の時がきた。
青いビキニみたいな衣装に身を包み、皆と一緒に
ステージへの階段を登っていった。
私の立ち位置は一番後ろだ。観客席とステージの間は少し距離があったから、たぶん私の姿はあまり見えてなかったかもしれない。だが、スポットライトに四方八方から照らされ、この眩しすぎる状況では
やはり私の姿がちゃんと見えてるのではないか?
と思った。

(ああ、やっぱり恥ずかしい。でも、でも、ここまできたら、ちゃんと躍らないと。ベテランのダンサーのように、自信を持って堂々としないと。
皆、私を見て見て! 私が一番よ! って)

曲のイントロが流れた。
両手をゆっくりと上げ、最初の振り付けに入る。

(さあ、皆、私に注目して! ダンス始めて日が浅いけど、なかなか上手でしょ?)

気づいた時には、もう終わっていた。
記憶が、すっぽりと抜け落ちている。

(えっ? 私、ちゃんと踊ってた? 振り付け間違わないで、ちゃんと踊ってた? あれ、もしかして
間違えたかな?)

例えば、二日酔いとかで記憶が無くなるというのは
よく聞く話しだが、私は体験したことがなかったせいか、記憶が無くなるなんて、そんなことあるんだろうか? と疑わしく思っていた。
だが、私は身を持って体験したのだ。初めて記憶が無くなるということを。極度の緊張と興奮のせいだろうか?

(そっか、こういう感覚だったんだ。頭が、真っ白になるのね)

それにしても、ちゃんと踊ってたのか気になって仕方なかった。皆に、私がちゃんと踊ってたか聞いたとしても、踊っている最中は人のことなど、あまり目に入っていないだろうから分からないだろう。
ましてや、私は一番後ろだったから、私を見てた人は皆無かもしれない。

記憶喪失のモヤモヤ感は残ったものの、無事に初舞台を終えた充実感が、次第にみなぎってきた。

ダンサーと言えるほど、まだまだ上手ではないが、

(これで私も、皆と同じダンサーの仲間入りを果たした!)
と思った。

毎年、発表会やイベントに参加し少しづつ慣れてくると、おこがましいかもしれないが、後ろより前の方で踊りたいと思うようになっていった。
振り付けも、ちょっとやり過ぎ? というくらい
大げさに踊ったりもした。
しっかり見てもらいたい、見て! 見て!
という思いがそうさせた。見られることが、恥ずかしいより快感へと変わっていった。

ベリーダンスを始めてからは、毎日自宅でも練習するようにしている。仕事で疲れていても、頑張って最低30分はやるようにしている。例えば1日練習をさぼると、せっかく習得した体の動かし方が鈍くなりそうな気がするからだ。
なかなか上手くできない基本の動き方を、例えば
1日何時間も練習したとしても、その日のうちに
上達できるわけではなくて、1週間2週間が経ち
ある日、あれ! できるようになった、という感じです。

ダンスを習い始めて分かったことがあります。
それは、運動神経の良し悪しは全く関係ないということです。習い始める前は、運動神経が良くないと
なかなか難しいんだろうなぁ、と思い込んでました。だから、自分が踊れるようになるなんて、あまり想像できなかった。
あと、これは大事だと思ったことがあります。
それはリズム感です。振り付けに入るタイミング、
次の動きまでどれくらいカウントを取ったらいいのか、それらがスムーズにできます。恐らく、過去に
いろいろ楽器を弾いてたから、その経験が活かされているのかな? なんて思ってます。

ただ一つ、後悔していることがある。もっと早くダンスを始めてたら良かったな、と。

(あの派手な衣装を着れるタイムリミットはいつ?
う〜ん、あと何年か、だろうか)

ベリーダンスを始めて、未知の自分を発見できた。
ステージで踊る楽しさも実感できた。
と同時に、大きな課題を与えられてしまった。
それは、太らないようにしないといけないこと、です。あの、お腹丸見えの衣装を着るためには
1ミリも太りたくない、イヤ、太られない。
まあ、そのおかげで食欲をセーブできてるんですけどね。

あの時、思いきってお試し体験講座に参加して良かったな~って思う。もし参加してなければ、今はダンスとは無縁の日常だったかもしれない。
運動不足で、ぽっちゃり体型になっていた可能性もある。楽しみもなくて、老け込んでいたかもね?

プロのダンサーじゃないけど、ステージで踊る時は
プロのダンサーになったような気分になります。
それがまた、心地良いですね。
あの衣装は何歳まで着れるか分かりませんが、
まだまだずっと続けていきたい。

(一昨年に投稿した記事を、コンテストに応募するために、少し書き直しました)






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