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松下幸之助と『経営の技法』#118

6/12 会社へ投資する

~頭でも、知恵でも、時間でもよい。何かで会社に投資してこそ、一人前の社員。~

 いったんもらった給料を会社へまた献金する必要はありませんが、しかし、何らかのかたちで、自分の頭で投資するか、知恵で投資するか、あるいは時間で投資するか、何らかの形で投資するという面が必要だと私は思うのです。そのくらいのことを考えてこそ、一人前の社員といえるのではないでしょうか。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 この松下幸之助氏の話から最初に連想されるのは、終身雇用制の人事モデルです。
 すなわち、一定の年代(例えば40台)までは、会社に貢献した分の給料をもらえないものの、逆にその一定の年代を超えれば、会社への貢献以上に給料がもらえる、したがって、会社への貢献を投資に見立てれば、一定の年齢までは会社に投資し、それは一定の年齢を超えたところから回収されることになるのです。
 松下幸之助氏が活躍した時代にかけて、終身雇用制が確立していったことや、「投資」という言葉を使い、会社からの見返りをいつか得られるはずであるというニュアンスが示されていることを考えれば、このような終身雇用の人事モデルが、多少は影響しているかもしれません。
 けれども、ここでは「時間」の他に、「頭」「知恵」が例示されています。
 そうすると、労働とお金の関係を表しているのではなく、「頭」「知恵」「時間」をかければ、返ってくるものはやはり「頭」「知恵」「時間」に関するものであり、すなわち仕事の「能力」が高まると理解すべきでしょう。単に言われた仕事をこなすだけでなく、そこに自分なりにひと手間加えることを続ければ、自分自身の「能力」が上がっていく、と考えられるのです。
 さらに、経営の観点から、この発言の意味を考えましょう。つまり、従業員に対して、言われたことをするだけでなく、投資と思って、仕事にひと手間加えよう、と呼びかけることの、経営上の意味です。
 これには、まず、従業員の主体性を求める目的が考えられます。
 会社を人体に例え、体中の張り巡らされた神経をイメージしましょう。一つひとつの神経は、痛いとか熱い、という簡単なことしか感じないセンサーかもしれませんが、一つひとつが情報を感知し、忠実に報告するからこそ、体全体のリスクセンサー機能が働きます。全従業員の主体的な情報感知・報告が、組織を支えるのです。
 次に、従業員のキャリアパスを示す目的が考えられます。
 もちろん、従業員のロイヤリティーを高め、モチベーションを高めるために、会社が従業員に対して具体的なキャリアパスを示すことも必要です。けれども、それは黙っていても手に入るものではありません。頑張って成果を出し、認められるからこそ手に入るものであって、だからこそ、そのような機会を与えてくれるこの会社で頑張ろう、ということになるからです。
 つまり、頑張ってひと手間加えることを続ければ、能力が高まり、より好ましいキャリアパスが手に入ることが期待される、ということを示すことで、キャリアパスを示し、キャリアパスを具体化することにつながるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、従業員を命令で動かすだけでなく、このように自ら意欲的に動くようにすることも、経営者としての重要な資質であることがわかります。
 たしかに、経営者の強いリーダーシップの下、経営者が全てを判断し、経営者の指示に組織が一丸となって従うことで、力を発揮する場合もあるでしょう。これはこれで、経営者としての1つのタイプです。
 けれども、このような経営者が作り上げる組織は、たしかに団結力はあるでしょうが、経営者の想定する事態にしか対応できない、という柔軟性の限界や、経営者の手が届く範囲でしか組織が動かない、という規模の限界があります。経営者として、自分の手の届かないところを任せられる管理職者を育てていくことも、組織を柔軟にし、大きくするために、必要なのです。

3.おわりに
 松下幸之助氏は、従業員に対し、自主性を促す言葉を多く残していますが、その中でもこの言葉は、やる気を出すための気持ちの持ち方を提案している点で、特徴があるように思います。「投資と思って頑張ってごらん」というメッセージなのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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