松下幸之助と『経営の技法』#32

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.3/19の金言
 汗水たらしてお金を得ると、その値うちを、人間は十分に生かそうとするものである。

2.3/19の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 予期せぬ収入→散財→お金の値うちが生きない
 汗水流して得た収入→堅実な生き方→お金の値うちが生きる
 すなわち、お金は自分の働きで得ることが大切。お互いにとって、自分の額の汗がにじみ出ていないようなお金は、もらったり、借りたりしてはいけない。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、経営者のあり方を述べているようですが、会社組織が経営者の思うとおりに機能することが当然の前提でしょうから、会社組織のあり方でもあるはずです。
 そして、資金調達の問題として見た場合、ここでは、借り入れや増資ではなく、自己資金を重視する調達方針である、と評価できます。レバレッジを利かせた短期間での収益を目指すのではなく、中長期的に収益を上げ続けられることを目指す経営、とも言えるでしょう。
 さらに、これはいわゆる「けちけち商法」にもつながり、設備投資や研究投資など、投資戦略も控えめになるはずです。既存の設備などを活用し、使えるものはとことん使い尽くす、ということでもあります。
 しかし、氏は同時に、「お金の値打ちを生かす」ことを重視しています。
 ということは、必要な投資を怠って、それまでの投資や事業を無駄にしてしまうことも許されないはずです。すなわち、必要なところにはしっかりと投資しなければ、「お金の値打ちを生かす」ことにならないのです。
 結局、無駄遣いや、浮ついた投資を戒めていますが、それは、必要な投資は怠らないことを前提にしていると評価すべきです。
 すなわち、良さそうなものにすぐに飛びつくのではなく、投資してもそれだけの「値うち」があるものを見極める、という投資対効果の見極めが重要であり、さらに言えば、そのような見極めが行われるべき組織体制やプロセスを構築すべきことになるのです。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家と株主の関係として見た場合、投資家にとっても重要なお金ですから、その「お金の値うちを生かす」経営者を選び、または、そのような経営者になってもらうためのチェックや働きかけを、株主総会や社外取締役(株主の代理人のはずです)を通して働きかけることがポイントとなります。
 もちろん、わざわざ自分からお金を無駄にすることを宣言する経営者はいませんが、自分自身に投資を活用しきる感覚があることはもちろん、それを会社全体の問題として、会社組織やプロセスを作り上げることができる統制力も重視する必要があるのです。

5.おわりに
 大切なお金を大事に活用する、という発想は、バブル後に再確認されたことです。ベンチャーやスタートアップが注目される時代、一種のバブルの再来を懸念する声も聞かれますが、実際は、限られた資本で知恵を絞ってビジネスにチャレンジしている起業家の方が多数のようです。
 けれども、お金に苦労したからと言って、なまじ成功やお金を手にしても浮かれない、ということは、必ずしも一致しません。ベンチャーやスタートアップに投資する場合や、事業提携する場合、浮かれずに堅実に「お金の値打ちを生かす」ことのできる経営者や会社組織であるのか、という点も、一つのチェックポイントとなります。
 どう思いますか?


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