松下幸之助と『経営の技法』#66
4/21の金言
君は社会にとって尊い存在である。その存在をもっと生かさないようでは困る。
4/21の概要
松下幸之助氏は、以下のように話しています。
皆さんは、生きがいをもっているか。「自分は今、こういう会社で、こういう仕事をしているのだ」「なぜ、そういう仕事をしているのですか」「何となしに、他の仕事ができないからこれをしているのだ」では、けしからん。
それは、君自身のため、社会のために、けしからん。君一人というものは、社会にとって尊いものだ。その尊い君自身を、もっと生かさないようでは困る。お互いそういうことが言いあえる。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
ここ数日の松下幸之助氏の金言は、従業員の意識をテーマにするものが続いています。今日の金言もそれと重なるテーマですが、会社の従業員の意識の問題として、内部統制の観点から見た場合には、ポイントが2つあります。
1つ目は、主体性です。
いわゆる「お客さま」であり、指示を待つだけの従業員では困る、仕事に主体性を持ち、会社のエネルギーになって欲しい、というメッセージです。
2つ目は、社会性です。
同じ意欲でも、会社内部での競争による意欲は、それが必要な面もありますが、それだけでは不健全になりがちです。社会との関係で、自分の価値を見出し、それを高めようとする意欲を持つことは、会社全体のエネルギーを健全化しますし、会社が社会常識から逸脱することを防ぎます。会社も自分も、社会に認められたい、社会に役立ちたい、という気持ちをエネルギーに変えて、仕事に取り組んでほしい、というメッセージが他の金言で示されており、そのことをここでの社会性が意味しているように思われます。
ここでは、松下幸之助氏自身が、この2つの点を焚きつけています。
けれども、会社の内部統制として見れば、人事考課制度やその運用、社員教育、社風、など様々な施策で、このような意識づけを行うことになります。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
投資家である株主と経営者の関係で見た場合、ここ数日間の金言の中で検討した資質と同じ資質について、重要性を指摘できますが、ここでは、若手従業員のやる気を引き出すための話の松下幸之助氏の話の進め方に注目しましょう。
すなわち、氏は、聴衆を最初に「けしからん」と叱ります。
そのあと、それは君が尊いから、と持ち上げ、そのままだと勿体ないから、と持ち上げます。
醒めた従業員にはマイナス効果かもしれませんが、大経営者からこのように直接気持ちを揺さぶられれば(突き落として持ち上げる)、若手従業員の多くはその気になるでしょう。
そして、若手従業員を焚きつければ、その上にいる管理職も大変です。やる気を出す若手従業員を押さえつけてばかりではいられず、若手の意見も上手に汲み取って、活用しなければならない状況に追い込まれるはずです。
このように、組織を動かすために人の心を揺さぶる、という経営者の資質も、経営者の人選の上で参考にすべきポイントになるのです。
3.おわりに
「何となしに、他の仕事ができないからこれをしているのだ」というセリフを用いていますが、松下幸之助氏の問題意識に照らせば、「会社から命じられた仕事なのでこれをしているのだ」というセリフも、本当は許せないセリフになるでしょう。けれども、従業員全員がやりたい仕事をできるわけではないので、このようなセリフを用いることができなかったように思います。与えられた仕事の中にやりがいを見出す、というまた違ったテーマになってしまい、話が拡散してしまうからです。
どう思いますか?
※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。
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