松下幸之助と『経営の技法』#54

4/9の金言
 月給をもらうということはプロである。お互いにプロとしての自覚があるかどうか。

4/9の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 プロ=職業専門家=飯が食える≠アマチュア
 お客は容易くお金を払ってくれない。お客は慈善の心で払いはしない。プロを志すことは容易でなく、保持するための努力も並大抵ではない。
 会社や官庁に入り、月給をもらうということは、自立したということであり、プロの仲間入りをしたということである。芸能界やスポーツ界の人々と同じく、またプロとしての厳しい自覚と自己練磨が必要となる。
 お互いにプロとしての自覚があるかどうか。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、従業員にプロとしての自覚を求めています。これは、もちろん、従業員一人ひとりの能力が高いほど会社全体の能力が高まる、という単純な数学的議論でもあります。
 しかし、経営で重要なのは、単純な労働力の集合体を作ることではなく、組織立てて効率的に、かつ永続的に機能する組織を作ることです。そのため、経営学でも、幾何学的な組織論や指揮命令体系などの構造物が議論されるだけでなく、①会社や職場の「場」としての重要性や、②従業員の意欲を高めるための心理学的な分析など、よりソフトな面も、重要な研究対象として議論されています。
 ここで、松下幸之助氏が従業員にプロの自覚を求め、自己練磨を求めることは、この①②を前提とした議論です。
 というのも、給与所得者も全員プロである、と位置付けることは、一人だけでなく全員がプロであり、仲間である、という意識につながります。他人の指示を待つだけの素人が集まった烏合の衆ではなく、それぞれがプロとして自覚を持す集団となれば、その集団自身が考え、行動するようになり、「場」ができあがってきます。また、プロとしての自覚があれば、他人の指示を待つような受け身な態度ではなく、より積極的に業務に取り組むようになります。
 そして、このような①場や②意識ができてくれば、リスク管理の問題に対しても、経営判断に関する問題に対しても、自ずとその対応力が高まります。それは、単なる労働力の総和でなく、①場や②意識が高まることで、組織の活力、ひいては組織全体の能力が高まっていき、労働力の単純な総和を超えた力を発揮できるようになるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の資質の1つのポイントとして、従業員のプロ意識を高めることで、①組織の場を作り、②従業員の積極的な活動を促すことができる、という能力が重要であることがわかります。
 特に、「プロ意識」が重要でしょう。
 というのも、たしかに経営者は全従業員をリードしてもらわなければなりませんが、しかし全従業員の業務を指示しなければならない、というと組織の大きさに限界が出ます。経営者や上司の指示を待つのではなく、自ら経営的に問題点を発見し、解決策を考え、実行できるような人材が多くいなければ、組織は大きくなりませんし、したがって大きな仕事もできません。経営者は、社内の数多くのリーダーたちの方向性を揃え、議論を整理し、資源配分を適切に行うなどの調整をするのが仕事であり、重大な意思決定について責任もって取り組むことに専念すべきなのです。
 そのために、従業員にプロ意識を持たせることが、経営の手法として意義があるのです。

3.おわりに
 経営の神様が、従業員たちをプロとおだて、自覚をうながすからには、一人ひとりの能力向上だけにとどまらない、会社経営そのものにつながる大切なものが含まれるはずです。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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