伊藤義康

美しい橋に興味があります。その歴史にも! 30編で、ようやくポルトガルのドナ・マリア・…

伊藤義康

美しい橋に興味があります。その歴史にも! 30編で、ようやくポルトガルのドナ・マリア・ピア橋にたどりつきました。

マガジン

  • 橋のはなし

    人類の三大発明といえば、「道」「階段」「橋」である。中でも、橋は、河を渡るための手段として始まり、創造的思考に基づいて様々な発展を遂げて現在に至っている。その架橋の歴史と美しい姿は、多くの人々に感動を与え続けている。

記事一覧

33.地味なトラスに隠れた挑戦ーポーランドのマウジツェ橋

スウドヴァヤ川に架かるマウジツェ橋  「Most w Maurzycach(マウジッツェ橋)」は、ポーランド中部のズドゥニ市マウジツェ村にあり、スウドヴィヤ川に架かる田舎の地味…

伊藤義康
1日前
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32.ゴシック様式大聖堂とも調和するーケルンのホーエンツォレルン橋

ライン川に架かるホーエンツォレルン橋  ドイツのケルン中央駅南端を南北に流れるライン川に架かるHohenzollern Bridge(ホーエンツォレルン橋)は、技術者のFritz Bee…

伊藤義康
8日前
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31.青い奇跡の橋ードレスデンのロシュヴィッツァー橋

エルベ川に架かる美麗なロシュヴィッツァー橋  ドイツ・ドレスデンのエルベ川に架かるLoschwitzer bridge(ロシュヴィッツァー橋は、橋長: 280m、全幅:12m、高さ:24m…

伊藤義康
2週間前
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30.あのエッフェルが設計したーポルトのドナ・マリア・ピア橋

鋳鉄から錬鉄への進化  一般に、鋳鉄には2.5~4.0%の炭素(C)を含んでおり、ケイ素(Si)の含有量が多いと黒鉛(グラファイト)塊が析出する。溶けた鋳鉄を鋳型に流し…

伊藤義康
3週間前
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29.異彩を放つイタリアの木造橋ーベネチアのアカデミア橋

  鋳鉄アーチ橋から木造アーチ橋への道  15~16世紀に入ると、石造り「半円アーチ橋」から「扁平円弧アーチ橋」への技術革新が生じた。半円アーチ橋では橋の高さが径…

伊藤義康
4週間前
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28.ブレークスルーを実現ー英国アイアン・ブリッジ

石材・木材から鉄へのイノベーション  橋梁の構造材料として多用されている石材やコンクリートは、引張強度は低いもの圧縮強度と剛性が優れている。そのため、圧縮力の…

伊藤義康
1か月前
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27.異彩を放つ英国の木造橋ーケンブリッジの数学橋

石造りアーチ橋から木造アーチ橋へのイノベーション  古代ローマ帝国の建国は紀元前753年とされているが、その最盛期には、欧州各地でアーチ水道橋が建造された。スペイ…

伊藤義康
1か月前
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26. 欧州で最も古い木造橋ースイスのカペル橋

欧州の屋根付き木造橋  欧州では、木造橋の建設は15世紀に入って活発化し、17~18世紀に最盛期を迎えた。特に、スイスのルツェルン出身のヨーゼフ・リッターとトイフェ…

伊藤義康
1か月前
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25.天才のひらめき!ーダ・ヴィンチのサルバティーコ橋

国内での木造刎橋の発展  正確な架橋年は不明であるが、「甲斐叢記」によれば、1226年(嘉録2年)の文書に「甲斐の猿橋」の記載が見られる。  1662年(寛永3年)、…

伊藤義康
1か月前
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24.現代の浮橋へと続くー越中の神通川舟橋ー

橋の起源について  『橋の起源に関しては、川を渡るために飛び石を利用したり、川をまたいだ風倒木の上を動物が渡るのを見て考え出された。また、猿の群れが深い谷を渡…

伊藤義康
2か月前
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23.イノベーションを積み重ねたー周防の錦帯橋ー

情報を収集して何が問題かを明らかにする  深い谷のように橋脚を立てるのが困難な場合には、桁橋に替わる新たなアイデアが必要である。古の時代にも、創造的思考による…

伊藤義康
2か月前
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22.何が問題かを明らかにするー加賀の「こおろぎ橋」ー

情報を収集して何が問題かを明らかにする  深い谷のように橋脚を立てるのが困難な場合には、桁橋に替わる新たなアイデアが必要である。古の時代にも、創造的思考による…

伊藤義康
2か月前
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21.残ること残すことの大切さー日光の神橋ー

日本三奇橋について(その2)  国立国会図書館HPのレファレンス共同データベースによれば、三奇橋の記述がある書籍として4冊が紹介されている。  「日本名数辞典」(…

伊藤義康
2か月前
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20.学びに基づく進化を観るー越中の愛本橋ー

何故、越中の愛本橋が架けられたのか?  北アルプスを源とする黒部川は水量が多く、立山連峰に挟まれた峡谷を急勾配で流れ下り、峡谷を抜けると日本海に向けて最大半径1…

伊藤義康
2か月前
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19.イノベーションを起こしたー甲斐の猿橋ー

桁橋から片持梁橋へのイノベーション  文明が発展したメソポタミアや中国沿岸地域とは異なり、国内では森林資源が豊富なため、石橋とは異なる木造橋が独自の発展を遂げ…

伊藤義康
3か月前
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18.屋根だけでなく壁も付けたー廊下橋

 日本で多用された木造橋の大きな課題は、その耐久性の向上であった。そのため、雨水の侵入を防ぐ「屋根付き橋」が架けられた。この屋根付き橋の発想は、部屋と部屋とを…

伊藤義康
3か月前
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33.地味なトラスに隠れた挑戦ーポーランドのマウジツェ橋

33.地味なトラスに隠れた挑戦ーポーランドのマウジツェ橋


スウドヴァヤ川に架かるマウジツェ橋

 「Most w Maurzycach(マウジッツェ橋)」は、ポーランド中部のズドゥニ市マウジツェ村にあり、スウドヴィヤ川に架かる田舎の地味な橋である。

 しかし、この橋はリヴィウ工科大学教授のStefan Bryla(ステファン・ブリワ)の設計による鋼鉄製で、欧州初の全溶接橋である。1928年12月に完成し、翌年8月に開通した道路橋である。

 「マウジ

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32.ゴシック様式大聖堂とも調和するーケルンのホーエンツォレルン橋

32.ゴシック様式大聖堂とも調和するーケルンのホーエンツォレルン橋



ライン川に架かるホーエンツォレルン橋

 ドイツのケルン中央駅南端を南北に流れるライン川に架かるHohenzollern Bridge(ホーエンツォレルン橋)は、技術者のFritz Beermann(フリッツ・ベーアマン) とFreidrich Dirkson(フリードリッヒ・ディルクソン)の設計で、1911年5月、皇帝ヴィルヘルム2世により開通した鉄道/道路橋である。
 当時ドイツを統治して

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31.青い奇跡の橋ードレスデンのロシュヴィッツァー橋

31.青い奇跡の橋ードレスデンのロシュヴィッツァー橋


エルベ川に架かる美麗なロシュヴィッツァー橋

 ドイツ・ドレスデンのエルベ川に架かるLoschwitzer bridge(ロシュヴィッツァー橋は、橋長: 280m、全幅:12m、高さ:24m、最大スパン:147m、総重量:約3800トンの鋼鉄製の片持ち梁トラス橋である。
 淡い青色の塗装が、周囲の赤い屋根、緑の木々と良く調和している。

 土木技術者であるClaus Koepcke(クラウス・ケ

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30.あのエッフェルが設計したーポルトのドナ・マリア・ピア橋

30.あのエッフェルが設計したーポルトのドナ・マリア・ピア橋


鋳鉄から錬鉄への進化

 一般に、鋳鉄には2.5~4.0%の炭素(C)を含んでおり、ケイ素(Si)の含有量が多いと黒鉛(グラファイト)塊が析出する。溶けた鋳鉄を鋳型に流し込み凝固させる時に収縮するが、黒鉛塊は膨張するために鋳型に近い鋳物を造ることができる。
 鋳鉄は炭素含有量が多いほど、鋳造し易く、被削性に優れ、硬さ、耐摩耗性、圧縮強度は高くなる。しかし、延性や靭性(脆さ)は低く、溶融温度が高く

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29.異彩を放つイタリアの木造橋ーベネチアのアカデミア橋

29.異彩を放つイタリアの木造橋ーベネチアのアカデミア橋


 

鋳鉄アーチ橋から木造アーチ橋への道

 15~16世紀に入ると、石造り「半円アーチ橋」から「扁平円弧アーチ橋」への技術革新が生じた。半円アーチ橋では橋の高さが径間(スパン)の半分となるが、扁平円弧アーチ橋では橋の高さを抑えてスパンを長くできる。
 このような偏平円弧アーチ橋への移行を可能とした裏には、アーチ橋の設計技術の大きな進歩があった。

 一方、欧州では15世紀に入ると「木造橋」の建

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28.ブレークスルーを実現ー英国アイアン・ブリッジ

28.ブレークスルーを実現ー英国アイアン・ブリッジ


石材・木材から鉄へのイノベーション

 橋梁の構造材料として多用されている石材やコンクリートは、引張強度は低いもの圧縮強度と剛性が優れている。そのため、圧縮力のみが作用する石造りアーチ橋の発展を支えた構造材料である。

 特に、石材の代替となるコンクリートに関しては、弱点とされる引張強度を、鉄筋コンクリートやプレストレス・コンクリートなどの複合化技術により改善することで適用範囲を著しく拡大した。

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27.異彩を放つ英国の木造橋ーケンブリッジの数学橋

27.異彩を放つ英国の木造橋ーケンブリッジの数学橋


石造りアーチ橋から木造アーチ橋へのイノベーション

 古代ローマ帝国の建国は紀元前753年とされているが、その最盛期には、欧州各地でアーチ水道橋が建造された。スペイン・セゴビアの中心部に建造されたセゴビア水道橋(Aqueduct of Segovia)は、現存する水道橋の中でも最大規模である。 
 紀元1世紀頃に建造され、中央部分は2層構造(2階建て)で高さは基礎部分を含めて最高で28mに達する

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26. 欧州で最も古い木造橋ースイスのカペル橋

26. 欧州で最も古い木造橋ースイスのカペル橋


欧州の屋根付き木造橋

 欧州では、木造橋の建設は15世紀に入って活発化し、17~18世紀に最盛期を迎えた。特に、スイスのルツェルン出身のヨーゼフ・リッターとトイフェル出身のハンス・ウルリッヒ・グルーベンマンは18世紀後半にスイス・ドイツで木造橋を多数建設している。

 その多くはアーチとトラスを組み合わせた構造で、長いスパンを架橋することで人々に衝撃を与えた。現在でも、積雪量の多いスイス・ドイ

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25.天才のひらめき!ーダ・ヴィンチのサルバティーコ橋

25.天才のひらめき!ーダ・ヴィンチのサルバティーコ橋


国内での木造刎橋の発展

 正確な架橋年は不明であるが、「甲斐叢記」によれば、1226年(嘉録2年)の文書に「甲斐の猿橋」の記載が見られる。

 1662年(寛永3年)、加賀藩5代藩主の前田綱紀の指図を受けて、外作事奉行の笹井正房が「越中の愛本橋」を架橋した。

 室町時代の旅行記「回国雑記」には、1486年(文明18年)に聖護院の門跡道興准后が記した紀行文では「日光の神橋」を訪れており、当時広

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24.現代の浮橋へと続くー越中の神通川舟橋ー

24.現代の浮橋へと続くー越中の神通川舟橋ー


橋の起源について

 『橋の起源に関しては、川を渡るために飛び石を利用したり、川をまたいだ風倒木の上を動物が渡るのを見て考え出された。また、猿の群れが深い谷を渡るときのモンキーブリッジを見て、谷を渡る方法として考え出されたなどの諸説がある。』と記した。

 いずれも想像の域を出ないが、人類が自然の中で情報を収集し、橋というアイデアを見つけ出したことは間違いないであろう。これを積極的に発展させて利

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23.イノベーションを積み重ねたー周防の錦帯橋ー

23.イノベーションを積み重ねたー周防の錦帯橋ー


情報を収集して何が問題かを明らかにする

 深い谷のように橋脚を立てるのが困難な場合には、桁橋に替わる新たなアイデアが必要である。古の時代にも、創造的思考によるイノベーションが起きた。

 国内では、豊富な木材を利用した片持梁橋のアイデアが実用化され、刎橋(桔橋)形式が広がった。「甲斐の猿橋」、「越中の愛本橋」などなど。

 一方、広い川幅への対応では、川中に幾つもの橋脚を立て、その上に橋桁を渡

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22.何が問題かを明らかにするー加賀の「こおろぎ橋」ー

22.何が問題かを明らかにするー加賀の「こおろぎ橋」ー


情報を収集して何が問題かを明らかにする

 深い谷のように橋脚を立てるのが困難な場合には、桁橋に替わる新たなアイデアが必要である。古の時代にも、創造的思考によるイノベーションが起きた。

 国内では、豊富な木材を利用した片持梁橋のアイデアが実用化され、刎橋(桔橋)形式が広がった。「甲斐の猿橋」、「越中の愛本橋」などなど。

 当初、日光の神橋も同じ刎橋形式であったが、1636年(寛永13年)の東

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21.残ること残すことの大切さー日光の神橋ー

21.残ること残すことの大切さー日光の神橋ー


日本三奇橋について(その2)

 国立国会図書館HPのレファレンス共同データベースによれば、三奇橋の記述がある書籍として4冊が紹介されている。

 「日本名数辞典」(1979年、東京堂出版)では、三奇橋として山口県の「錦帯橋」、山梨県の「猿橋」、富山県の「愛本橋」をあげている。

 「名数数詞辞典」(1980年、東京堂出版 )では、「錦帯橋」、「猿橋」、「愛本橋」をあげ、一説として愛本橋のかわり

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20.学びに基づく進化を観るー越中の愛本橋ー

20.学びに基づく進化を観るー越中の愛本橋ー


何故、越中の愛本橋が架けられたのか?

 北アルプスを源とする黒部川は水量が多く、立山連峰に挟まれた峡谷を急勾配で流れ下り、峡谷を抜けると日本海に向けて最大半径13.5km、扇頂角約60℃の大きな扇状地を形成している。

 扇状地では、雪解け水に豪雨が重なると「あばれ川」と化し、川筋も一筋に定まらず、幾筋にも分かれて流れたことから「黒部四十八ヶ瀬」とも呼ばれ、北陸道の難所の一つであった。

 越

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19.イノベーションを起こしたー甲斐の猿橋ー

19.イノベーションを起こしたー甲斐の猿橋ー


桁橋から片持梁橋へのイノベーション

 文明が発展したメソポタミアや中国沿岸地域とは異なり、国内では森林資源が豊富なため、石橋とは異なる木造橋が独自の発展を遂げた。

 特に、深い谷のように橋脚を立てるのが困難な場合には、桁橋に替わる新たなアイデアが必要である。古の時代には、創造的思考によるイノベーションが必須であった。

 国内では、豊富な木材を利用した片持梁橋のアイデアが実用化されて大きく発

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18.屋根だけでなく壁も付けたー廊下橋

18.屋根だけでなく壁も付けたー廊下橋


 日本で多用された木造橋の大きな課題は、その耐久性の向上であった。そのため、雨水の侵入を防ぐ「屋根付き橋」が架けられた。この屋根付き橋の発想は、部屋と部屋とをつなぐ「渡り廊下」につながる。
 一方、目的は異なるが、屋根だけでなく塀や壁まで設けた廊下橋の存在も古くから知られている。 

寄藻川に架かる宇佐神宮の呉橋

 大分県宇佐市の「宇佐神宮」は、全国に4万社あまりある八幡社の総本宮で、応神天皇

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