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28.ブレークスルーを実現ー英国アイアン・ブリッジ


石材・木材から鉄へのイノベーション

 橋梁の構造材料として多用されている石材やコンクリートは、引張強度は低いもの圧縮強度と剛性が優れている。そのため、圧縮力のみが作用する石造りアーチ橋の発展を支えた構造材料である。

 特に、石材の代替となるコンクリートに関しては、弱点とされる引張強度を、鉄筋コンクリートやプレストレス・コンクリートなどの複合化技術により改善することで適用範囲を著しく拡大した。

 一方、軽量な木材は引張強度、圧縮強度、剛性(弾性率)共にバランスの取れた構造材料であり、桁橋を原点として、刎橋はねばしから反り橋そりばし(アーチ橋)へと木造橋特有の発展が観られた。

 しかし、木材の耐久性の問題と構造材料としての限界が明らかになる中で、英国で始まった産業革命により、より優れた鉄系の構造材料が出現し、橋を始めとする様々な構造物への適用が急速に進められる。

 鉄は木材や石材に比べて圧倒的に強度と剛性(弾性率)が高い構造材料であるため、設計の自由度が高く、従来の木材や石材を使ったアーチ橋を超える長大橋の実現が可能となった。

表1 金属、石材、木材の材料特性の比較

 鋳鉄は煉瓦れんがと比較して、引張強度は100倍、圧縮強度は60倍と優れている。また、ひのきと比較して、引張強度は同等であるが、圧縮強度は15倍、剛性(弾性率)は10倍と変形しにくい。ただし、重さは17倍となる。

産業革命が始まったアイアン・ブリッジ峡谷

 英国中西部シュロップシャー州のアイアン・ブリッジ峡谷(Ironbridge Gorge)は、以前はセヴァーン峡谷と呼ばれていたが、1986年に峡谷一帯がユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録された。

 18世紀後半に英国で始まった「産業革命」で、セヴァーン峡谷のコールブルックデール(Coalbrookdale)は重要な役割を果たした。元々、この地域では石炭、鉄鉱石、石灰岩、粘土などの原料が豊富に採れ、運搬にはセヴァーン川が使われていた。

 1709年に、コールブルックデールで製鉄業を営んでいたAbraham DarbyⅠ(エイブラハム・ダービー1世)が、木炭精錬に替わるコークス製錬炉の開発に成功し、その後、一族が安価で高品質の鉄の大量生産を行った。安価な鉄は蒸気機関を始め、様々な機械や構造物への適用が進められた。

 1779年、エイブラハム・ダービー3世の時代に、コークス製錬炉が拡張されて鉄を増産し、「コールブルックデール橋(Coalbrookdale bridge)」が架けられた。現在の「アイアン・ブリッジ(Iron Bridge)」である。

 アイアン・ブリッジは、鉄や石炭などを川の対岸に運ぶために使用されていたが、1934年に英国指定遺跡に登録されて車両の通行が禁止され、現在は人道橋となっている。

英国セヴァーン川に架かるアイアンブリッジ

 1779年、英国中西部シュロップシャー州のセヴァーン川が流れる峡谷に、世界初となる鋳鉄製の上路式半円アーチ橋「アイアン・ブリッジ(Iron Bridge)」が架けられ、1781年に開通した。

 建築家Thomas Farnolls Pritchard(トーマス・F・プリチャード)による設計で、製鉄業者Abraham Darby Ⅲ(エイブラハム・ダービー3世)と鋳造技術者John Wilkinson(ジョン・ウイルキンソン)により施工された。

 橋長:60m、全幅:7m、アーチスパン:30.6m、高さ:14mで、橋台はもちろんであるが、橋体も石造アーチ橋を手本としている。装飾が施された美麗なデザインの橋で、アーチの両端は固定支持されている。

 橋は、川に架かる中央部分が鋳鉄製の半円アーチ橋、北岸の橋台には歩行者道として小さな半円アーチ孔が設置され、南岸側には2基の小さな鋳鉄製半円アーチ橋が架けられ、川べりに自動車道が通っている。 

写真1 セヴァーン川に架かる「アイアンブリッジ」のメインスパン
出典:不思議と感動、鋼構造出版

アイアンブリッジの建設と改造

 アイアンブリッジでは、主となるアーチリブ5本を束ね800個あまりの鋳鉄製のリブ材が組み上げられている。

 この時代には、「リベット結合」、「ボルト締結」、「溶接接合」などの技術は開発されておらず、木造橋などで採用された「ほぞ継ぎ」、「あり継ぎ」、「くさび」などに近い嵌合かんごう継手が使われた。

写真2 鋳鉄製リブ材の組み立てには木造継手の技術が採用
出典:不思議と感動、鋼構造出版

 一方、アイアン・ブリッジ周辺は、泥岩や粘土層から成る不安定な地盤であり、19世紀から橋台の側方流動が認められ、基礎の安定上の問題がたびたび報告され、補修と改造が繰り返されてきた。

 実際に、南岸は2基の石造りの陸上アーチ橋であったが、軽量化のために木造橋に架け替え、その後、鋳鉄製のアーチ橋に架け替えられた。
 さらに、20世紀に入ると、鉄筋コンクリート梁を川底に配して地盤を強化し、北岸の石造りの橋台も、軽量化のため鉄筋コンクリートの隔壁構造に改造されている。

 世界遺産の一部となった「アイアン・ブリッジ」においても、「残ること残すことの大切さ」が伺える。


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