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シグノハナシ

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群青先生

群青先生

突然だが、私の学校には群青先生がいる。何を言っているのか分からないと思うのだけれど、名前の破壊力は大いにあると思う。

蓋を開けてみれば、ただ青いシャツをいつも着ている、痩せ型の、無精髭を生やした30歳の先生なのだが、どうも少し変わっている。

いつも理科室にいて、生徒が居ようがお構い無しに、悠々とタバコを吸って、フラスコで沸かしたインスタントコーヒーを嗜む。道徳的には悪いのだろうけども、

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静かな春

静かな春

陽だまりに、一人。忙しなく会社に飼われる日々が続き、一人黄昏ることが多くなった 。
飄々と流れる時間を、静かな神社で持て余して、昼ごはんの惣菜は箸が止まっていた。

この時間が終われば、、そんなことを考えていたら不意に涙が流れてきて、「このまま死んでしまおうか」などと、浅はかな事を考えてしまう。

ふと、顔をあげると、赤いクレマチスの花が咲いていた。春の陽気をスポットライトのごとく浴び

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三題噺チャレンジ シグ編

三題噺チャレンジ シグ編

俺が住んでいる町は、裏路地が多々ある。治安もそんなに良くはねえ。
ひとたび裏に入ろうものなら、容赦なく額に風穴が空く。16歳まで生きたなら、銃口のひとつや、ふたつくらい見飽きてるってもんだ。

 だが、住めば都なんてのはよく言ったもので、案外ここも悪かねぇ。治安の悪さに目を瞑れば、物価も安いし、飯も美味い、おまけに治安の悪さで家賃も安いときた。俺みたいなゴロツキには、心地いいくらいある。

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愚者

愚者

青天の霹靂。雲ひとつない青空を見て、私は思うことがある。

「死ぬには今日がいい」

と。

産まれ落ちて、生きるレールを引かれて、反抗することも、あまつさえ提案さえ出来ずに漠然と生きてきた。何か功績を出したとしても、他人に自慢として使われた気がして。逆に残せなければ罵倒される時もあった。

愛されていないのか、そう考える時もあった。

いいえ。

愛されているのでしょう。

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残雪

残雪

忙しなく動く街並みを見下ろして、だだっ広い屋上で、1人白煙をこぼす。飄々と流れるタバコの煙。頭を垂れて手すりに寄りかかった。

上京して3年の月日が流れた。目まぐるしくすぎる日々に引きずられて、あれよあれよとハタチになった。屈託のない笑顔を煌めかせていたあの頃はもうなくて。大人になった振りをして、笑うことも忘れていた。

街に残る残雪は、残り少ない。僕の心も、あと幾ばく。残雪なのだろうな

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憧れ

憧れ

首筋に垂るる一滴の汗、青ざめたその唇、生にしがみついた瞳、畏怖を含む荒い吐息。
口に噛ませたタオルからは、血がにじみでている。よほどかみ締めているのだろう。

この命は、今日終わる。

首筋に手を当てると、脈打つ鼓動がまるで生きたいと叫ぶように鳴っている。死に直面した人の体は、正直に叫ぶ。

命の終点は、真夏の夜の花火のように、一瞬の輝きで、望月に頭を垂れるすすきのように、かくも美

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葬式

葬式

10月の終わり、僕は黒いスーツに身を包んで、肌寒いからコートを羽織って、久しぶりに引っ張り出した革靴を履いている。

雨の降る葬儀場の石畳は、しっとりと濡れていて、反射した参列者が歪んで見える。僕は
、その道をパシャパシャと歩いて行く。

4年付き合った彼女が死んだ。

肌寒くなった朝に、冷たくなって死んだ。

「この度はお悔やみ申し上げます。」



受付を済ませて、テンプレ

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コーヒー

コーヒー

天気予報は雨で、窓を叩くような雨の音が店内に響き、テンポのいいボサノバの音色は、雨音を中和するようになっている。

アンニュイな私は、今日もお決まりの席に座り、コーヒーをすする。

苦い

琥珀色で満たされた白いマグカップは、まだ二口しか口をつけていない。

遅れてやってきた店員が、すいませんと角砂糖が入った瓶を持ってきた。

私には、ルールがある。角砂糖を3つ、必ずコーヒ

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