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がんばれ、お嬢様!!|『シービスケット』(3)

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テーマ発表!!


 第1回第2回に引き続き、映画「シービスケット」をベースに新しい物語を妄想します。

※「シービスケット」のストーリーなどについては、第1回の記事をご参照ください。


妄想開始!


嘉村 「シービスケット」は、人生絶不調の4人(3人 + 1頭)が出会い、チームを組んで成功を収め、人びとの希望の星となる物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……前回に引き続き、一体どんな物語にするといいかディスカッションしてまいりましょう!

三葉 承知しました。

嘉村 前回ご紹介したのは、「『シービスケット』 ~『燃えよ、男子華道部!』編」でした。


案②


嘉村 それでは「案②」にまいりましょう!

三葉 はい。「案②」は、「『シービスケット』 ~『がんばれ、お嬢様!』編」です。


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嘉村 お嬢様!

三葉 詳細をご説明する前に、「シービスケット」風の物語を作る時に注意すべきポイントを振り返っておきましょう。


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三葉 ……ですね(より詳しくは第1回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。

三葉 さて、以上を踏まえて……「案②」!ストーリーをご紹介しましょう。主人公はお嬢様です。彼女は大富豪の家に生まれ、知的なパパ、優しいママ、親切なメイドらに囲まれて育ちました。ところが……嗚呼!青天の霹靂!一寸先は闇!無常の風は時を選ばず!ある日、パパの会社が倒産してしまった!

嘉村 ほぉ。

三葉 朝起きると、枕元に置手紙がありました「愛する○○よ。あなたのパパとママは会社を潰し、先祖代々の資産をすべて失ってしまいました。この屋敷も、午後には差し押さえられてしまうでしょう。愚かなパパとママを許してください。それから、あなたを置いて雲隠れすることも許してください。頼りないパパとママでごめんなさい」。

嘉村 ふーむ。

三葉 主人公はクスクス笑う。さてはパパとママったら、自分たちの不幸に酔っているわね。いやぁねぇ、悲劇のヒロインぶっちゃって。2人とも子どっぽいんだから。

嘉村 ……随分と冷静ですね。

三葉 ホラ、桁外れのお嬢様って些細なことには動じないものじゃないですか。

嘉村 いや、知り合いに「桁外れのお嬢様」がいないのでわかりませんが……。

三葉 肝が据わっているというか、妙に達観しているというか。

嘉村 ふむ。

三葉 まぁ、それはいいとして……とにかく破産です。

嘉村 ええ。

三葉 そして、いざとなると人間というのはじつに薄情なもので……昨日までは従順だった使用人らが、先を争って金目のものを奪い取り、屋敷から去っていった。

嘉村 ふむふむ。

三葉 一方、桁外れのお嬢様たる主人公は、ここでも冷静です。彼女は「ふーん。餌を奪い合う野生生物みたいねぇ」なんて考えながら使用人たちの争いを眺めていました。

嘉村 マンガ「鋼鉄の華っ柱」みたいですね。


三葉 そこへ……1人の若いメイド(以下、A子)がやってきた。A子はか細い声で言う「お嬢様、お茶が入りました」。主人公が問う「あら、A子。あなたはあの闘争に参加しなくていいの?」。

嘉村 ふむ。

三葉 A子は首を横に振った「私には行くところがありません。最後までお嬢様のお傍にいさせてください」。彼女は天涯孤独の身なのです。屋敷に住み込みで働いていました。

嘉村 なるほど。

三葉 主人公は、A子を連れて屋敷を出ました。といっても、行く当てはありません。2人はとりあえず喫茶店に入る。主人公はウキウキです。「へぇ、これが庶民御用達の喫茶店ってヤツなのね。ふーん。この小汚い感じが落ち着くわね。気に入ったわ!」。

嘉村 天然お嬢様か……。

三葉 2人は着席。そして、主人公が口を開いた「この広い世界の中で、私たちは2人きり。他に頼れる人はいないわ。よろしくね、A子」。主人公が手を伸ばした。A子は縮こまる「そんな……」。「いいからいいから。ホラ、手を出してよ」。A子がおずおずと手を差し出し、2人は握手を交わしました。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公が言った「早速だけど」。彼女は、カバンから銀行通帳を取り出しました。A子が覗くと……残高は1億円!あまりのゼロの多さに、A子が目を回す「こっ、こんな大金、どうされたんです!?資産はすべて差し押さえられたはずでは……」。主人公がニヤッと笑う「私のパパとママって、ホラ、あんな人たちでしょ。すぐに他人を信じちゃう甘っちょろい人。だからいつかこんな日が来ると思って、お小遣いの一部を貯金していたのよ」。

嘉村 能天気に見えて、しかしなかなか慎重で、先見の明のある主人公ですね。

三葉 そうですね。両親よりもよほどしっかり者です。

嘉村 ふむ。

三葉 A子の顔が上気した「こっ、これだけあれば十分暮らしていけますね!あー、よかった!私、本当は心細くて仕方がなかったんです!」。A子の目に涙が浮かぶ。

嘉村 ふむふむ。

三葉 しかし、主人公は首を横に振った「ダメよ!」。「えっ!?」「こんなはした金じゃ、どうしようもないわ」「はした金……」「さっき考えてみたんだけどね」「ええ」「私、最低でも12LDKにトイレ3つ、お風呂3つは必要なのよ」「……トイレ、3つもいります?」「あら、知らないの?便秘の時はトイレを変えるといいのよ。あなたも試してみなさいよ」「……お風呂はどうです?1つで十分ではありませんか?」「んー、厳選して3つまで絞ったんだけど……」「……」「ホラ、ヒノキのバスタブでしょ。猫足のバスタブでしょ。あと、五右衛門風呂に入りたくなることもあるわよね」。なるほど。確かに、屋敷には浴室が10個あった。

嘉村 うーむ。

三葉 主人公は大きくうなずく「つまりね……そう!商売よ!この1億円を元手に商売をして、お金を増やすのよ!」。

嘉村 なるほど。

三葉 はて。それでは、一体どんな商売をしようか。2人はアレコレ頭を悩ませる。しかし、片や生粋のお嬢様、片やメイド。あまりにも世間知らずです。アイデアなんて出るはずもない。とはいえ……A子は必死に考える。何しろ、ここで失敗したら一巻の終わり。2人を待っているのは野宿生活です。野宿は避けたい。A子はうんうん唸る。考える。考える。そんな彼女を見て……ふと主人公が思いついた。

嘉村 ほぉ……一体何でしょうね。

三葉 主人公は、A子の顔をまじまじと見つめて言った「あなた……」「えっ?何でしょう?」「とても美人ね」。

嘉村 ん?

三葉 A子が動揺する「えっ……えっ!?なっ、何をおっしゃっているんですか!?……ハッ!まさか!私を沈める気ですか!?殿方のナニをナニするところに沈める気ですか!?」。

嘉村 ……。

三葉 主人公が呆れる「あなた、何言ってるのよ」。A子は赤面する「……失礼しました」。主人公は腕を組む「ふーん……恥ずかしそうな顔もいいわね」「とんでもありません……」「ホラ、俯かないの。こっちを向きなさいよ」。主人公はA子の顎をグイと持ち上げる。A子は思わず声を漏らした「あっ!そんな……恥ずかしいですぅ……」。

嘉村 どことなく、ハルヒとみくるを彷彿とさせるやりとりですね。


三葉 主人公は満足げに微笑んだ「うんうん。あなた、とても色っぽいわよ」「そんな……私なんかよりお嬢様の方がよっぽど……」「ハイハイ。いいのよ、そういうのは。私、自分が美人だってことくらいちゃんと心得ているわ。まっ、私は100人に1人の美人ってところね。でもね、あなたはそんな比ではないわ!磨けば100万人に1人の美人になれる!ズバリ、あなたはダイヤモンドの原石よ」。

嘉村 ほぉ。

三葉 そして、主人公は不敵な笑みを浮かべました「いま決まったわ!私たちの商売が!」「えっ……」「A子、あなた……アイドルになりなさい!」。A子はポカンとする。そしてひっくり返った「アッ、アイドルぅ!?」「そうよ。アイドル界のてっぺんを取るのよ!」「ええっ!」「これは社長命令よ!」「既決事項なんですね……」。

嘉村 ははぁ。

三葉 とまぁこうして、主人公とA子はアイドル界に殴り込みをかけることになりました。しかし、当然2人きりでは何もできぬ。そこで、主人公は仲間を探します。

嘉村 ふむ。

三葉 主人公はまず、芸能界に詳しいB氏をマネジャーとして雇った。続いて、ブロードウェイで腕を磨いたC先生に、歌とダンスのレクチャーを依頼した。

嘉村 ふむふむ。

三葉 かくして……ここにチームが誕生!彼らは作戦を練り、コネクションを広げ、そしてA子をアイドル界のてっぺんに押し上げるべく奮闘します。

嘉村 なるほど。

三葉 さてここで、「シービスケット」を振り返ってみましょう。すなわち……「シービスケット」の主要キャラは、4人とも「大切な何か」が欠けた人生を送っていました。

嘉村 ええ。

三葉 しかし4人が出会い、チームを結成したことで……そう!その「欠けていたもの」を得る(取り戻す)ことに成功します。


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嘉村 ふむ。

三葉 では、「案②」ではどうか?以下の表をご覧ください。


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三葉 つまり……主人公は大富豪の1人娘です。蝶よ花よとかわいがられ、何不自由なく育てられました。「転ばぬ先の杖」という言葉がありますが、彼女の場合、常に100本以上の杖が用意されていたのです。無論それは幸福なことですが……人間、時には失敗することだって大切。

嘉村 確かに。

三葉 自分で考え、自分で動き、そして痛い目に合って学ぶ……。主人公の人生には、こうした「自由」が不足していました。しかしいま、彼女は芸能界の荒波に乗り出した。「自由」を得たのです。

嘉村 ふむ。

三葉 次に、A子。彼女の人生に不足していたものとは何か?……「自信」です。彼女は、幼い頃からおどおどおどおど。メイドになり、主人公の世話をするようになってからはその傾向に拍車がかかった。才色兼備で頭脳明晰、運動神経も抜群で、何よりもいつも堂々としているお嬢様!それに比べて私ときたら……。しかしアイドルとして活動を続ける内に、彼女の中に「自信」が芽生える。

嘉村 なるほど。

三葉 続いて、B氏。彼は、とある芸能事務所の敏腕マネジャーとして知られていました。順風満帆な人生だった。ところがある日……所属タレントが麻薬取引に関与していたことが発覚!しかも逮捕間近とのこと!彼は悩み、苦渋の決断を下した。すなわち、タレントと事務所を守るべく、すべての罪をかぶって身代わりに逮捕されたのです。

嘉村 マンガ「悪の華」みたいですね。


三葉 数年後、彼が出所すると……嗚呼、虚しい!タレントも事務所も知らん顔です。犯罪者には関わりたくないと言う。なるほど。その通りだ。芸能界はイメージが大切。前科者と付き合うのはよくない。しかし……それじゃあオレは一体何のために身代わりになったんだ?彼は復讐を考えた。事務所を爆破し、タレントを殺してやろうかとも考えた。だが、そんな気力すらも湧いてこない。ただただ、自分のアホさ加減に嫌気が差した。オレはどこまでお人よしなんだ!彼はすっかり生きがいを失い、酒に溺れた。そんな彼に声をかけたのが……そう、我らが主人公でした「あなた、人生に絶望するのはまだ早いわよ!私に力を貸しなさい!」。かくしてB氏は、再び生きがいを得たのでした。

嘉村 ふむふむ。

三葉 最後に、C先生。上述の通り……ブロードウェイで腕を磨いた一流のトレーナ-です。彼女は両親の病気をきっかけに日本に帰国。「よーし!日本の芸能界に革新をもたらすわよ!」と意気込んでいたのですが……嗚呼、残酷!彼女の歌とダンスはあまりにもレベルが高すぎた!彼女が情熱を注ぎ込める相手は見つかりませんでした。彼女は腐った。アメリカに戻りたい。しかし、病気の両親を放っておくわけにはいかぬ。彼女は鬱々とした毎日を過ごした。そこに現れたのが……そう、A子です。A子には素晴らしい声帯があった。しなやかな筋肉があった。主人公は言った「ダイヤモンドの原石に興味はないかしら?」。無論、ある。こうしてC先生は、情熱をぶつける対象を見つけたのでした。

嘉村 なるほど。

三葉 このように……彼らはチームを結成し、「人生に欠けていたもの」を得た(取り返した)のです。

嘉村 ふむ。

三葉 その後、彼らはA子を盛り立て、やがて芸能界のてっぺんに上り詰める。さらに、彼らの情熱は多くの若者に刺激を与えました。「シービスケット」が世界大恐慌に苦しむアメリカの人びとを勇気づけたように、A子は長引く不況に苦しむ日本の若者たちを奮起させたのだった。……これが「案②」のアイデアです。

嘉村 なるほど。

三葉 以上、「『シービスケット』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 「シービスケット」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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