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「どこから見ても善人としか言い得ぬ『善人キャラ』」はつまらない!!|『見知らぬ乗客』に学ぶテクニック

名作映画を研究して、創作に活かそう!

本記事では、「見知らぬ乗客」に【「人間の複雑さ」の描き方】を学びます。

※「見知らぬ乗客」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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「人間の複雑さ」とは?


「どこから見ても善人としか言い得ぬ『善人キャラ』」や、「悪人以外の何者でもない『悪人キャラ』」というのは、どうにも魅力に欠けるものですよね。「このキャラ、薄っぺらいなぁ」と感じてしまう。


というのも……「善人」と言えども人間です。時には、使命を投げ出したくなることだってあるでしょう。私利私欲のために間違った道を進むことだって、あって当然です。

※例えば、映画「スパイダーマン」のピーター・パーカー青年や、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジくんを思い出してみてください。


「悪人」も同様です。彼らだって、ある側面から見れば「正義」なのかもしれない。

※映画「ゴッドファーザー」のヴィトー・コルレオーネ(マフィアのドン)や、「羊たちの沈黙」のレクター博士が著名な例でしょう。


「傑作」とされる作品の多くには、こうした「人間の複雑さ」が描かれているものです。

本記事で扱う「見知らぬ乗客」も例外ではありません。しっかりと「人間の複雑さ」が描かれている。

すなわち、本作のメインキャラは2人の若い男性、ガイとブルーノ。基本的には、「ガイ = 善人」「ブルーノ = 悪人」です。しかし、一概にそうとも言い切れぬ演出・エピソードが盛り込まれている。

詳しくご説明しましょう。


ざっくりキャラ紹介


▶ ガイ:20代半ば頃の男性。テニスプレイヤー。妻はミリアム(離婚協議中)。

▶ ブルーノ:ガイより少し年上(30歳頃?)の男性。富豪の子息。ガイに「交換殺人」を持ちかける。じつは精神異常者であり、「ガイが交換殺人に応じた」と早合点して、ガイの妻(ミリアム)を殺してしまう。


ガイは本当に「善人」なのか?


まずは、「ガイがミリアムを訪問するシーン」(映画開始から10分20秒経ったところで挿入されるシーン)を見てみましょう。

ガイとミリアムは夫婦です。しかし、彼らの関係はすでに破綻している。離婚に向けて協議を重ねており、今日も話し合いをする予定でした。

ところが……突然ミリアムが「私、離婚しないわよ」と言い出した!


ガイはショックを受けます。というのも、彼はミリアムと離婚後、別の女性(アン)と結婚する予定なのです。どうやらミリアムは、そんなガイの思惑を理解した上で、嫌がらせをしてやろうと考えている様子。

ガイは激昂し、ミリアムを怒鳴りつける「お前のような性悪女は、ろくな目に遭わないからな!」。


ここでシーンが切り替わります。続いて「ガイが公衆電話から、アンに連絡を入れるシーン」です。

いまだ怒りが収まらぬガイは、激しい口調で「話がこじれてしまったよ!離婚する気はないってさ!」と報告。さらに、「はらわたが煮えくり返っているよ!首をへし折ってやりたいくらいだ!」。


……とその時、ガタガタガタガタと大きな音が聞こえてきました。列車の通過音です。じつはガイは、駅前の公衆電話を利用しているのです。

そして通過音のせいで、アンはガイの言葉を聞き取れなかった様子(鑑賞者には聞こえています)。ゆえに、ガイは繰り返す「『あのムカつく女の首をへし折ってやりたい』って言ったんだよ!」。さらにもう1度、「『殺してやりたい』って言ったんだ!」。


「列車の通過音 → 主人公の声が、別のキャラに届かない(鑑賞者には聞こえている) → 主人公が同じことを何度も繰り返す → 主人公の感情・思考が強調され、鑑賞者の心に残る」というユニークな演出ですが……それはさておいて。


この時、「ガイは殺意を抱いていた」と言っても過言ではないでしょう。

実際にミリアムを殺すのはブルーノです。ガイではありません。上述の通り、あくまでも「ガイ = 善人」「ブルーノ = 悪人」なのです。

が、しかし。多くの鑑賞者は「もしもブルーノが手を下さなければ、ガイがミリアムを殺していたのでは?」「2人の間に、一体どれだけの差があるのだろう?」と感じるでしょう。

つまりこれは、「ガイというキャラが、一概に善人とは言い切れぬことを示すエピソード」なのです。


ブルーノは本当に「悪人」なのか?


次に、「ブルーノが、ガイの妻(ミリアム)を殺害するシーン」を見てみましょう。


まずは「尾行シーン」です。すなわち、ミリアムはあばずれ女。彼女は、夜、ボーイフレンド2人と共に遊園地に出かけた。ブルーノは彼らを尾行し、殺害するチャンスを窺う。

ところでこの「尾行シーン」では、ブルーノの「恐ろしさ」が強調されています。例えば、通りすがりの子どもが持っていた風船にタバコの火を近づけ、割ってしまう。また「ハンマーゴング」に挑戦し、見事鉄球をゴングにぶつける。

※ハンマーゴング:古くからある力試しのゲーム。「巨大ハンマーで的を叩く → パワーに応じて、鉄球が跳ね上がる → 鉄球が高く跳ね、頂上に設置されたゴングにぶつかれば『成功』」。つまり、ブルーノは一見紳士然としているが、じつはかなりのパワーの持ち主なのだ。


そして、いよいよその時です。

ミリアムがボーイフレンドから離れ、1人になった。ブルーノはすかさずミリアムに接近。素早く絞め殺す。そして、迅速にその場を立ち去った。

的確な判断力。無駄のない動き。冷静沈着。ブルーノは顔色1つ変えることなく、人を殺めた。嗚呼、何と恐ろしい男か!彼には人間らしい心というものがないのか!


……と思いきや、ここで奇妙なエピソードが挿入されます。

遊園地を出たブルーノは、視覚障害者を見かける。どうやら道路を横断したいようだ。しかし車が多く危険です。ブルーノはスッと近寄り、男性を手助けしてやった。


つまり「残忍エピソード(子どもの風船を割り、怪力を見せつけ、そして容赦なく人を殺す)」の直後に、「善人エピソード」が挿入されているというわけです。

鑑賞者は混乱するでしょう。一体ブルーノは「悪人」なのか?それとも、本質的には「善人」なのか!?

正解は、「どちらともいえない」です。

言うまでもなく、「完全な善人」や「完全な悪人」なんてものは存在しません。誰にだって「善の部分」と「悪の部分」がある。ブルーノも例外ではないのです。


まとめ


以上、ガイにしろブルーノにしろ、「一概に『善人/悪人』とは言い切れぬキャラ」として描かれていることをご理解いただけたと思います。


みなさんの作品には、「どこから見ても善人としか言い得ぬ『善人キャラ』」や、「悪人以外の何者でもない『悪人キャラ』」が登場していませんか?

ひと工夫加えて「人間の複雑さ」を描いてみると、より素晴らしい作品に仕上がるかもしれません。ぜひご検討くださいねー!!


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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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