【時事】 イスラーム①〈増えるムスリム人口と戒律の厳格さの違い〉
こんにちは。
前回の投稿はこちらからお願いいたします。
今回からは数回にわたって「イスラーム」をテーマした投稿を始めていきます。
「宗教」がテーマとなると、なんとなく胡散臭く感じたり、日本人には理解しにくいものだという印象を抱かれたりするかもしれません。
しかし、世界で起きている移民問題、テロリズム、紛争において確実に関わってくる分野でもあることから、これらを理解するにあたって避けては通れないテーマの一つであると私は思っています。
そのため、完璧にマスターはしなくても、教養の一つとして知っておくのも決して悪い話ではないと思います。
ところで、キリスト教、ユダヤ教と並んで世界三大一神教の一つに数えられるイスラームですが、どのような印象をお持ちでしょうか。
何となく戒律が厳しそうな宗教、シーア派やスンニ派と聞くけど違いが分からない、世界で最も信徒の多い国はどこか。抱いている印象や疑問は多岐にわたり、おそらくポジティブなものからネガティブなものまであると予想されます。
私はイスラーム教徒でも専門家でもありませんが、上記のような疑問を解決できるよう、ヨルダン生活を経て得た知見とこれまで読んできた文献などを加味しながら綴っていきたいと思います。
(大学でイスラーム研究をし、現在は学校で宗教の授業を担当しているヨルダン人の友人からもらったコーランの解説書)
【イスラーム教徒の人口】
いきなり「コーランとは」「スンニ派とは」と話し始めると、その瞬間にページを閉じる方がいるかもしれないため、まずは世界に広がり続けるイスラーム教の規模から始めていきたい。
まず、世界には16億人のイスラーム教徒(以下、ムスリム)が存在する。世界の全人口を77億人とすると、実に全人口の約20%をムスリムが占めていることになる。
2015年時点での世界最大の宗教人口はキリスト教徒だが、2060年までの間にキリスト教徒の人口が34%増加すると予想されている一方で、ムスリムの人口はその2倍以上の70%増加すると予測されている。
今もなお、ムスリム人口は他を圧倒する勢いで増加し、2070年には世界人口の3人に1人がムスリムとなり、来世紀には過半数を超えるという予測もある。
ムスリムの割合が増加している理由としては、欧州諸国では出産率が低下しており、その一方でムスリムの出産率が高いことと、欧州に比較的若い移民の流入が続いていることが挙げられる。ムスリムの多産には宗教的な理由もあり、結婚や出産も神の命令であると信じられているためだ。
それでは、世界でもムスリム人口が多い国はどこなのか。
イスラームと聞くと、中東や北アフリカが連想されそうだが、実際はどうか。実は、世界のムスリム人口の約6割はアジアの人々が占めている。
以下、ムスリム人口の多い国ベスト10である。
1位 インドネシア 2億485万人
2位 パキスタン 1億7,810万人
3位 インド 1億7,729万人
4位 バングラデシュ 1億4,861万人
5位 エジプト 8,002万人
6位 ナイジェリア 7,573万人
7位 イラン 7,482万人
8位 トルコ 7,466万人
9位 アルジェリア 3,478万人
10位 モロッコ 3,238万人
文献:イスラム世界(著 私市正年) より引用
Pew Research Center,Muslim Population by Country 2011より、人口比から算出した推定値
意外にも、中東諸国でランクインした国はエジプト、イラン、トルコのみだった。
中東諸国では全人口に占めるムスリムの割合は高いものの、そもそもの人口が上記の国に比べて少ないため、このような並びになった。
【厳格さの違い】
ムスリムはコーランの教えに立脚した生活をしている。
コーランとは、アッラー(神)の言葉をまとめたイスラーム教の聖典であり、根幹をなすものである。正確には「クルアーン」と発音され、アラビア語では「読誦されるもの」という意味をもつ。
コーランについては次回以降に詳しくまとめていく。
コーランによる戒律の厳格度には地域差が存在し、時の政府や権力者の方針によってもその加減は変化する。
ここで一つ「イスラームの棄教」を例に挙げる。
コーランには「イスラームの棄教」は重罪であると記されている。しかし、万が一棄教をする場合、それを犯罪と見なしている国は世界で23か国あり、そのうち死刑と定めているのはアフガニスタン、ブルネイ、モーリタニア、カタール、サウジアラビア、スーダン、アラブ首長国連邦、イエメンの8か国である。
もう一つの例は「女性の服装」である。
私が滞在しているヨルダンでは、「ヒジャーブ」という布を頭部に纏いながらおしゃれやファッションを楽しんでいる女性、「チャドル」という黒い布で顔以外の部分を覆った服を着ている女性、「ニカーブ」という目以外の部分を覆った服を着ている女性が比較的多いように感じる。
完全に全身を黒い布で覆い、目さえも薄く遮られている「ブルカ」を着ている人は、決して多くない。
以下のリンクは、上述した女性の服装「ヒジャーブ」「チャドル」「ニカーブ」「ブルカ」を図解した記事である。
私の印象に残っている体験を一つ挙げると、これは極めて稀有なケースであるが、語学学校の英語コースで同じクラスにいた若い女性はヒジャーブを被っておらず、綺麗に染められた茶色の髪を露にしていた。何回か会話の機会を交わしていくなかで、話の流れからさりげなくキリシタンかと聞いてみた。すると驚くことに、彼女はムスリムだという。更に聞くと、彼女は結婚を経たのち、大学で英語を専攻しているという。
大学進学を含む女性の教育の機会が制限されている国や地域も世界にはあるなかで、結婚を経たのちに大学で教育を受けられること。そして、ヒジャーブの件はコーランの教義を厳格に守っている国であればありえないことではあるが、こうしたリベラルさはヨルダンの一側面を表しているようにも思えた。
繰り返しになるが、これは極めて稀有なケースである。
他にも「男女の共学禁止」「未婚男女交際の死刑の可能性」「同性愛者の死刑の可能性」「姦通が死刑対象」「一夫多妻制の禁止」といった禁止事項なども国や地域によって加減が変わってくる。
こうして見てきたようにイスラームは、他の宗教にも宗派やしきたりの違いがあるように、ひとくくりにはできない部分がある。
初回ということで「イスラーム人口」と「戒律の厳格さの違い」について簡略ながらまとめました。
次回以降、ご存知の方もいると思われますが、イスラームにおいて有名な「食の戒律 ハラール」についてまとめていきます。
【参考文献】
イスラム世界 私市正年
イスラム2.0 SNSが変えた1400年の宗教観 飯山陽
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