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書籍解説No.28「移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線」

こちらのnoteでは、毎週土曜日に「書籍解説」を更新しています。

前回の投稿はこちらからお願いいたします。

今回取り上げるのは「移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線」です。

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【日本の産業を支える外国人労働者たち】

日本国内における外国人労働者の推移や国籍別の割合などは、厚生労働省が発表している「外国人雇用状況」によって確認できます。

それによると、2018年10月時点での外国人労働者は146万463人であり、5年前と比較すると約2倍の急増です。
その数は2008年から年々上昇し続けており、2012年には東日本大震災の影響から減少したものの、ここ数年間の伸びは目を見張るものがあります。

昨今、日本の外国人労働者に関する問題として「外国人技能実習制度」が取り上げられるようになりました。当制度の欠陥や、技能実習生の抱える困難やなどは以前の記事でもまとめています。

しかし、主に日本国内の人手不足が著しい「単純労働」の現場で働いている外国人は「技能実習生」だけではありません。実は、本来は特別な技能や日本語を学ぶために来日してきているはずの「留学生」の多くも、人手不足が著しい現場を維持するための労働力として働いているのです。

「技能実習生」のほとんどは、一般の日本人の目には触れることのない農場や工場、建設現場などで働いています。
その一方で、「留学生」は主にコンビニ、居酒屋や牛丼チェーン店などの飲食店、ドラッグストア、弁当工場などで働いており、現代の日本社会における「便利で安価な暮らし」を支えているともいえます。


【留学生30万人計画】

「留学生30万人計画」という言葉を聞いたことはないでしょうか。

「留学生30万人計画」は、日本を世界により開かれた国とし、アジア、世界の間のヒト・モノ・カネ、情報の流れを拡大する「グローバル戦略」を展開する一環として、2020年を目途に30万人の留学生受入れを目指すものです。

文部科学省「留学生30万人計画」骨子の策定について」より引用

「留学生30万人計画」とは、2008年に福田康夫首相(当時)が打ち出したものです。

優秀な留学生の獲得は先進諸国及びそれらの高等教育機関の課題となっており、各国間で競い合っているような状況です。そのため、日本でも海外からの「高度人材」を求め、日本留学への関心を呼び起こす動機づけや情報提供、大学等の教育機関や社会における受入れ体制の整備、卒業・修了後の就職支援等に至る幅広い施策を検討する、というものでした。

そして、留学ビザの発給基準の緩和などの措置が採られたこともあり、この「30万人」という数字は2020年を待たずして達成されました。
独立行政法人日本学生支援機構によると、2019年5月1日の時点で日本の大学や日本語学校などに在籍する留学生は31万2214人(対前年比13,234人(4.4%)増)に上り、政府の計画は達成された形となりました。

しかし、近年の留学生受け入れ急増の実態は、アジアを中心とする国々からの出稼ぎを目的にした「出稼ぎ留学生」の流入でした。


【「週28時間」という制限】

留学生として来日する外国人は「留学」という在留資格をもっています。この資格は言うまでもなく「日本で勉強をする」ための資格です。

しかし、日本人と同様で学費や生活費などを捻出するためにはアルバイトをしなければなりません。ましてや、彼らのなかには渡航にあたって多額の借金を抱えて来ている人もいるため、その返済のためのお金も稼がなければなりません。
そこで、学業の妨げにならない程度の「資格外活動」として週28時間以内のアルバイトが法律で認められています。もし、28時間の規定を違反してしまえばそれはオーバーワーク、つまり不法就労として扱われ、母国に強制送還の対象になる可能性があります。

(元留学生のベトナム人は入管法違反(資格外活動)で逮捕され、一蘭の社長を含む7人の社員と同社も同法違反(不法就労助長)で書類送検されることになった)

しかし、彼らはそういった強制送還というリスクを冒しても働かなければならない深刻な理由があります。
本著で描かれているように一部の留学生は事業者側から仕事を強制されているケースもありますが、「留学生」である彼らは生活費のほか、学校には授業料や教科書代なども納めなければならないうえ、なかには来日時の渡航の際に送り出し機関(ブローカー)に借金をしてきている人も多いのです。
学業を続けていくため、そして背負った借金を返済するために週28時間を超過して働いている留学生も多く存在します。

ちなみに、この週28時間を厳密に守ったとしてどれほどの額が一か月で得られるのかを計算すると以下のようになります。

時給1,000円 × 28時間/週 =28,000円 (週給)
28,000円 ×  4週(5週) = 112,000~140,000円 (月給)

本来であれば学校は週28時間という規定の順守を指導すべき立場ではありますが、学生が確実に授業料を納められるよう見て見ぬふりを決め込み、留学生に対してアルバイトを斡旋している学校もあります。メディアや文献によると、その主な職場はコンビニ、居酒屋や牛丼チェーン店などの飲食店、ドラッグストア、弁当工場などであり、いずれも人手不足が叫ばれる現場です。

また、詳細は本著に描かれていますが、留学生を完全管理のもとに置き、授業料を確実に納めさせるよう入学時にパスポートや在留カードを取り上げるといった、人道に反する行いをする学校も存在するといいます。

(明るみになった東京福祉大学での「消えた留学生」問題。「NHK クローズアップ現代+」でも取り上げられた)

昨今は「名ばかりの教育機関」が国内に多数存在してきており、いわば「留学生ビジネス」を展開しています。学校を経営する側は大量の留学生を誘致することで莫大な金を集め、学生にはアルバイト優先の生活をさせることで確実に授業料を納めさせるような構図にもなっています。
このような搾取ともとれる構造のもとで留学生が学業に専念することは到底難しいでしょう。そのため、知識や技能、日本語能力などを向上させることができず、なかには高額な授業料を納めたにも関わらず退学を余儀なくされる人もいるのです。

また、「日本に行けば稼げる」「月20~30万が簡単に手に入る」という甘言で学生を誘い、借金を背負わせるような留学を斡旋する悪質なブローカーは国内外に存在します。
しかし、上で述べたように「週28時間以内」の制限を厳密に守っていればそれは到底不可能です。しかし大半の留学生は借金を背負って来日しているため、たとえ法定上限を破り、更に学業が疎かになったとしても働かずを得ないのです。

ここまで述べたように、理想を思い描いて来日した若者らは「留学生ビジネス」の搾取対象として食い潰されている現状があります。


【まとめ】

コンビニは24時間オープンしてもらいたい。
弁当はできるだけ安く買いたい。
宅配便は決まった時間にきちんと届けてもらいたい。
新聞は毎朝毎夕決まった時間に配達してほしい。
しかし、私たちが当たり前のように考えているそんな"便利な生活"は、もはや低賃金・重労働に耐えて働く外国人の存在がなければ成り立たなくなっている。いや、彼らがいなくなれば、たちまち立ち行かなくなる。


「ルポ ニッポン絶望工場 (出井康博)」より引用

今回のテーマは「留学生」でした。

外国人労働者の問題としては、とかく「技能実習生」が取り上げられがちですが、ここで挙げた「留学生」の抱える問題も相当に深刻といえるでしょう。
受け入れる教育環境や法整備が不十分なまま、「留学生」の受け入れ拡大を推し進めたことが、結果として学校の非人道的な振る舞いやブローカーの介入を招く大きな要因の一つとなりました。

政府は上述したような「留学生30万人計画」、そして外国人技能実習制度においては「国際貢献」を大々的に掲げてきました。しかし、前者であれば悪質なブローカーの介入や学校側の非人道的な振る舞い、後者であればブローカーの介入や規定違反・人権侵害を犯す事業所(者)を長らく見過ごしてきたのが実態であり、理想を思い描いて来日した若者らは搾取の対象として食い潰されてきました。

言うまでもありませんが、留学生を受け入れる日本全国の学校がこのような体制を敷いているわけではありません。
なかには長期的な目測をもち、人材確保のために町が税金を投入して外国人の技能養成を図るような自治体もあります。そこでは、上述したような学業そっちのけでアルバイトに明け暮れる必要はなく、留学生が将来的に日本で働くための配慮がなされています。
このような経済的支援によって、留学生が安心して学業に専念できるようなモデルケースを増やしていく必要があると考えます。

最後に、「技能実習生」または「留学生」として来日し、運に恵まれず悪質な事業所や学校に所属してしまった外国人は、のちに日本についてどのような印象を抱くでしょうか。当然彼らは、自身の親族や友人に日本での経験を話すことになるでしょう。
今の日本はアジア地域において、過去の栄光から未だ「選ばれる国」であり続けています。しかし、東南アジアをはじめとした中進国との差は確実に縮まってきており、それは決して目を背けられない現実です。東南アジアでは国によって民主主義のあり方や都市・地方間の格差といった問題は依然としてあるものの、実際に東南アジア諸国の都市部を訪れてみるとその発展の様相にしばしば圧倒されるほどです。

もし数年後か数十年後、周辺諸国から「選ばれなくなった」とき、少子高齢化に伴う深刻な労働力不足に喘ぐ日本は、どのような道を辿るのでしょうか。

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