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第8回 期限前弁済


1 期限前弁済とは

借入金の弁済期は、ローン契約において定められ、通常は期限一括弁済又は分割弁済が設定されます。期限一括弁済は、設定された弁済期まで元本の弁済が生じず、弁済期限に借入金の元本残高全額を返済する約定です。分割返済は最終回まで各回の元本支払が均等であるもの(フルアモチ)や、弁済金額が徐々に大きくなるもの(バルーンアモチ)、最終回のみ返済金額が大きいもの(テールヘビー)などバリエーションがあります。
期限前弁済は、約定されたスケジュールとは異なるタイミングで返済を行うことで、任意期限前弁済と強制期限前弁済があります。契約上重要性がより高いのは強制期限前弁済です。

2 任意期限前弁済

任意期限前弁済は、借入人の手許のキャッシュに余裕がある場合に、借入人の判断で元本の早期弁済を行う弁済です。原則として任意期限前弁済を許容せず、これを行うには貸付人の事前承諾が必要とされる場合もあります。
任意期限前弁済が可能な場合であっても、例えば10百万円以上1百万円単位といった具合に、返済の最低金額や単位が定められることが一般的です。変動金利の場合には、利息支払日においてのみ期限前弁済ができるとされることが多く、これは清算金を発生させない目的で行われます。

3 強制期限前弁済

強制期限前弁済は、予め定められた事由に関して借入人(及び保証人)が現金を受け取った場合に、一定の金額を期限前弁済する義務が借入人に課されるタイプの期限前弁済です。LBOローンは、エクイティに対するデットの比率が高いことなどを理由に、強制期限前弁済が定められることが一般的です。
典型的な強制期限前弁済事由としては、(i)新規借入れ、(ii)新規出資、(iii)資産の売却、(iv)保険金、(v)敷金・保証金、(vi)SPA補償金及び(vii)余剰キャッシュフローの発生が挙げられます。
交渉の論点となりやすいのは余剰キャッシュフローの期限前弁済(キャッシュスイープ)です。貸付人側としては返済に回したいという要求がある一方で、借入人側にはロールアップ、設備投資、マーケティング拡充など対象会社のバリューアップのための各種施策その他の原資として手許キャッシュを利用するニーズがあります。各案件においてこれらの事情をふまえ、キャッシュスイープ規定の可否、「余剰」キャッシュの計算式や期限前弁済に回す割合などが交渉のポイントとなります。

4 まとめ

期限前弁済の条項は、対象会社のキャッシュの取り扱いに関する規定として、ローン契約における重要性が高い条項といえます。また、仮にキャッシュスイープを限定的なものとした場合であっても、手許キャッシュの具体的な利用について対象会社の事業活動に関するコベナンツ条項での制限に服する可能性もあります。タームシートやドキュメンテーションにおいては、これら関連条項も含めて整合的かつ実効的な契約条件になるように留意が必要です。

【次回予告】第9回 表明保証

連載一覧
第1回 “LBO”・“LBOローン”とは
第2回 LBOのストラクチャー(買収プロセス)
第3回 LBOのストラクチャー(SPC)
第4回 ローン契約総論
第5回 レンダー選定
第6回 LBOローン契約総論
第7回 前提条件(CP)


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