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第6回 LBOローン契約総論



1 はじめに

今回は、買収ファイナンスの概要についてお話しいたします。
まず、買収ファイナンスのスキームについて概観した上で、LBOファイナンスについて総論的な説明をしていきます。

2 買収ファイナンスの典型的なスキーム

買収ファイナンスは、大別して、

① 買主自身を資金調達主体とし、買主グループの信用力(コーポレートクレジット)に基づいて資金調達をおこなうコーポレートファイナンス

② 買収用のSPCを資金調達主体として、買主自身のコーポレートクレジットを引当てとせず対象会社の信用力のみを引当てとして資金調達をおこなうノンリコース・ファイナンス

に二分されます。第3回ですでに説明していますが、もう一度確認しておきましょう。
買主としては、ノンリコース・ファイナンスを使うことで、対象会社の信用力を活用して融資を受けることができることや、買主のリスクを限定することができる等のメリットがあります。特に、買主がPEファンドであるような場合には②ノンリコース・ファイナンスが用いられることが一般的です。本稿でも、②のノンリコース・ファインナンスを指して「買収ファイナンス」、「LBOローン」という言葉を用いています。
シンプルな案件における買収資金は、スポンサー(ファンド)によるSPCの普通株式の引受けによる出資と、金融機関等の融資によるローンにより調達されます。
銀行からの融資の額によっては、買主が想定していたレバレッジ比率に満たないような場合もあります。そのような場合には、シニアローンと普通株式の中間的な資金調達の手法として、劣後ローンや優先株式などのメザニン・ファイナンスが用いられることもあります。このメザニンファイナンスと比較して優位であることから、前者の銀行によるローンをシニア・ファイナンス(シニア・ローン)とも呼びます。
典型的な買収ファイナンスのスキームを図にしたものが以下です。

典型的な買収ファイナンスのスキーム

3 シニア・ファイナンスのプロセス

(1)インディケーションレターの取得

買主と金融機関との間で秘密保持契約が締結された後、金融機関に対して買収案件や対象会社の情報が開示され、金融機関において融資条件の検討が開始されます。この検討によって定められた融資金額や金利等の主要な融資条件についてまとめた文書(インディケーションレター)が、金融機関から買主に差し入れられることによって、初期的な融資条件が提示されます。
この前後のタイミングにおいて、買主側からは、対象会社に関するDDレポートがレンダーに提出されます。

(2)コミットメントレターの差入れ、タームシートの作成

金融機関が融資の意思を表明するコミットメントレターが買主に対して差し入れられるとともに、融資の具体的な条件を記載したタームシートの作成が進められます。主要な条件の交渉は、このタームシートの作成過程で行われます。
案件にもよりますが、タームシートには融資金額や金利等の経済的な条件に加えて、前提条件や期限前弁済、表明保証、コベナンツ等のLBOローン契約の主要な点についても合意されることが一般的です。

(3)買取契約・ローン契約の締結

タームシートの内容に加え、詳細な取り決めについてローンのドキュメンテーションの中で協議がなされます。クロージング日(ローン実行日)の2~3営業日前にローン契約が締結されます。
ローン契約の内容については、次回以降の記事で詳しくご説明します。

(4)ローンの実行・買取の実行(クロージング)、担保・保証の差入れ、既存金融債務の返済

締結済みのローン契約に基づいて買収資金の融資実行がなされ、SPAに基づく決済が行われます。
クロージング後、可及的速やかに資産への担保設定や子会社からの保証の差入れなどの担保の提供が行われます。また、レンダーに生じる構造的劣後への対応としてシニアローンに優先する担保権の消滅や対象会社の直接の債権者を排除するため、このタイミングで対象会社の既存金融債務の返済がレンダーから要求されることが一般的です。

(5)ローン実行後の対応

買主(借入人)は、契約に定められた方法及び時期に従って、元本の返済および利息の支払いをする必要があります。また、コベナンツに基づく各種レポートやレンダー承諾事項への対応の管理が必要となります。

4 ファシリティ

ローン総論の記事(第4回)でもお話ししたように、ひとくちにローンといっても、その内容にはいくつかの種類(ファシリティ)があります。LBOローン契約においては、通常、数種類のファシリティが用意されます。

(1)タームローン

タームローンは、一般的に買収資金や対象会社の既存債務の返済資金、買収諸経費の支払に充てる目的で用意されます。
タームローンは、返済方法によってさらに、分割弁済(Amortization)のタームローンAと、期限一括弁済(Bullet)のタームローンBに区分されます(タームローンBよりも最終期限が後に到来する一括弁済のターム・ローンがあれば、順次タームローンC、タームローンDと呼ばれます。)。
タームローンAは、5〜6年程度に設定される融資期間中に、約定弁済スケジールに基づいて、対象会社のキャッシュフローを支払原資として弁済されることが想定されています。
タームローンBは、より良い条件でローンの借り換えを行い既存の借入金を一括返済すること(リファイナンス)も見込んで設定されています。期限一括弁済であるものの、対象会社グループに余剰キャッシュが発生した場合には強制期限前弁済により弁済されるとの規定が置かれることも少なくありません(キャッシュスイープ)。

(2)コミットメントライン

コミットメントラインは、対象会社におけるクロージング前の既存借入枠を解約すること(第3回 構造的劣後関係の解消を参照)との関係で、これに代替するファシリティとして設定されます。すなわち、その用途は既存借入に代わる対象会社における運転資金です。貸付人において資金使途の遵守を確認する目的で、クリーンダウン(一定期間コミットメントラインによる借入残高を0円とする借入人の義務)が設定されることがあります。対象会社の季節的なキャッシュフローとの関係でクリーンダウンが実施可能な時期かを検証する必要があります。

(3)ブリッジローン

ブリッジローンとは、短期のタームローンとして設定されるローンファシリティです。例えば、対象会社に余剰現預金がある場合やクロージング後に処分が予定されている資産がある場合、これらの換価金を返済資金に充てることを想定してブリッジローンが設定されます。このような趣旨でブリッジローンが設定される場合、その返済満期日は、返済原資として予定されている資産の換価に必要な見込み期間を含んで設定されることになるでしょう。LBOローンは、対象会社が将来生み出すキャッシュフローを返済原始とするファイナンスであるのが原則ですが、ブリッジローンは例外的に対象会社の保有する資産が返済原始となっています。
ブリッジローンを用いずに、同額をタームローンBの中で調達しておき、資産の換価完了後に手取金を期限前弁済することも可能と考えられます。もっとも、返済期間が短期であるブリッジローンにおいては自ずとタームローンBよりも借入人にとって有利な金利設定が可能であることや、変動金利であるタームローンBの場合、利払日以外の期限前弁済が避けられる傾向があることなどを考慮すると、ブリッジローンとして調達することが借入人にとって有利かつ柔軟な対応が見込めるケースが多いと思われます。

5 担保・保証

LBOローンはノンリコース・ファイナンスであり、借入人自身の信用力ではなく、対象会社の生み出すキャッシュフローを引当てに融資が行われますので、対象会社の価値を把握する必要があります。しかし、対象会社の株式のみに担保を設定する方法では、構造的劣後の問題から、貸付人は対象会社の債権者に劣後してしまいます。そこで、LBOローン契約では対象会社グループ会社が保有する全ての財産について担保を設定することが要求されます。これを“全資産担保の原則”といいます。もっとも、実務上は全資産担保を原則としつつ、担保価値を踏まえた担保取得の必要性や難易等を考慮して、担保設定範囲を合意することとなります。
担保について詳しくは第12回で扱います。

6 まとめ

今回は、LBOローン契約の総論的な説明をしました。
次回以降、LBOローン契約に定められる各条項の説明に入っていきます。

【次回予告】第7回 前提条件(CP)

連載一覧
第1回 “LBO”・“LBOローン”とは
第2回 LBOのストラクチャー(買収プロセス)
第3回 LBOのストラクチャー(SPC)
第4回 ローン契約総論
第5回 レンダー選定

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