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第3回 LBOのストラクチャー(SPC)



1 はじめに


前回はLBOの総論として、売主と買主を当事者としたM&Aストラクチャーの基本を説明しました。通常のLBO案件では、実質的にM&Aを行うのはファンドですがファンド自身は直接買収の当事者(買主)とはならないのが一般的です。LBOスキームを実現するために、ファンドにより特別目的会社(SPC)が設立されることが通常です。
今回は、SPCの基本的な知識と、それによって実現される効果についてご紹介していきます。


2 SPCとは


一般に特別目的会社(SPC)とは、具体的な事業を行うことはなく、不動産など特定の資産を企業内部から切り離し、管理するという特定の目的のためだけに作られる会社を言います。このSPCが、銀行からローンによる融資を受け、対象会社の株式を購入する主体となります。
SPCの形態としては合同会社や株式会社などが用いられ、スキームによって使い分けられます。LBOにおけるSPCは、のちに対象会社と合併することが予定されているため株式会社の形態で作成されることがほとんどです。合併については後述します。
SPCを作成してローン契約や株式譲渡契約の主体とするメリットとしては以下のような点が挙げられます。

(1)資金調達がしやすくなる

仮に、直接の借入人を買収者とすると、金融機関は買収者の信用に基づいて融資を行いますから、当該M&Aに関係のない事業の業績が借入額に影響してしまうことが考えられます。一方で、当該M&Aのディールのためだけに作成された空っぽのSPCを用いることで、対象会社の価値・キャッシュフローのみに着目して、買収者の他事業の業績を度外視した貸付を受けることができます。

(2)レバレッジがかかりやすくなる

SPC作成によって借入による資金調達がしやすくなることで、自己資本の割合は低いままに投資額を大きくすることができ、結果として大きな利益を産むことができます。これを「てこ」の法則に喩えて、「レバレッジをかける」、「レバを利かす」と言ったりします。

3 構造的劣後関係の解消

(1)構造的劣後とは

構造的劣後関係とは、対象会社の株主であるSPCの債権者に過ぎないローン契約のレンダー(主に金融機関)が、対象会社の債権者に対して資金回収の点で劣後することです。
会社法461条1項8号は、会社の純資産から負債等の額を控除した「分配可能額」の限度でのみ剰余金の配当が可能であると規定しています。つまり、会社は先に債権者に返済する必要があり、株主への剰余金の配当は、債権者への返済後に残った額の範囲でのみ行うことができるということです。このことからすれば、LBOにおいてSPC(対象会社の株主)への融資を行う銀行は、もともと対象会社に融資を行なっていた銀行(対象会社の債権者)に劣後していることとなります。

(2)解消方法

このような構造的劣後関係を解消するために、買収完了後にSPCと対象会社を合併する手法が考えられます。この手法によってSPCと対象会社が1つの会社となることで、今まで対象会社の株主であるSPCの債権者に過ぎなかった金融機関が、もともとの対象会社の債権者たる金融機関と同順位で弁済を受けることができるようになります。
その他の手法としては、対象会社の既存債務をあらかじめ返済させる方法や、対象会社にSPCの債務を連帯保証させる方法などが挙げられ、実務では以上の方法を組み合わせて用いられることもあります。

4 SPCの株主


通常、金融機関からのLBOファイナンスの調達に先駆けて、SPCに対して普通株式(エクイティ)の形で出資がなされます。
当該エクイティによるSPCへの出資は、「投資事業有限責任組合」(LPS)等の組合形式を用いたファンドによって行われるのが一般的です。ファンドが組合の形態をとるのは、法人格を持たないファンドについてはその時点では課税されず、各投資家に分配された時点で初めて課税されるパススルー課税となるという税務面のメリットのためです。
SPCの株主は、必ずしも1つのファンドに限られるわけではありません。複数のファンドが共同で出資する場合や売主が再出資するスキームの場合、ファンド会社の従業員ファンドが組成される場合などに株主が複数となることがあります。その場合には、株主間契約(SHA)が締結されるのが通常です。当該SHAでは主に、自発的な株式譲渡や議決権行使の可否や、メインファンドのイグジット時に他の株主も株式売却に従う旨、それに対する拒否権などについて規定されます。
また、株式譲渡後に経営ノウハウを有する経営者に対象会社の経営を委任する場合がありますが、その場合にファンドが当該経営者との間の経営委任契約の主体となることもあります。

5 最後に


今回は、LBOのスキームに欠かせないSPCに関する基礎的な知識についてお話ししました。その中でも、構造的劣後関係に対する対処は、LBOローン契約全体を通して重要な問題になってきますので、しっかりと理解しておくことが大切です。
次回は、LBOローンも含めたローン契約の総論的な説明をする予定です。

【次回予告】第4回 ローン契約総論 


連載一覧

第1回 “LBO”・“LBOローン”とは
第2回 LBOストラクチャー(総論)

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