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第2回 LBOのストラクチャー(買収プロセス)


1 .はじめに

本連載の主目的はLBOローンについて解説することにありますが、まずはその前提として、M&Aの全体像について、相対の株式譲渡スキームを例にとって説明していきます。

なお、ここでご紹介するのは、あくまで典型的な取引の流れですので、実際にはケースバイケースであることにご留意ください。

2. M&Aの全体プロセス

M&Aの開始から終了までの期間は、(1)交渉相手の選定、(2)デュー・デリジェンスの実施、(3)契約条件交渉、(4)クロージング期間の4つのフェーズに分けることができます。

M&A取引全体のプロセス


(1) 交渉相手の選定

買収手続きは交渉相手の選定プロセスからスタートします。この段階で、売主側は契約交渉の相手方を特定の買主候補に絞り込みます。大まかな価格感やクロージング後の経営方針などを踏まえて売却先が検討されます。

(2) デュー・デリジェンスの実施

買主候補に選定された買主は、各種のデュー・デリジェンス(DD)を実施することが一般的です。DDとは、対象会社の事業・財務・法務に関する実態調査であり、最終的な買収価格や細かな買収条件を決めるために必要な情報を収集する目的で行われます。
DDを担当した専門家によって、それぞれの調査結果に基づいた報告書(一般にDDレポートと呼ばれます)が作成されます。LBOによる場合、この報告書はレンダー候補である銀行にも開示されます。

(3) 契約条件交渉

DDで得られた情報をもとに、各種条件等について詳細に定められた最終的な契約(株式譲渡の場合は株式譲渡契約)の締結に向けた条件交渉が行われます。

最終契約ドラフトのやり取りを通じて買収価格、表明保証、コベナンツ、前提条件等の内容が決定されます。

ファイナンスとの関連では、売主から買主に対して「コミットメントレター」の提出が求められることがあります。

コミットメントレターとは、ローン契約の締結前において、買主に対する融資の意思を表明するために金融機関が作成する書面で、ローン条件の大枠が記載された書面(タームシートと呼ばれます)が添付されています。
買主側が負うクロージングの前提条件として、買収資金の調達が可能であることが定められている場合(ファイナンス・アウト条項)、売主にとっては、買主が意図的にファイナンスの進行を遅らせることによって買収から離脱してしまうおそれがあります。

これを防ぐため、買主にファイナンスについての努力義務を負わせた上で、調達の目処がついていることの資料としてコミットメントレターの提出を求めることがあるのです。

(4) クロージング期間

株式譲渡契約のクロージングとは、当該契約で定められた株式譲渡の実行/代金の支払がなされることを言います。

通常のM&Aの案件では、最終契約の締結からクロージングまでに一定の期間を空けてクロージングのための準備を進める期間を設けます。これは、M&Aを実行するにあたっては、各種法律に基づく手続き等の実施やDDにおいて発見された問題点の是正を求められることが多く、これらに要する時間を確保するためです。

LBOの場合には、この期間において金融機関との間でローン契約の交渉及びローン実行のための準備が進められます。

クロージング日に全ての条件が満たされれば、晴れて株式譲渡が実行されてクロージングを迎え、M&Aのディールは完了します。

3. 最後に

本連載はLBOによるM&Aの解説を主目的としていますが、LBOスキームによるファイナンシングもM&A取引全体の一部分です。取引全体の流れの中でLBOに係わる部分がどのように位置づけられるのかを理解するために、今回は、買収取引のプロセスを解説させていただきました。

次回は、LBOストラクチャーの各論的な説明として、LBOに欠かせないSPCについて解説する予定です。

【次回予告】第3回 LBOのストラクチャー(SPC)

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