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第5回 レンダー選定


1 はじめに

今回はローン調達交渉にあたってのレンダー選定及びコミットメントレター取得までの実務を説明いたします。LBOローンを用いた株式取得においては、一般的に意向表明書の提出、デュー・デリジェンス(DD)の実施、株式譲渡契約(SPA)の締結、ローン契約の締結、クロージングという形に進んでいきますが、レンダー選定及びコミットメントレターの取得は意向表明書の提出前から株式譲渡契約の締結までに行われることが多いです。これらのプロセスは一般的に弁護士が入って交渉することは少なく、ファンドやレンダーの実務者同士で行われます。案件規模やファンドのポリシーにより進め方は異なりますが、スモールキャップ~ミッドキャップの案件を念頭にあり得るプロセスについてご紹介いたします。なお、コミットメントレター取得後のローン契約及び担保契約本体についての解説は本稿には含まれません。

ローン契約締結までの流れ

2 レンダーへの対象会社及びその事業の説明

まず、レンダーである銀行に対し、LBOローンを用いた株式取得の対象となる対象会社の概要及びその事業について説明します。M&A仲介会社やFAが用意したIMを用いることが多いですが情報が不足する場合や事業の成長性などについて補足が必要な場合は、自ら説明用の資料を作成することも多いです。レンダーは事業の種別ごとにリスクを分類し、ローンの総額などもこれに依拠して決めることが多いとされているので、事業分類が不明確な場合などは、一般的に安定してキャッシュを生むとされている事業やレンダーが好む(嫌いではない)事業分類として説明することが重要です。また、コロナ禍の影響などで一時的に売上等が減少している場合は、それが一時的であり、今後コロナ前の水準に回復するなどを示すことが重要です。

3 モデリングの提示と条件案の提示

対象会社の概要の説明や事業の説明とともに、LBOのモデリングを行います。このときにレンダーからの調達金額や金利等の諸条件もある程度決めたうえでモデルを作成します。このモデルがレンダーに提出され、レンダー側としてはこのモデルに規定した諸条件を基にローンの条件を検討します。経済条件案について審査部等と協議の上ボロワーであるファンドに提示することとなります。

4 インディケーションの取得

ファンドとしては、対象会社に対して買収意向と価格を提示する意向表明書の提示前に、上記経済条件等での貸付の意向があることを示すインディケーションという書面(書類名はレンダーによって異なります。)を取得することが多いです。これは意向表明書に記載する株式譲渡金額のうちレンダーから調達するローンの条件がどのようになっているか(特にローン調達の絶対額)でファンドのリターン等に大きく影響があるからであり、意向表明書提出後に経済条件等が大きく変更することにならないように、ある程度レンダーとしてのオフィシャルな経済条件を出してもらう方がディールの安定性に繋がるからです。どの程度確度の高いインディケーションを取得できるかは、レンダー側が審査部や決裁権限のある上役や会議体での決裁を経ているか次第です。一般的に経済条件案提示までの検討時間を長くすれば、確度の高いインディケーションを取得できる可能性が高くなります。

5 DDレポートの提出とモデルの提出

売主に対して意向表明書を提出し、デュー・デリジェンス(DD)を行うと、そのレポートをレンダーに提出することになります。またDDの結果を踏まえてモデルの修正を行う場合は、修正したモデルを再度レンダーに提出することになります。これらのレポートを踏まえて、レンダー側でコミットメントレター提示にあたっての条件案を検討することになります。

6 経済条件・コベナンツの交渉

コミットメントレターに記載する条件についてボロワーであるファンドとレンダーである銀行との間で交渉が行われます。コミットメントレター取得後は選定した特定のレンダーとの間でローン契約の交渉をするプロセスに入るため、ファンドとしてはコミットメントレターの交渉が競争環境を作って交渉できる最後のプロセスとなります。そのため、ここで重要な経済条件やコベナンツ(経済コベナンツを念頭におくがこれに限られません。)を交渉し、確定しておくのが望ましいです。コミットメントレターにどれほどの粒度で条件を記載するかは、案件の規模やレンダーのプラクティス、コミットメントレター取得前にどれほどリーガルフィーをかけるか(レンダーのコミットメントレターのレビューにかかる弁護士費用もボロワーが負担します。)等によって異なるので、レンダー及び案件ごとに異なります。
事前に交渉が行われる条件としては、ローンの絶対額、返済期間(期限後一括返済のローンをどれだけ増やすか)、金利、レンダーに払うアレンジメントフィーの金額が主ですが、その他担保の範囲、定期報告コベナンツなどについてもできるかぎり決めて置くほうがベターといえます。また、レバレシオやDSCR等の経済的コベナンツについてもその定義や数値(一般的な定義上の数値から一部の金額をカーブアウトなど)の決め方、判定期間の始期などローン契約で協議することになるので、この段階で事前にすり合わせができるとベターといえます。

7 レンダーの選定及びコミットメントレターの取得

上記6の交渉の結果、ファンドにとってもっとも望ましい経済条件・コベナンツを提示したレンダーを選定し、コミットメントレターの発行を受けます。このコミットメントレターに記載されたローン条件をもとに、売主との間で株式譲渡価格を合意し、株式譲渡契約を締結することとなります。

8 終わりに

株式譲渡契約締結ののちに本格的なローン・担保契約のドキュメンテーションを作成し、契約交渉をしていくことになります。もっとも、経済条件など大きな条件はコミットメントレターの取得までに確定してしまっていることが多いです。今回はこの経済条件の交渉及びレンダー選定にかかる実務について説明をさせていただきました。

次回からは、いよいよLBOローン契約についての解説に入っていきます。

【次回予告】第6回 LBOローン契約総論

連載一覧
第1回 “LBO”・“LBOローン”とは
第2回 LBOのストラクチャー(買収プロセス)
第3回 LBOのストラクチャー(SPC)
第4回 ローン契約総論

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