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第7回 前提条件(CP)


1 前提条件(CP)とは

LBOローン契約における前提条件(Condition Precedent, CP)とは、貸付人の貸付義務を発生させるための条件を指し、前提条件が充足されていない場合には貸付人は貸付を拒絶することができます。
前提条件は、貸付人にとって与信判断の前提となっている事実について、貸付実行前に誤りが発覚した場合に、それにも関わらず貸付義務を負うこととなることを避ける機能を有しています。

2 具体的な条項

案件ごとの特殊性もありますが、LBOローン契約の前提条件として、典型的には以下のような規定が設けられます。

(1) 貸付不能事由の不存在

貸付不能事由とは、天災の発生・決済システムの障害・東京インターバンク市場における円資金貸借取引を行い得ない事由の発生などの、客観的に貸付を行うことが不可能となるような事由を言います。

(2) 表明保証違反の不存在

表明保証は、ある時点での借入人に関する一定の情報が、真実かつ正確であることを保証する機能を果たします。そのため、その違反があれば、貸付人が与信判断の前提とした事情を失わせることとなります。
もっとも、借入人としては、表明保証の些細な違反があった場合にまで貸付を受けられないこととなれば、安定的な資金調達を著しく害することとなります。そこで、実務では、前提条件を構成する表明保証違反から軽微な違反を除外したり、重要な表明保証の違反に限定したりすることで、貸付実行を受けることができなくなる場合を制限することが行われており、両当事者の交渉により双方の利害を調整していくこととなります。

(3) 義務違反の不存在

貸付人は、表明保証と同様、コベナンツの遵守についても与信判断の前提としています。そのため、コベナンツ違反があれば貸付義務を負わない旨が定められます。重要性等による限定も、表明保証と同様に交渉による利害調整が行われます。

(4) 期限の利益喪失事由の不存在

表明保証違反・義務違反があった場合と同様、期限の利益喪失事由または潜在的期限の利益喪失事由があった場合にも貸付実行の前提条件が失われることとなります。

(5) 保証契約の締結・担保権の設定・対抗要件具備の確実性

LBOローン契約においては、対象会社保証人の原則・全資産担保原則が妥当します。そのため、適切な保証契約の締結・担保差入れが貸付実行の前提条件となります。

(6) 既存借入金の返済等の確実性

対象会社に貸付人以外の債権者がいる場合、貸付人はそれらの債権者と競合することとなり、優先的に貸付債権を回収することができなくなってしまいます。そこで、買収ローン契約上の貸付実行の前提条件として、既存借入金を完済し、既存借入枠も全て解消することが要求されます。実際には、貸し付けられるローンが既存借入金の返済等の原資とされることが通常ですから、貸付実行の前提条件としては「既存借入金の返済等が確実であること」が規定されます。
もっとも、既存借入金の返済等は期限前弁済で行われるのが通常ですから、既存債権者との交渉や清算金等の追加の支出についても留意する必要があります。

(7) 前提条件書類の提出

貸付人に対して一定の書類を提出することも貸付実行の前提条件となります。提出が求められる主な書類としては以下のものがあります。なお、以下は一例であり、実際の取引において必要とされる書類は多岐に渡ります。

  1. 対象会社の定款・取締役会規則

  2. 対象会社の株主名簿(非公開企業の場合)

  3. 対象会社の履歴事項全部証明書

  4. 対象会社の印鑑証明書

  5. スポンサー及びその無限責任組合員(GP)の履歴事項全部証明書

  6. スポンサーの印鑑証明書

  7. 買収ファイナンス契約の締結・履行を承認する取締役会議事録

  8. 株式譲渡を承認した株主総会議事録(非公開会社の場合)    など

(8) 重大な悪影響の不存在(MAC条項)

具体的な内容を定めた前提条件ではカバーできていないものの、対象会社の資産や財産状態に重大な悪影響を及ぼす事象(Material Adverse Change)が発生した場合には貸付人の与信判断の前提条件を覆すこととなります。そこで、キャッチ・オール的な規定として、「重大な悪影響を及ぼす事象の不存在」が貸付実行の前提条件として規定されます。

(9) 買収契約の前提条件の充足

そもそもローン契約は買収のための資金を調達するため締結されますが、LBOローン契約では、買収契約自体の前提条件の充足が貸付実行の前提条件となります。
以下で詳しく検討します。

3 買収契約上のCPとの関係-交渉過程におけるジレンマ

先に述べたように、LBOローンの契約においては、「買収契約の前提条件の充足」が前提条件として規定されます。
買収契約においては、前提条件は買主のリスクを低減するために規定されるのが一般的ですから、前提条件を充足しない場合でも、買主の方からその利益を放棄して買収を実行することが可能である旨が規定されます。しかし、買主の裁量により前提条件不充足のまま買収契約が実行された場合でも、LBOローン契約上は、貸付実行の前提条件が充足されたこととはなりません。
ここで、買主が買収契約の契約交渉において有利な前提条件を規定すればするほど、LBOローン契約上の前提条件を充足することが難しくなり、結果的に貸付実行を受けることができないというジレンマが発生します。対策として、充足すべき買収契約上の前提条件を「重要な」ものに限ることや、買収契約の前提条件が不充足でも貸付人が認めた場合には貸付実行できると規定する方法等があります。しかし、どの方法によるにしても一定の問題が生じる可能性はありますので、ジレンマの存在を意識して買収契約の交渉に当たる必要があります。

4最後に

今回は、買収ローン契約のクロージングをするための前提条件(CP)についてご説明しました。
次回は、期限前弁済条項についてご説明いたします。

【次回予告】第8回 期限前弁済

連載一覧
第1回 “LBO”・“LBOローン”とは
第2回 LBOのストラクチャー(買収プロセス)
第3回 LBOのストラクチャー(SPC)
第4回 ローン契約総論
第5回 レンダー選定
第6回 LBOローン契約総論


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