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「一人暮らし=自立」なのかを知りたい人へ

私はわりと引っ越しの経験が多くて、ヤドカリよろしく居を転々とした結果、流れ流れて今の家が6軒目。引っ越すのに特に理由はいらないと思っていて、気分一つで引っ越せるのが独り身の良いところだと、今日も負け惜しみを呟いております。

今回はちょうどよい機会なので(本当にちょうどよい機会がどうか、それは誰にもわかりません)、初めての一人暮らしのことを思い出してみたいと思います。大学に入学してから暫くは実家から通っていました。両親も健在で風呂もご飯も用意されていて、自分のペースでバイトして稼いだお金の使い道は、成人前の私にはゲームや漫画くらいしかなく、それはそれで健全で満たされていた時代を過ごしていました。ですが、高校生から大学生にジョブチェンジした私にとって、一人暮らしというのは余りにも淫靡な魅力をもつワードで、地方から入学した数少ない友人の一人暮らし部屋に遊びに行くたびに、汚いワンルームを根城とするその姿を見て、私自身も一国一城の主になる夢を抱かずにいられなかったのです。
というわけで私は単位と引き換えにバイトをする、今思えば大変愚かな選択をしました。取りこぼした単位の分、無事にお金を貯め(質量保存の法則)大学3回生から一人暮らしをすることになました。

初めて向かった不動産屋。細めのスーツにデコ丸出しのTheイケイケ営業でした。いかにもなヤリ手で口も上手そうでした。でも、その人は鼻くそが出ていました。しっかり鼻くそが出ていました。
初めての一人暮らし感丸出しの、私のような小童をよいカモなどと考えていたのでしょうが、こちらもこちらで無知とは怖いもので「新築で、オートロックの角部屋、家賃4万で、風呂トイレ別の部屋」と欲張りフルコースの希望条件を提示するものですから、お互い一歩も引かずににらみ合うこととなりましたが、どうしても鼻くそが気になっていた私は、相手の顔ではなく鼻を中心ににらんでいました。
「この部屋は狭いですけど収納があるので~」と説明を受けつつも(まず自分の鼻くそを収納したらいいのに)という思いは拭えず、話が頭に入ってこないまま平行線をたどる家探し。LとかDとかKとかがよくわかっていないまま飛び込んだ私も私ですが、相手がどれだけ「その条件は無謀なんですよ」と説明してくれても、4.5畳にも満たない小さい脳内が鼻くそでいっぱいになった私が首を縦に振ることはできませんでした。
しびれを切らした相手もベン図を書いて「今お客様が探しているのはこの4つの円が全部重なっている条件なんです。数少ないのはわかるでしょう?」と阿保な生徒を個別で補習する先生のように呆れながら対応してくれたのですが、(でもあなたは鼻くそが出ていることはわかっていないでしょう?)と心の中で反芻してしまい、埒があきませんでした。

このように終始明らかに不利な状況であったのにも関わらず、気が付くと「築10年、オートロック、角部屋、1K6畳、風呂トイレ別、38,000円」のところに住んでいたのですから、「負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じ抜くこと」が大事だなと改めて実感した次第です。

こうして多額の金銭と引き換えに自由と時間を手に入れた私は思う存分に堕落できるようになり、無事に留年をしました。
余分な1年間は流石に実家に強制送還されたので、その部屋に住んだのは2年ほどでしたが、確かに私が築いた初めての"城"でした。6畳一間に敷き詰められた机と座椅子、テレビ、漫画、ただただ寝るだけの石より硬いベッド。最初だけ自炊する気満々で買いそろえた調理器具やスパイスもすぐにホコリをかぶって置物になり。
バイト先でもらった売れないアイドルのポスターを貼ったり、友達から譲り受けたベースを弾けもしないのに飾ったり、暇すぎて入り浸っていたヴィレヴァンで買った室内用プラネタリウムも2日で放置されていたり。統一感も何もなく、ぐちゃぐちゃに具材を入れただけの寄せ鍋のようでしたが、その部屋にある一つ一つが確かに"私"を為しえるものでした。

どんどん洗濯が面倒になってノーパンで過ごしたあの夏も、支払いを滞納してお湯が出なくなり、修行僧のように水で身体を洗ってむしろ健康になったあの冬も、様々な季節を超えたその"城"は、いつまでも続くと確かに思えたほど鈍く輝き続けていました。

「結婚するなら一人暮らし経験がある男がいい」なんて言う女性も少なくないようですが、ぶっちゃけどっちでもいいと思います。
実家暮らしでも家事を手伝ったり、月にかかる生活費のおおよそを理解してまとまな金銭感覚を持ったりしている男性はたくさんいるんじゃないでしょうか。もちろん貯蓄もしっかりできていると思います。
「一人暮らし=自立」ということではありません。私のような人間もいるのです。一人暮らし男性がしっかりしていると思い込むのはむしろ危険思想です。

今回の駄文が、婚活中の女性の皆様にとって何らかのヒントになることを願って、この文章をメールにしてゼクシィに送りたいと思いますが、真に受けたゼクシィの次号の見出しが「実家暮らしの男こそ最強!」となり、SNSで大炎上することだけは避けていただきたいと切に願っております。

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