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文学の落下点┊ novel

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epilogue 『わたしの黙示録』

epilogue 『わたしの黙示録』

縋る術もなくて私たちを襲った夜を心地よく受け入れた青い青い果実。
それを食べた闇を神様は見ているだろうか。
始まりと同じように、終わりにも罪がある。
だけど終焉に食べられたのは赤い熟れた林檎とは違う、固くて歪でアダムもイブも決して食べ無いような青い鈍い透明な青い果実なのだ。
世界を裏切ったかつての2人の影を、私は刹那視界に捉えたような気がした。
だけど、私たちが裏切られた側だったからか、もうどこに

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『人と月に蓋をして』

『人と月に蓋をして』

「“よる”や」
____強く強く願っている。私達は、永遠だと。

世界が眠りについた27時、未だギラギラと陽射しがやまない。私は急いで自転車で十字路への坂道を勢い良く駆け下りた。
「邑!」
「あ、那津」
邑は私を見るなり嬉しそうに自転車のカゴから黒い布を出して旗のように振る。準備は万全みたいだ。私達にとって睡眠すら削った秘密の時間は、普通を忘れてしまったこの世界に唯一相反していて特別だった。
「暑

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小説 『クリシェ』

小説 『クリシェ』

一部分より

■13:39

「先生、俺もう長くないらしいよ」

病室中を生温い風が撫でる。
それが嫌な現実味となって僕の喉を掠めた。
それで、分からないから分かろうとしたかった。

「…でも今生きてるっ」

辛うじて発した掠れた声が、目の前の彼にに届かずに溶けて小さく消えていく。
そっか、とかこれからどうやって生きたい?とか僕には“教師としてかけるべき言葉”がたくさんある。
探している、分かりた

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透明な魔物

透明な魔物

_____僕は、魔物だ。

「自己への違和感」自分だけには厳しく生きた。傲慢で我儘な人間になるのが怖くて、自分をぼろぼろにしながら耐えた。

繊細に丁寧に優しく脆いなにかにこそ寄り添えるように生きてきた。でも、得をするのも輝くのも幸せそうな人も「貪欲に挑める人」。 誰かに振り回されたり後始末をする大変さにため息をついてきたのに変われだなんて今更だ。自分で作り上げた闇を今更照らせない。「暖炉の家より

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詩┊ 『ざねりの夜』

詩┊ 『ざねりの夜』

わすれたい。わすれさせない。おまえがだ、

もうあたりが藍に染まる

ブラックコーヒーは苦いけど不安と震えを喉の奥に無理やり押し込めるから好きだ
でも乗り遅れた電車が、幕を剥がすように現れた夜が、美しかったから今日はラムネを飲むことにした。瓶は重たくて、でも街灯を食べるように光を孕んでいて綺麗だった

あいつみたいに自分を好きになりたかった
あいつみたいに迷惑なんて構わず先生に言い返して怒られてみ

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詩┊ 『白昼夢のりんご』

詩┊ 『白昼夢のりんご』

せんせい、こども、はと、さよなら。
りんごのあかさをわすれてしまいたい。

わたしは生きようと云った
深夜2時半、やっと鉛に溺れていたからだを起こす
海はわたしを溶かしていたのにちくちくする何かが心の臓を貫いた

やさしくなるためにがまんします
あらそいをたやすためにすべてをゆるします
いたみもちもどごうもなきじゃくるこのこえも

わすれたい

りんごが青くてもいいのに
わたしは赤くなきゃいけない

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