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Jリーグ 観戦記|青空が照らす|2021年J1第10節 川崎F vs 広島

 風の音が耳を触る。晴れ渡る空。その下で、生きたサッカーを体感できる。その幸せを映すかのように、空は青く輝く。

 類似のアプローチ。人数を一方へと集める。そこから逆サイドへの展開。しかし、精度には開きがある。地上戦の川崎。空中戦の広島。そんな光景が繰り広げられる。

 浅野はジェジエウに。ジュニオール・サントスは谷口に。田中には青山が寄せる。そんな中でも、両サイドバック、中盤、スリートップを関与させ、川崎は前線への道筋を作り出す。

 スペースは個性に光を与える。後方から前線へとボールを運ぶ作業。それを支えるのはパスだけではない。三笘が左から中央へとドリブルを仕掛ける。その動きによって、広島の選手たちは吸い寄せられ、左側に余白が生まれる。

 機を見て右から左へと流れて密集を築く家長の動きは滑らかだ。それは「流動的」な動きであり、相手の想像を超えていく。そして、想像を超えることは、守備が崩れることと同義である場合が多い。川崎は広島陣内の最深部へと何度も入り込む。ゴールは一点に止まる。しかし、長い距離を駆け抜けた山根が守備の均衡を破り、家長をフリーにさせた攻撃は「完全な攻略」と呼ばずして、何と呼ぼう。

 「有機的」が何を指すか考えた。それは「次があるか否か」であろうか。川崎は失敗しても次がある。パスがつながらなくとも、周囲の選手たちが一斉に寄せて、ボールを我が物にしようと試みる。その一連の流れにより、攻守は一体となって勢いを増す。広島はハーフウェーラインを超えた後。そして、ジュニオール・サントスがボールを受けた後。歯切れの悪い文章のように、その後の物語が続いていかない。

 ジェジエウがジュニオール・サントスを跳ね返す。空高く舞うボール。腰を下げた押し合い。その攻防は何度も続いた。そして、ジェジエウの勝利が積み重なっていく。しかし、ジュニオール・サントスの勝利は決定機へと直結する。マリノスで披露した重戦車のようなドリブルは川崎の守備を切り裂く。献身とゴールへの飽くなき渇望。森島の同点ゴールの半分はジュニオール・サントスが生み出した。

 時間が削られていく。盤石に見えた川崎の攻撃。ボールと身体が吸着するような組み立て。脇坂、家長、レアンドロ・ダミアン、三笘。ピッチを後にする選手たちに呼応して、その眩さは消えていく。青空が照らすもの。サファイアのような光とは反対に、鈍色の課題が透けて見える。「有機的」であることは、勝利の保証とはなり得ない。

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川崎F 1-1 広島

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