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<白血病くらし> 治療環境を決める:それは自分の人生をシンプルにする作業だった。

今回は、どこで治療を受けるのか、のお話。

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私が、寝耳に水のごとく白血病の告知を受けたのが、家族で日本旅行をかなり満喫している最中でした。そう、私たちの住んでいる家、ホームベースから離れた場所での告知だったわけです。そのため、すぐに治療を開始しなければいけないという状況の中、私たち家族は日本の実家(私の生まれ育った地元)を拠点として治療を開始するか、急いでアメリカに戻りポートランドで治療を開始するかの選択を迫られることとなったのです。

自分の住んでいる国以外で癌の告知を受けるということは、とても稀なことだとは思います。ただ、同じ日本国内でも、どこの病院で治療を受けるのか、どこの地域で療養するのかを考えることは、癌を自分ごととして、自分で治療環境や自分の求める(保ちたい)ライフスタイルを選択することの一つなのだと思います。

いきなりの告知でショックを受けることも、頭が真っ白になることも、もうどうしていいのか分からなくなることもあるかもしれません。「時間がない」「あなたに選択肢はない」と言う医師の前で、嫌でも無力な自分を実感するかもしれません。でもだからこそ、いま自分が置かれた現実を冷静に把握し、事実を比較し、「癌」という事実が自分から離れて一人歩きして行きそうになるのを一旦引き止める必要があるのだと思います。

病気を治すのは、医師や薬の力だけではありません。どのような環境で、どんな気持ちで治療に望むのか。誰のサポートが必要で、誰に近くにいて欲しいのか。どんな食べ物が手に入り、毎日どのような景色を眺め、退院した時にどんなところへ行きたいか。仕事や家族の関係で、選択肢が限られていることが多いというのが現実かもしれません。でも、ただの「理想リスト」になったとしても、一度そんなことを考えてみることが大切のように思うのです。少なくとも私にはそんな時間が必要でした。

そして、「明日にでも入院の必要がある」と言った日本の医師に、「現実問題、どこまで開始を遅らせられるのか」と確認し、その答えであった「一週間」という時間を、情報収集に使えたこと、自分が癌と向き合うためのざっくりとしたマスタープランを立てるために使えたことは、その後の治療と、大げさかもしれませんが私の人生そのものに大きな意味を持つこととなりました。

日本とアメリカでの治療環境の比較(私たちの場合)

まず、実家の近くの癌センターの訪問と担当医師やソーシャルワーカーとの面会を通して、なんとなく日本での治療環境を理解しました。そして、幸運にも、アメリカで入院するであろう病院の癌病棟で友人が働いていたこともあり、彼女と話をし、私と特に日本語のほとんどわからない夫が状況の把握をできたことは大きな助けとなりました。また、その友人の同僚に日本人の看護師の方がいて、日本語で病気のこと、アメリカでの治療環境を私自身もより深く理解することができました。日本の担当医の方から、アメリカの友人まで、柔軟にそして迅速にサポートしてくれたことが心強く、一人じゃないと思えることに何よりも救われました。

その上で、両国での治療環境を比較してみました。(え、そこ?ってツッコミを入れたくなるの項目があるのは承知で、当時私と夫で作ったメモのまま載せてみます。)

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何が自分にとって、自分の人生において大切か。

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私たちは最終的に、「やはりアメリカに帰る」という選択をしました。ただ、「一度アメリカに戻り、現地の病院を訪問し、主治医にも会う。そしてどうしてもしっくりこなかったら、日本に戻ってきて治療を始める。」という条件付きで。

リストを作って、置かれている状況と自分の感情と向き合う中で、自分の生活で自分が何を大切にしているのかが見えたようにも思います。家族、自然、そして質の高いものを食べること。一見治療と直接関係ないような、その要素こそが、私の人生で大切にしたいものであり、私自身の平常心を保つもの、私の心を満たしてくれるもので、つまるところ、それが「医療行為」そのものよりも、私には必要なものだと感じたのです。

敢えて、理由をリストアップするならば(そう、リスト作るの好きなんです):

1)「家族に負担が少ない」「家族の充実した日常が確保できている」と安心できることが、何より私自身が治療に専念できる環境であるということ。全ての人が「周りの人のことより、自分のことを考えて結論を出してね」と言ってくれる中で、この感情は一見すると「他人を優先した」想いのように思われるかもしれないけれど、これが何より私の希望であったのは事実です。

2)癌の告知を受けた後に夫に会った時、「家に帰りたい。キップ(愛犬)に会いたい。」という言葉が無意識に出たこと。頭では迷っていても、心はポートランドに帰りたいと言っていること。

3)オレゴンの自然が恋しかったこと。

4)アメリカのいいところは「想い」からくるものが多く、反面、日本に残ったほうがいい理由は頭で考え、探していたこと。

5)両親がアメリカにサポートをしにきてくれることで、アメリカで治療をする多くのデメリットが解消される可能性があったこと。

自分の生活をシンプル化する

上記の通り、全ての人が治療環境を選べる状況にあるわけではないということは分かっています。しかし、その中でも、理想の治療環境を考えたり、二つの環境を比較したりすることは、ある意味自分の人生において、何が大切なのかを再確認する作業なのだと思います。

私は、これから始まる未知の「癌の治療」を開始する前に、この確認作業をしたことで、治療中や治療後の生活をよりシンプル化することができました。自分の優先したいことがはっきりとしたことで、自分の気持ちを汲み取りやすくなりました。自分の生活で優先したいことがはっきりしたことで、なんでも自分で背負いがちであった私が、「これは実はあんまり重要じゃない」と無理をせずに辞めること、他人に任せてしまうことがずっと楽にできるようになりました。

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そして、大切なもの、守りたいものが今まで以上にはっきりすることで、前より少し強くなれたようにも思うのです。

気持ちが動揺する中で、一息つき、自分の「欲しい生活」を考えてみることは、病気を克服するのに不可欠である、「自分に優しく」ある為のはじめの一歩なのかもしれません。


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これは、ある日突然、急性骨髄性白血病との告知を受け、「白血病治療中」という新生活を始めた私が、寛解に至るまでの7ヶ月間、どのように癌と向き合い、毎日をより快適に過ごすために何をしたのかなど、「白血病暮らしの知恵袋」としての記録です。自分の価値を押し付けたいのではありません。こんなことを感じて、実行した人がいたということを知ることで、何かのお役に立てたら幸いです。

これらの記録は医学的根拠に基づくわけでもありません。一口に白血病と言っても、それぞれの体調や置かれている立場は様々であり、これらのことが全ての人に当てはまる、役に立つとは限りません。それどころか、時には寧ろ治療の妨げになってしまうこともあるかもしれません。そのことをご理解の上、あくまでも参考程度に読んでいただけたらと思います。



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