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【短編小説】 打ち上げ花火と溶けるアイス
アニメを観ていた。
涙を堪えられなかった。
それくらい夢中になって観ていた。
体の水分が減れば、喉が乾く。
卓上に置いていた水筒を手に取った。
空っぽだった。
おかしい。さっき入れたはずなのに。
その間にアニメは四話進んでいた。
さっき、は一時間前の話だった。
何かに意識をとられていたら、他のことには目も向かない。記憶にすら残らない。
打ち上げ花火に気を取られていたら、溶けるアイスに気がつかない。
【短編小説】 シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム #同じテーマで小説を書こう
「はぁ。やっと終わった」
荷解きと掃除を済ませた僕は新居でひとりごちる。
「結局来ないじゃん。手伝ってって言ったのに」
僕がここにいるはずの人に文句を吐いていると、タイミングを見計らったかのようにドアホンが鳴った。きっと彼だ。
玄関へ向かいそっとドアを開けると茶色い大きな袋を抱えた男性が立っていた。
光輝く金に染められた短髪。左右の耳につけられた黒く丸いピアス。無愛想な顔で僕を見下ろ
【短編小説】 塀の中の冷凍パスタ
少年は登ることが好きだ。
そして、出会った。
塀を越えたその先で。聳え立ったその山に。
「ぼくはいつか!あのやまにのぼるんだ!」
※
ジリジリと強い日差しが、アスファルトの地面を焦がす。
焼けた地面が生み出す熱と鳴き止むことのない蝉の鳴き声が、人々の外出欲をことごとく奪っていく。
誰もこんなクソ暑い夏の日に外へ出かけようとは思わない。クーラーの効いた部屋で、のんびり読書でもする