愛沢由乃

あいざわゆのと申します。 気まぐれに筆をとります。

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最近の記事

【ショートショート】 路地裏クジラ

「俺は、久慈寺さんに告白しようと思っている」  俺の言葉に、幼馴染の現瀬実央が返事をする。 「アンタ、勝算のない告白はしないって言ってたじゃない」 「ああ。もちろんしない。だが、あるのだよ。百パーセントにする方法が!」 「だいたい想像つくけど……なに?」 「『路地裏クジラ』というウワサを聞いたことがあるか?」 「はぁ……。出た、市哉のオカルト話……」  商店街にある路地裏の先に、誰も寄り付かない空き地があるらしい。  そこには、意味ありげに佇む柱時計がある。  

    • 【ショートショート】 彗星ダーリン

       私の名前は、瞳本星美。大学二年生。  今は、キャンパス内にあるカフェスペースで読書をたしなんでいる。  ひと息つくために本を閉じて、飲みかけのコーヒーに手を伸ばす。やっぱり読書にはコーヒーがかかせない。  視線は揺蕩う湯気を追いかけ、行き交う人たちに移る。  私には、好きなことが二つある。  それは読書と、人間観察だ。  でも、ただの人間観察じゃない。  私の瞳には『星』が宿っている。  この瞳は、ヒトの中にある夜空を見る。  そして、一番星に記録された記憶を映す。

      • 【ショートショート】 ドアノブの付いた看板

        「お腹すいたなぁ〜」  自宅まではあと少し。  だが、それまで我慢できそうにない。  なにより運転中だ。こんな状態で車を走らせるのはよろしくない。  ふと看板が目に入った。そこには美味しそうなハンバーガーが描かれていた。  こんがりと焼かれたバンズ。みずみずしいレタスとトマト。いかにも肉汁が溢れ出しそうなパテ。僕はすぐさまコインパーキングへと向かった。  駐車してすぐ、例の看板へと向かった。  看板の前に立ち、腰ほどの高さに備え付けられた『ドアノブ』を回した。 「いら

        • 【ショートショート】 割れる本

           その本は、チョコのようにパリッと割れる。  割った本は、自由に交換可能で、自分が読みたい本をカンタンに作ることができる。  友達とページを交換したり、かたぬきのように文章をくり抜いてみたり、絵を集めて表紙を作ってみたり、遊び方は自由だ。  本の中身は、AIが書いている。  人工知能がランダムに作っているので、内容はチグハグであることが多い。  つまり理想の本を作るためには、たくさんの『割れる本』が必要になる。  ゆえにネットでは、人気のあるシーンや、使いやすい文章など

          【短編小説】 打ち上げ花火と溶けるアイス

          アニメを観ていた。 涙を堪えられなかった。 それくらい夢中になって観ていた。 体の水分が減れば、喉が乾く。 卓上に置いていた水筒を手に取った。 空っぽだった。 おかしい。さっき入れたはずなのに。 その間にアニメは四話進んでいた。 さっき、は一時間前の話だった。 何かに意識をとられていたら、他のことには目も向かない。記憶にすら残らない。 打ち上げ花火に気を取られていたら、溶けるアイスに気がつかない。 花火が綺麗だった記憶はあるが、手がベタベタになったことは忘れていく。 彼らは部

          【短編小説】 打ち上げ花火と溶けるアイス

          【短編小説】 ピアノは覚えてる。

          「あなた、ピアノ弾けるんでしょ? あたし、知ってるんだから」  彼女はそう言いながらピアノ椅子に座りあぐらをかいた。短いスカートから見える彼女の脚がさらに露わになった。僕は恥ずかしくなって目を逸らし、音楽室の正面にある偉人たちの写真を見た。いつ見ても変わらないはずの音楽家たちの顔が、なんだかニヤニヤしているように見えた気がした。  転校以来、ずっとクラスに馴染めずぼっちの日々を過ごしていたのだが、突然彼女に呼び出された。  彼女の名前は田川みどり。さらさらした髪は肩よりも少

          【短編小説】 ピアノは覚えてる。

          【短編小説】 本の演奏者

           僕は幼い頃から人見知りで、人と仲良くなるのが苦手だった。  小学校の時、体育の授業で組む相手はいつも先生だし、遠足の時も手を繋いで歩いた相手は先生だった。  そんな僕は休み時間になると、誰よりも早く教室を出て、図書室に入り浸っていた。  遊びたい盛りの他の生徒は外で遊んだり、教室でお喋りしたり。図書室に来る生徒は少なく、いつも図書室にいたのは僕を含めても両手で足りるくらいの人数しかいなかった。  僕も内心では友達と遊んだり、喋ったりしたい気持ちはあった。でも、僕がいると邪魔

          【短編小説】 本の演奏者

          【短編小説】 僕の席は、保健室にある。

           地上一階。リノリウムの廊下を少し進むと左手に職員室、右手に保健室のドアが見えてくる。僕はその右側、保健室のドアをコンコンと二回叩いた。 「はい。どうぞー」  優しく穏やかな女性の声が聞こえ、僕は「失礼します」と言いながらドアを開けた。 「おはよう。黒上君」 「おはようございます」  養護教諭である道端先生に挨拶を済ませると、僕は保健室の右隅に用意された机に向かった。  ぽつねんと一台だけ用意された簡素な学習机。『学校』と『机』と言われたら、教室に所狭しと置かれてい

          【短編小説】 僕の席は、保健室にある。

          【短編小説】 昨夜、彼女が出て行きました。

           徐に上体を起こす。体が重い。やっぱりソファーで寝るもんじゃない。  ガチガチになった背中をゆっくり伸ばす。あくびが出る。今日は休みだ。ゆっくりしよう。  視線がテーブルに向かった。うちのカギが置いてある。僕のじゃない。太ったひよこのキーホルダーが付いている。彼女のだ。  昨夜、彼女が出て行った。  ひとりの朝は、何年ぶりだろうか。もう部屋でタバコを吸ってもいいのか。それは楽でいい。  キッチンに向かって換気扇を回した。来るついで持ってきたにタバコにコンロで火を付けて一服。寝

          【短編小説】 昨夜、彼女が出て行きました。

          【短編小説】 シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム #同じテーマで小説を書こう

          「はぁ。やっと終わった」  荷解きと掃除を済ませた僕は新居でひとりごちる。 「結局来ないじゃん。手伝ってって言ったのに」  僕がここにいるはずの人に文句を吐いていると、タイミングを見計らったかのようにドアホンが鳴った。きっと彼だ。  玄関へ向かいそっとドアを開けると茶色い大きな袋を抱えた男性が立っていた。  光輝く金に染められた短髪。左右の耳につけられた黒く丸いピアス。無愛想な顔で僕を見下ろしながら彼は言った。 「終わったか?」 「終わったかじゃないよ!手伝いに来て

          【短編小説】 シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム #同じテーマで小説を書こう

          【短編小説】 塀の中の冷凍パスタ

           少年は登ることが好きだ。  そして、出会った。  塀を越えたその先で。聳え立ったその山に。 「ぼくはいつか!あのやまにのぼるんだ!」  ※  ジリジリと強い日差しが、アスファルトの地面を焦がす。  焼けた地面が生み出す熱と鳴き止むことのない蝉の鳴き声が、人々の外出欲をことごとく奪っていく。  誰もこんなクソ暑い夏の日に外へ出かけようとは思わない。クーラーの効いた部屋で、のんびり読書でもするのが1番なのだ。それが人生。いっつまいらいふ。  だが、そんな暑さにも負けず、外

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