登場人物紹介 長野美織(ながの みおり) 25歳。本作の主人公。大学を卒業してからは実家のある小倉市を拠点に旅行ライターとして日本中を飛び回る日々。 湯川和香(ゆがわ のどか) 27歳。FMKokuraでパーソナリティとして働く。愛宕が丘高校弓道部では副部長を務める。大学弓道も経験しており現在は若手をまとめる弓道会のリーダー的存在。 水町裕紀(みずまち ひろき) 26歳。小倉市役所で働く公務員。美織たちの指導係を務めた。大学では部には所属せず、福岡の弓道場で研鑽を積む。地
「ありがとうございました!」 拝礼を終え、全員で挨拶をする。今日は会員数名に高校生が15人の大所帯で学生時代の部活終わりのようだ。 「さて、終バスまでに時間がありません。分担してささっと片づけて帰りましょう」 浅生先生の号令に合わせ高校生たちはそそくさと安土へと向かい、私たち会員も射場をモップ掛けしていく。一日何十本、何百本と矢が刺さり練習終わり、安土は穴だらけになる。埋めるだけだと的を付けた時に位置が変わったり、あとあと土砂崩れを起こしたりと結構デリケートであ
「水町も練習に来てんなら私らも強度を上げていかんとねぇ」 和香先輩が携帯の的中記録アプリに射込んだ20射の結果を入力しながら言った。覗き見すると何度も丸が3つ並んだり4つ並んだりしている。さすがは先輩。私も今日は射を見てもらいながら矢数をかけたので、久しぶりに的中率6割に届いた。 「今回のメンバー決まってましたっけ?」 「んっ」 先輩が指さす。次の東部大会の要綱にメンバー表が重ね張りしてある。 愛宕が丘A 大前:水町裕紀 参段 中:井堀義人 五段 大
「よーし!!」 更衣室で出くわした女子生徒たちが声援を飛ばす。マスク越しではあるが声出し応援も解禁となり学生弓道の活気も戻ってきている。 生徒たちの練習風景を横目に、私たちは浅生先生を囲んでいた。 「的枠に射さるとは不運でしたね、湯川さん。矢尻は無事でしたか?」 「はい!はずれずに済みました。美織ちゃんと二人がかりで抜きましたけど…」 礼射で的枠に突き立ってしまった和香先輩の矢は、先輩1人では抜けず、私が的枠を持ち、先輩が矢を引っ張る形でゆっくりと抜いて何
私たちの所属する愛宕が丘弓道会の暗黙の了解として、稽古を始めるときには礼射を一手(2本)引き、当番の先生に見ていただくことになっている。 それでなくても緊張するというのに、 「今日は先輩たちから射技や体配の美しさを学びとりましょう。湯川さん、長野さん、良い手本を見せてくださいね」 という浅生先生の発案で高校生の見取り稽古も兼ねてみんなで見守るというからたまらない。 皆の注目が集まる中、大前(1番手)の和香先輩に私がついていく形で脇正面を本座まで進む。
野球のバッターが手袋をしたり、肘当てを付けたりして初めてバットを持って打席に向かうように、弓道の射手も射場に向かうにはそれなりの準備がいる。拝礼を終えた私と和香先輩は、横並びに正座してまずは女性の射手のみになるが「胸当て」という防具を着ける。射法八節の一つ「会」の時に胸弦がついて、頬付けをして「離れ」へと進むのだが、玄人であれば矢を放つ時には弓がきれいに回転して弦は胸から離れ外回りしていくが、素人だと内回りし最悪胸を擦ってしまうのである。制服のようなボタン付きの服で引かざる
弓を立て、準備運動していると玄関からよく通る挨拶が聞こえた。 「こんにちは!湯川でーす!おー、美織ちゃん久しぶりやねえ!」 「和香先輩、こんちは!」 湯川和香さん。私が愛宕が丘高校弓道部に入った時彼女は女子副将を務める3年生だった。県大会まで進んだものの5月には引退してしまったし、私たちはご多分に漏れず基礎連ばかりの春だったし当時は接点がなかった。 「あれ?長野さん?2年上の湯川!覚えてない?」 社会人になってこの道場に所属したとき、彼女が声をかけてく
更衣室の扉を開くと2人の女子高生の姿。二人とも上は体操服、下はスカートという少しいびつな格好だ。 「こんにちは!」 マスク越しでもはっきりと聞こえる挨拶に応えながら、私は1年生と思しき二人の初々しさに目を細める。先生の話では来週辺りには弓具店のオーナーが道具一式を納品しに来るらしい。この子たちが袴姿に心躍らせる様子が目に浮かぶ。 「もう引いて10年経つんやな・・・」 感慨にふけりつつリュックから白Tシャツを引っ張り出し、着替える。上衣が白なので目立たぬように白
「愛宕が丘弓道場」ー 高校生の時そう呼んでいた施設は老朽化のため取り壊されてしまったが、屋内プールや柔剣道場などを備えた「愛宕が丘スポーツセンター」の中に改めて弓道場が作られた。 2射場12的立てられるので大規模な大会はいつもここで開催されるし、普段の稽古で弓道場のない近隣高校と社会人の会員たちが同時利用してもスペース的にかなり余裕がある大型道場が私のホームグラウンドだ。 私こと長野美織の特技というか趣味は弓道である。高校から大学を経てかれこれ10年続けており、段
扉が開き、ホームへ降りる。 「あちぃー」 そびえ立つ駅前ホテルを見上げながらボヤいてみる。海からの潮風も相まって既に肌がべたべたしてきている。 隣駅が県庁所在地にあるので、新幹線から降りてくる乗客も多い。スーツ姿のサラリーマンが目立つ。仕事帰りの時間だ。 と、後ろから肩を掴まれ背筋が凍りつく。恐る恐る振り返ると、デカい声が降ってきた。 「なんや、みお同じ電車やったんや!なんしよーん?」 兄貴こと長野和(なごむ)は大学病院の小児科医だ。 「兄貴かぁ…通報し
筆不精でご無沙汰してしまいました。 自堕落な生活に渇を入れるには毎週締め切り作って何かひねり出すこと。 定期的に何か書こうと思ったのですが、何となく小説じみたものを・・・。 旅と弓が好きなOL・美織の日常を描くみたいなストーリーで。 いつまで続けるかわかりませんが書いてみようかな。 物語の名前は・・・仮に『会を求めて』とでもしておきましょう。 毎週金曜日目標!
3年ぶりに弓道会の例会が開催。 今回は3人団体の二チームでの開催と小規模。 6手(12射)の予定が時間が余ったため7手目まで進み14射。 結果は×××〇××〇×××〇〇×〇(14射5中) 課題としては ・押手肩入っておらず2時の方向 ・前離れで9時 ・胸弦をわずかだが迎えに行ってしまって上半身力み ・会が長すぎるというより持ちすぎ ・的に向ける集中力が弱い気がする ・狙いがころころ変わりすぎ ・少し引き分けの時胸を張らず懐を大きくしてみると、会の時確実に体に弓が入っ
寄席なんて高校の時分に芸術鑑賞教室で観て以来実に10年振り。元来喋りたい質であるから、落語や落語家という人々への興味はあり、人前であれだけ喋れたら…という憧れもある。 ところは福岡市博多区、開館10周年を迎えたJR博多シティ9階のJR九州ホール。先々週『かぐや様は告らせたい?』の展示会で来たところだった。今日も向かいのTjoyは高木さんや中野五姉妹がポスターを彩り、オタク心を揺さぶってきたが、私の目は二人のダンディな師匠方に向けられた。 立川談春さんと生志さんと
ロームシアター京都https://rohmtheatrekyoto.jp 今回の京アニミュージックフェスの会場となったのは、京都会館ことロームシアター京都。過去にも作品の音楽イベントに使われてきましたし、『劇場版響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』では吹奏楽コンクール関西大会の会場として登場した聖地でもあります。広大な岡崎公園内にあり平安神宮が近く、目の前にはみやこめっせもあります。大ホールは3000人規模ですが4階席まであり、今回私たちの座席は2階の右側バルコニー席
11月21日(日)、私を乗せたさくら540号は快調に飛ばし新大阪駅に到着しました。7割ほど埋まった車内から多くのお客様が流れ出ていきます。コロナ禍もいったんの落ち着きを見せ、紅葉シーズンも相まって観光に出かける人々の様子が見て取れる構内を、小走りに京都線ホームへと向かいます。 そう!今日の目的地は古都・京都。地元が誇るアニメ制作会社・京都アニメーションのミュージックフェスティバルが行われるのです! 京都駅ビルストリートピアノ 京都駅ビルの構造は特徴的で、左右に盛り上が