(仮)会を求めて5

 野球のバッターが手袋をしたり、肘当てを付けたりして初めてバットを持って打席に向かうように、弓道の射手も射場に向かうにはそれなりの準備がいる。拝礼を終えた私と和香先輩は、横並びに正座してまずは女性の射手のみになるが「胸当て」という防具を着ける。射法八節の一つ「会」の時に胸弦がついて、頬付けをして「離れ」へと進むのだが、玄人であれば矢を放つ時には弓がきれいに回転して弦は胸から離れ外回りしていくが、素人だと内回りし最悪胸を擦ってしまうのである。制服のようなボタン付きの服で引かざるを得ない時には男性も着けて引く姿を見かける。大学では「右肩にかけて左流し」のスタイルだったが、社会人になってからは高校時代と同じ「左肩にかけて右流し」に戻した。浅生先生が「湯川さんが右流しなのに長野さんが左流しじゃ、チームの仲が悪そうに見えるじゃないですか」と言い出したのがきっかけだが、一応全弓連は前者を推奨しているらしい。

 次に、右手に「弓懸け」という道具をはめていく。鹿の皮でできており弓具の中では値が張る部類に入る。「かけがえのない」という言葉の語源になるくらい重要な道具でオーダーメイドになることが多いので、一つ学生たちにとっては金銭面の大きな壁となる。
 鹿革は湿気に弱いので、右手に直接はめるのではなく薄布でできた下掛けを巻きつけてからはめていく。正確には「挿す」というのだが、「点滴みたいだな」と兄貴に言われて以来口に出す時にはあまり言わないようにしている。 弓を握る側の左手にも「押手懸け」と呼ばれる、これの小さいバージョンを着けて引く人もいるが私はつけた時の違和感に負けて以来着けたことがない。

 そして、弓懸けにはギリ粉、弓を持つ左手には的中粉をそれぞれ振りかける。これも少し変わった素材なのだが、ここでは省略する。どちらも滑りやすくするための粉だ。

 弓と矢を持ち私と先輩はいよいよ射場へ歩を進めた。

面白いアニメ聖地があれば教えてください。読者様がお望みでしたら、どこでも駆けつけ取材したいと思います。