(仮)会を求めて6

 私たちの所属する愛宕が丘弓道会の暗黙の了解として、稽古を始めるときには礼射を一手(2本)引き、当番の先生に見ていただくことになっている。  

 それでなくても緊張するというのに、
 
 「今日は先輩たちから射技や体配の美しさを学びとりましょう。湯川さん、長野さん、良い手本を見せてくださいね」

 という浅生先生の発案で高校生の見取り稽古も兼ねてみんなで見守るというからたまらない。
 
 皆の注目が集まる中、大前(1番手)の和香先輩に私がついていく形で脇正面を本座まで進む。仕事柄なのか和香先輩は呼吸法がもの凄く上手く、歩く、坐るといった動きのリズムに乱れが一切ない。基本的に後ろの私は大前のリズムに合わせて歩を進めるが、先輩の時は見えていないはずの私の動きに合わせてくれているかのような不思議な感覚になる。

 射位へ進み弓を起こし矢を番え和香先輩が立ち上がる。胴造りが完成し、先輩が右腰に手を置いたところで私も立ち上がる。目線はやや下げ気味で自分の番を待っていると「カン」という甲高い弦音を響かせ、先輩の矢が放たれた。小柄な先輩の背中がちょうど真正面に見えるのだが、その残身は本当に美しい。矢は「タン」と小気味良い音をたて、正鵠右上に収まった。
 次は私だ。バランスよく引き分けたつもりだが、少し緊張感か旅の疲れか勝手(右手)が緩んで矢が放たれた。的を得ることはできず的左上の安土に突き刺さったが気落ちする猶予はない。
 
 和香先輩が次の矢を放つと「ガッ」という鈍い音がして的の枠に矢が突き立ってしまった。的枠からはじき出されていれば×だが、この場合は○だ。先輩はサッと弓を倒し退場口へ向かった。
 そして私。先程の一射を反省し、会はとにかく伸びた。離れが出た瞬間、的まで一直線に糸のようなものが見えた気がした。「押手は貫徹力、勝手は推進力」というのは私の持論なのか誰かが言ったのか知らないが、私の使う伸13kgなら正しく引けていれば矢は必ず的に届くと信じている。私の渾身の一撃は見事正鵠に収まり、残心は高揚感に満たされた。
 私の退場を見届けると、審査席から割れんばかりの拍手が湧いた。和香先輩がニッとこちらに笑いかけた。

面白いアニメ聖地があれば教えてください。読者様がお望みでしたら、どこでも駆けつけ取材したいと思います。