「アメリアの花」第4話

第三章 二つの世界

周りを見渡してみると、さっきの空き地に戻っていた。あんなに咲いていたアメリアの花はもうない。しかし、その代わりに咲いていたのがタンポポの花。
元の世界に戻ったのかもしれない。僕が連れられる前の、あの世界へ。見回してみても、そこにあるのはタンポポだけで、女の姿はどこにもなかった。
ゆっくりと、もと来た狭い道を通って大きな道へ出る。
また、日にちや時間は変わっていないだろうか。もしかしたら、時間が違っていたりするかもしれない。そう考え、カバンの中からスマホを出した。時間と日にちをチェックしたが、日にちは変わっていなかったし、時間も十五時五十分で、学校が終わって三十分ほどした時間だった。
 ひとまず駅に向かうことにする。歩きながらすれ違う人や同じ高校の生徒を見ていたが、何も変わりがないように思えた。
元の世界に戻れたのか、もしくは三つ目の世界に連れて来られた可能性もあるかもしれない……。
まるで間違い探しのようだ。間違いが見つかっても嫌だが、逆に間違いが分からないまま、この世界に馴染んでしまうというのも怖い。
あの女の言っていた言葉を思い出す。
『また気づかないかと思った』
あいつはそう言っていた。『また』とはどういうことなのだろうか。もしかしたら僕の知らない間に、何度か僕の世界を入れ変えられていたことがあったりして……。そうだとしたら恐ろしい。僕はそれにも気づかずに日常を送っていたということになるからだ。
駅までの道のりを歩いているがアメリアというあの花は咲いていないし、その代わりにタンポポが咲いている。もしかしたら本当に元の世界に戻ることができたのかもしれない。
それにしても、一日間だけ違う世界に滞在させられたのはなぜだったのだろう。あの女は僕に何をしたかったのだろう……。そんなことを考えながら歩いていく。電車に乗って、とりあえず家に帰ることにしよう。僕の部屋に飾ったはずの、あの、アメリアの花を確かめたい。
僕は急いで電車に乗り、家への道を歩いていく。昨日あったはずのアメリアの花は、やっぱりどこにも咲いていない。その代わりタンポポの花が、風に揺られて咲いていた。
 家につくとすぐに二階に上がる。机の上を見てみると、思った通りタンポポの花が飾ってある。
やっぱりあの世界のアメリアが、こっちの世界のタンポポなのだろう。つまり、アメリアの花はもうないということ。
きっと僕は、元の世界に戻ってこられたのだ。
 ……だが。
疑問が一つ沸き上がる。僕があの世界に行っている間、この花を摘んできたのは一体誰なのだろう……。あの世界にいた僕? そう思うといてもたってもいられなくなった。僕はすぐに部屋を飛び出し、リビングにいる母親の元へ向かった。
「母さん、俺、タンポポさ……」
「え? 達也が昨日取ってきたんじゃない。昨日はあんた、少しおかしかったわよ。みっちゃんがいないとか、そんなこと言って。それにタンポポの花なんか飾っちゃって。え? タンポポがどうしたって?」
「いや、何でもない。タンポポ、俺、取ってきたんだよなぁって思って。みっちゃんね、あぁ。みっちゃんはね、近所にいたんだよ。みっちゃんっていうおばあちゃんが」僕は適当にごまかす。こっちの世界には、みっちゃんは存在すらしていなかったらしい。
「ふぅん。まぁいいけどね」母さんはそう言うと、テレビを見始めた。
昨日、この花を取ってきたのは僕とは違う、僕。そして、母さんとみっちゃんの話をしたんだ。ここにいた僕は一体……。アメリアの世界にいたはずの僕……だったのだろうか。ということは、僕と、入れ替わりでこの世界に来ていたのかもしれない。
僕が二人いて、母さんや父さん、浩太も二人いるということか……。
二人……。
僕が、僕以外に存在している。違う世界がある。……あぁだめだ。混乱してきてしまった。
……そうだ。分かっていることだけまとめてみよう。何か分かるかもしれない。
僕は自分の部屋に戻ると、コピー用紙を取り出した。そしてそこに、現時点で分かっていることだけ書き出すことにした。

『僕の世界』   『アメリアの世界』
タンポポ       アメリア
ぎりぎりに登校    早く登校→寝てる   
みっちゃん いない  小学校一年まで同居
           じいちゃんの姉
杉原さんが存在する  田代さんと入れ替わり?
指原は四組      同じクラス
           一緒に帰っていた
おでこのケガなし   おでこに傷跡

あとは……どうだっただろう。分からない。思い出せない。とにかく、一日だけ違う世界に行っていたということは確かだ。あっちの世界の僕も、僕と同じように誰かに連れられてこの世界に来ていたのかもしれない。
あの女にか? 分からない。一体何のために僕らは入れ替えられたのだろう。
 ふとここで、僕は授業中見た夢を思い出した。
大切なことに気づかないと何とかって言っていた。これはもしかしたら正夢だったのかもしれない。今日会ったあの女も同じことを言っていたからだ。大切なことに気づかないと、どうなってしまうというのだろう。
第一、今は元の世界に戻ってきている。だからもう大丈夫なんじゃないか。それともまた、あの女に連れられるのだろうか……。
考えが堂々巡りしている。余計なことを考えるのはやめよう。頭が混乱するだけだ。
ただし、もしまたあの女を見つけたら、絶対に逃がしはしない。
僕はそう決意した。
僕はその後も、学校の行き来や暇なときにランニングをしてあの女を探してみたが、やはりあいつを見つけることはできなかった。
日常も特に変わりはなく、日に日にあの女のことは頭の隅に追いやられていった。机に飾ってあったタンポポの花も、すでに枯れてしまっていた。

第1話:https://note.com/yumi24/n/n93607059037a
第2話:https://note.com/yumi24/n/n3bd071b346dc
第3話:https://note.com/yumi24/n/n8a0cdcc0c80b
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