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【木曜日】【短編】本当に怖くない猫の話

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1話完結型です。何でも屋の男が猫の見合いを依頼してきた女性によって、猫に関する依頼が増えて猫にまつわる話を聞かされるという形で書いています。
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#連載小説

【全話】本当に怖くない猫の話

【全話】本当に怖くない猫の話

はじめに

noteでこれまで書いた同じタイトルのものをまとめようと思い立ちました。この「本当に怖くない猫の話」を一つにしています。
正直、誰か読んでくださったかわからないですが、9万字以上も書いたんですね。
noteでは、ほとんど日記や読書感想文を書いています。たまにこうした小説を性懲りもなく書いていますが、あまり気にせずお付き合いいください。
誤字脱字など校正に手を出すと、話がすっかり変わって

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続・本当に怖くない猫の話「憧れの人の助言」

続・本当に怖くない猫の話「憧れの人の助言」

「おっと、すみません」
「いえ、こちらこそ邪魔しました」
後ろから肩にぶつかられ、手に持っていたグラスの赤い液体が揺れてあわや一張羅のスーツにワインのシミができるところだった。それを持ち前のバランス感覚で回避した男は、目の前の仕立ての良いスーツを着た背の高い男性を見上げた。
2人がぶつかったのが、タイミングになってしまったのか、その長身の男性と一緒にいた女性が、話を切り上げて、別の席に去っていって

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続・本当に怖くない猫の話「猫と小判」

続・本当に怖くない猫の話「猫と小判」

 昨日はケージから脱走して自由を満喫した子猫2匹たち今日は外に出る気が全くないようだ。やんちゃ盛りの子猫たちをケージの外から見守っているメス猫二匹に子猫と血縁関係なないらしい。その猫たちもケージの方に顔を向けているだけで、だらりと床に寝そべっていた。扉が閉まっていないので、どうしても猫たちの様子が目に入って、話の内容に集中できない。
 あまり愛想がよくないという猫たちは、初対面のなんでも屋にほぼ無

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【短編】続・本当にこわくない猫の話「コンプレックスは猫で解消」

【短編】続・本当にこわくない猫の話「コンプレックスは猫で解消」

 なんでも屋は疲れていた。連日の仕事で疲労はピークに達していた。
 結婚相談所のスタッフの仕事ではない。なんでも屋の仕事の方だ。なんでも屋は自分の生計の基盤が、いかに結婚相談所の仕事の方にあろうともなんでも屋が本業だと思って続けてきた。けれども、それもそろそろ返上しなければならない。四十の坂も目前の一生独身の自分が結婚相談所の職員として説得力のない仕事を続けていくことが運命として定まっているのかも

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続・本当に怖くない猫の話 part.5

続・本当に怖くない猫の話 part.5

番犬をする野良猫猫に好かれすぎて困っている。
猫のせいで婚期を逃してしまいそうだと真剣に訴えてきた女性はまだ20代であった。
実家は資産家だが、大学を卒業して後はよほどのことが無ければば援助をしないと言われている。
大学卒業後は、ずっと派遣社員。収入が少なくとても猫3匹も養う余裕がない。今の2匹だって手いっぱいなのだ。
しかし、まだ後一匹家に入りたがる猫がいる。
その猫は最も健気で、彼女が帰宅する

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本当に怖くない猫の話 part.2

本当に怖くない猫の話 part.2

何でも屋は、ある女性に猫のお見合いを頼まれた。成功報酬20万円の仕事だ。他人様から見ればずいぶんとバカバカしいような話かもしれないが、彼は少し張り切っていた。子どもの頃に飼っていたオス猫が近所のボス猫になるくらい強く、それでいて捨てられた子猫を見つけて助けて育ててやるくらいに優しかったのだ。生きていれば、女性の賢い飼い猫の良い伴侶になったに違いないと思った。

「この子を、お見合いさせたいという話

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本当に怖くない猫の話 Part.3

本当に怖くない猫の話 Part.3

半年前に仕事を辞め、失業保険が切れてから何でも屋を始めた男の一日は暇だ。数年前に亡くなった祖父の家で一人暮らし。庭の手入れをするのが、両親と約束したその家に住む条件だったので、毎朝少しずつ庭木を切ったり手入れをしている。朝ごはんを食べたら、毎日ネットフリマに古物を一つ出品してわずかな収入の糧としていた。今月は臨時収入があったので、朝食が豪華になった。ベーコンエッグ、コーンポタージュ、蜂蜜トースト、

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本当に怖くない猫の話 Part.4

本当に怖くない猫の話 Part.4

三十路を超えて何でも屋を開業した?と言ってよいかもしれないと最近思い始めた。買い物代行をネットに出したら、思いのほか依頼が舞い込んだ。1日1件は必ず仕事がくる。コロナ禍で失業者が溢れ、男もその一例ではあるが、これが通常時であれば、こんな商売は成り立たなかったかもしれない。外出自粛が叫ばれる昨今にあって、ネットを見ている時間もみな増えているのだろう。

何でも屋が初めて受けた依頼に、その日、一筋の光

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本当に怖くない猫の話 part.5

本当に怖くない猫の話 part.5

彼女は、猫を撫でながらかつてのことを思い出していた。

仕事を辞め、実家で一人暮らしを始めて1年目にその猫はやってきた。

「あっちへ行きなさいよ!しっ、しっ」

桜の花も散り切った4月の中頃のことだ。生後2か月ちょっとくらいだった。庭先に現れた三毛猫は鼻水を垂らしてやせぎすでいかにも病気持ちといった感じだった。

(かわいそうだけど、拾ったら病院に連れていかなければならないものね)

猫は治らな

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本当に怖くない猫の話 part.6 前編

本当に怖くない猫の話 part.6 前編

無職になると何もかもが嫌になる瞬間が必ずくる。何でも屋は今がそういうタイミングだった。「何でも屋」なんて名乗ったところで、家賃のいらない祖父母の家でその日暮らしをしていれば、定職につかないフリーター扱いされても仕方がない。いい年をして・・・と親が言ってきたわけでもなかったが、ささいなことで言い争いをしてしまい、親が差し入れに持ってきた大量のパックのおかずを食卓の上で見た時に何でも屋は何とも気まずい

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本当に怖くない猫の話 part.6 後編

本当に怖くない猫の話 part.6 後編

依頼人は8時過ぎに身なりを整えて起きてきた。黒猫と三毛猫に挟まれている何でも屋を見て少し眉を上げたものの、落ち着いた様子でお茶を淹れると何でも屋にもすすめた。

「今日はどうしましょうか」

「とりあえず、その子猫のことを聞いてみないといけませんね」

「そうですね。お願いします」

何でも屋は何となく一人で旅館の人に子猫のことを聞きにいく気がしなかったので、ひたすら依頼人が起きてくるのを待ってい

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本当に怖くない猫の話 part.7

本当に怖くない猫の話 part.7

何でも屋は憤っていた。

今朝、久々に母に電話をした。近況報告でもと思っていたら、いつの間にか愚痴になった。

『気のせいよ』

は?

何でも屋の愚痴を母は切って捨てた。

『猫も飼って悠々自適の暮らしなんでしょ。疲れているなんて気のせいよ。じゃ、このご時世だから絶対帰って来ないでね』

母はすげなく言って電話を切った。

何でも屋は膝の上の子猫を撫でながら天井を仰いだ。身体がだるい。熱はないの

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本当に怖くない猫の話 part.8

本当に怖くない猫の話 part.8

何でも屋が子猫を飼い始めて1ヶ月が経った。名前はまだない。いや、最初は世間で人気の名前にしようと思ったのだ。しかし、せっかく黒猫なのだから、見た目に合う名前にしたいと思った。

とはいえ、 某アニメの猫とか”クロ”という名前にしたら、脱走したときに他の猫と区別がつかないかもしれない。飼い猫じゃなくても、クロクロと呼ばれている野良猫がいたら振り返ってしまうかもしれない。今は子猫だから良いが、大人にな

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本当に怖くない猫の話 part.9

本当に怖くない猫の話 part.9

何にもしたくなくなる時がある。それでも朝が来て、子猫にたたき起こされる。いや、最近は猫も気を遣っているのか、以前のように朝4時ごろににゃあにゃあ鳴き叫ぶことはなくなった。ただ、枕元で無言の圧をかけて朝の6時ごろまで待っている。たまに髪の毛をちょいちょいと弄ばれていることには気づいているが、意地になって何でも屋も6時前後までは何が何でも起きないぞという気になっている。

生後5か月くらいを迎えて子猫

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