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消えてく光にねがいごとを

近年、これほどまでに穏やかな夏休みがあっただろうか。
遠出しない、人に会わない、それだけで、凪いだ瀬戸内海のような毎日。

・おうちプール(テントの下で食べるレトルトカレー最高)
・おうち花火(去年の残りものにもちゃんと火がついた)
・おうちパンケーキ(ホケミ+牛乳多め)
・おうちフルーツサンド(具材はフルーツ缶。庭のブルーベリーを添えて)
・おうちたこ焼き(みじん切りキャベツ入れるのうちだけ?)
・おうち映画館(アマプラさまさま)
・おうちプラネタリウム(ペルセウス座流星群の夜。真っ暗な寝室の窓辺からしばらく目をこらしたけど結局ひと粒も流れなかった)

怒涛のおうちコースに華を添える【外出編】では。
・近所のラーメン屋さんのテイクアウトに初挑戦(やっぱり麺は伸びちゃうよな、これは1分1秒の戦いになるぞ、と爆走覚悟で予約時間のぴったり3分前に息を呑んで入店したら、まさかのおうちで茹でるスタイル!スープも完璧なパウチ詰め。心配ゼロの優雅な帰り道。ブラボー!)
・週末は図書館で本を返却&借りる(毎度4人で40冊弱)
・カレンダー通り勤務の夫にお盆休みは皆無(平日朝の恨めしそうな顔)

そんなディープなおうち三昧。
もちろん姉弟喧嘩も勃発した。だけど、私が【全く時間に追われていない】というだけで、いつもより少しだけ寛容でいられた。
のんびりし尽くしたと思っても、まだまだ心も体ものんびりしたがるもので、わたしはわたしに苦笑いするしかない。

だらけを極めたこないだの夜、この夏2度目のおうち花火を決行した。
短いろうそくから上手に火をとり、赤や緑の火花を咲かせる。
バケツにじゅん!と燃え残りを落とすのもお手の物。
昼間のけだるい気配がかすかに残る星空の下。

すぐに終わっちゃう小さいやつ、きれいだな。
線香花火の大きい版って、けっこうしぶといな。
蚊にかまれるのだって織り込み済み。
わたしこのまま夜空に溶けちゃうのでは。
はしゃぐ子どもたちを横目にそう思って、ふと星空を見上げたその時。

ひときわ明るい星のそばに、ひとすじの短い光がピュン!
「あ!」
光の残像に目をつぶって、とっさのお願いごと。
ひとり南無南無するわたしに気づいて「おかあだけ、ズッル!」「ズッル―!!」の大合唱。
流星群の夜の窓辺では、待てど暮らせど流れなかったのに。
待つときには流れない。見つめる鍋は煮えない。これ自然の理。

ちいさな花火と流れ星と子どもたち。
いつか、しあわせだったなって思い出すんだろうな。
それとも、いつのまにかぜんぶ忘れてしまうのかな。
目を閉じて、手を合わせたまま。しばしの静寂。

流れ星 流れ星 すぐに消えちゃう君が好きで
流れ星 流れ星 本当の神様が同じ顔で 僕の窓辺に現れても
【スピッツ/流れ星】

目を開けると同時に、脳内で再生され始めたマサムネ氏の声。
切なくて、はかなくて。すぐに消えちゃう。だから美しい。
消えない花火には、誰も心を躍らせない。
すぐに消ちゃうから、流れる星に願いごとを託したくなる。

『明日も穏やかに過ごせますように』

結局のところ、流れ星は、私のとっさの願いごとを叶えてくれた。
翌日、我が家はすこぶる穏やかだった。
娘と2学期の準備をしゅくしゅくと整え、休憩に好物の甘栗を分け合って食べた。
息子は、食パンを4等分し(切ったのわたし)、マヨネーズをぐるりとかけ、仕上げに青のりをあしらって(あしらったのわたし)【マヨおかし】を作ってくれた(つまり息子はマヨ以外はディレクター)。
このように、流れ星の威力はすさまじかった。

『明日も』のところ、『ずっと』にしとけばよかったかな。
遠浅の海のような夏休みもあと少し。

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