武知志英

日本の医療業界、製薬業界、IT業界、データ解析業、病院経営のコンサルティングなどのビジ…

武知志英

日本の医療業界、製薬業界、IT業界、データ解析業、病院経営のコンサルティングなどのビジネス経験を持つ。複数のメディアに寄稿するなど、執筆活動も展開中。

マガジン

  • 黄エビネが咲く庭で

    このマガジンは、医療の小説です。 医療・製薬・ITなどのビジネスを手掛けてきた私、武知志英が、日本の医療の質を高め、日本に住む人たちが安心して生きていけるようにする処方箋を、実際の医療の世界に基づきつつ、フィクションで描いた小説です。

記事一覧

固定された記事

黄エビネが咲く庭で (第一章 日本の医療をITで変革する)

第一章 日本の医療をITで変革する 「蒼生、国が長く続くためにはな、最低三つのことが必要なんだ。何だか分かるか?」  吉田からの急な質問に、思わず蒼生は戸惑った。…

武知志英
7か月前
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黄エビネが咲く庭で(第十六章 吉田と松坂の核心と革新と確信)

黄エビネが咲く庭で(第十六章 吉田と松坂の核心と革新と確信) 医療DX勉強会、開催される  第1回の医療DX勉強会が開催された。  この勉強会で初めて、日本の医療のDX…

武知志英
2日前
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黄エビネが咲く庭で(第十八章 電光石火)

第十八章 電光石火 第2回医療DX勉強会 開催   第2回医療DX勉強会が開催された。  第2回から、デジタル庁の井出が部下の崎本を勉強会の管理運営の一員として参加させ…

武知志英
5日前

黄エビネが咲く庭で(第十七章 錯綜する思惑)

第十七章 錯綜する思惑  吉田たちは、松坂の仲介で、POC(Proof of Concept: 概念実証)としてではあるものの、厚生労働省のNDB(ナショナル・データベース)にアクセス…

武知志英
7日前

黄エビネが咲く庭で (第十五章 吉田たちに差し込む一筋の光明)

第十五章 吉田たちに差し込む一筋の光明  井出がデジタル庁長官の濱田に対して医療DX勉強会のアジェンダの案を見せながら、勉強会の方向性や議論の進め方などを話し合っ…

武知志英
13日前
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黄エビネの咲く庭で(第十四章 松坂と吉田のファーストコンタクト)

第十四章 松坂と吉田のファーストコンタクト  ある日、吉田が会議を終えて、自分の机に戻ってきた時だった。  吉田の机の電話が鳴った。内線からの電話だった。 「はい…

武知志英
1か月前
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黄エビネが咲く庭で (第十三章 日本の医療の課題)

第十三章 日本の医療の課題  松坂のスマートフォンが鳴った。メールをしてきたのは、高校の同級生の鈴木だった。  鈴木からのメールには、近々、松坂の仕事終わりに会…

武知志英
2か月前
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黄エビネが咲く庭で (第十二章 政治家と省庁と民間企業)

第十二章 政治家と省庁と民間企業  吉田の会社の鈴木が厚生労働省に連絡を取ろうとしていた頃だ。  厚生労働副大臣の小川は、厚生労働省の厳選した数人と、デジタル庁…

武知志英
3か月前
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黄エビネが咲く庭で (第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ)

第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ  医療には、さまざまな人たちが関係している。  患者さん、患者さんのご家族、医師、看護師、薬剤師、さまざまな検査の技師…

武知志英
3か月前

黄エビネが咲く庭で (第十章 医療の利権争いの胎動)

第十章 医療の利権争いの胎動  デジタル庁長官の濱田は、デジタル庁の小さな会議室の中で一人、イライラしていた。  長官の席で、椅子に深く腰掛け、天井を見上げたり…

武知志英
3か月前
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黄エビネが咲く庭で (第九章 課題だらけの日本の医療)

第九章 課題だらけの日本の医療  吉田と蒼生は、他のプロジェクトメンバーと一緒に、日本の医療のビッグデータとその生い立ちについて調査を始めた。  調査の対象は下…

武知志英
3か月前
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黄エビネが咲く庭で (第八章 吉田と蒼生の共同戦線)

第八章 同志となった吉田と蒼生 中高年のぼやきは、ビジネスの種?  蒼生は母の葬儀から戻り、また仕事の日々が再開した。  その頃、蒼生の勤務先であるインフィニテ…

武知志英
5か月前
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黄エビネが咲く庭で (第七章 末期の水、後悔の念)

第七章 末期の水、後悔の念  蒼生は母の死を父から聞いてから急いで実家に戻ったものの、到着したのは母の納棺が終わった後だった。  蒼生の仕事の引き継ぎや客とのス…

武知志英
5か月前

黄エビネが咲く庭で (第六章 スマートフォン越しの母子)

第六章 スマートフォン越しの母子  蒼生が母とスマートフォンのアプリ越しに顔を見ることができたのは、その頃のことだった。蒼生が父に頼んで、母の病室に入った時にス…

武知志英
5か月前

黄エビネが咲く庭で (第五章 父と母のひとときの儚い幸せ)

第五章 父と母のひとときの儚い幸せ  退院後、蒼生の母の開口一番は 「ああ、やっぱり家はゆっくりできる」 だった。  蒼生の父は、自宅で妻と他愛の無いこんな話がで…

武知志英
5か月前

黄エビネが咲く庭で (第四章 母のリハビリ、父のお見舞い)

第四章 母のリハビリ、父のお見舞い  その日から、蒼生の父は毎日、妻が入院している病院にお見舞いに行った。  連日、車で往復130km以上の距離を、妻の着替えや入院に…

武知志英
5か月前
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黄エビネが咲く庭で (第一章 日本の医療をITで変革する)

黄エビネが咲く庭で (第一章 日本の医療をITで変革する)

第一章 日本の医療をITで変革する

「蒼生、国が長く続くためにはな、最低三つのことが必要なんだ。何だか分かるか?」
 吉田からの急な質問に、思わず蒼生は戸惑った。吉田は、蒼生の勤務先のIT企業『インフィニティヴァリュー』の社長だ。蒼生は心の中で、
「(おいおい、サラリーマンばっかりの駅近の居酒屋で、ビールと焼き鳥片手に天下国家の談義か?)」
と思った。
 だが、吉田という人はいつも、なんでもない

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黄エビネが咲く庭で(第十六章 吉田と松坂の核心と革新と確信)

黄エビネが咲く庭で(第十六章 吉田と松坂の核心と革新と確信)

黄エビネが咲く庭で(第十六章 吉田と松坂の核心と革新と確信)

医療DX勉強会、開催される

 第1回の医療DX勉強会が開催された。
 この勉強会で初めて、日本の医療のDXに関わる厚生労働省、デジタル庁、財務省、経済産業省、吉田らを中心とした有識者数名が顔を合わせた。

 勉強会は、厚生労働省が用意したアジェンダに従って進行した。
 まずは各人の挨拶と名刺交換から始まり、医療DX勉強会の目的、ゴー

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黄エビネが咲く庭で(第十八章 電光石火)

黄エビネが咲く庭で(第十八章 電光石火)

第十八章 電光石火

第2回医療DX勉強会 開催 

 第2回医療DX勉強会が開催された。
 第2回から、デジタル庁の井出が部下の崎本を勉強会の管理運営の一員として参加させた。

 また、インフィニティヴァリューの吉田は、蒼生を参加させた。蒼生は、彼の母を亡くした経緯と、それを通じて医療におけるデータの重要性を医療の消費者の立場から勉強会で発言することになっていた。

 勉強会の冒頭、崎本と蒼生は

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黄エビネが咲く庭で(第十七章 錯綜する思惑)

黄エビネが咲く庭で(第十七章 錯綜する思惑)

第十七章 錯綜する思惑

 吉田たちは、松坂の仲介で、POC(Proof of Concept: 概念実証)としてではあるものの、厚生労働省のNDB(ナショナル・データベース)にアクセス可能になり、レセプトデータを日本全国の規模で分析できるようになった。
 その分析結果は随時厚生労働省に共有され、同省内の各会議体での議論に活用された。

 吉田のインフィニティヴァリューのBIツールは、厚生労働省の

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黄エビネが咲く庭で (第十五章 吉田たちに差し込む一筋の光明)

黄エビネが咲く庭で (第十五章 吉田たちに差し込む一筋の光明)

第十五章 吉田たちに差し込む一筋の光明

 井出がデジタル庁長官の濱田に対して医療DX勉強会のアジェンダの案を見せながら、勉強会の方向性や議論の進め方などを話し合っている間、蒼生たちはレセプトデータの活用についての議論を深めていた。
 蒼井たちはレセプトデータを扱っている社会保険や国民保険の担当者にコンタクトし、アポイントをもらった。そして、その担当者にレセプトデータがどのように活用されているのか

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黄エビネの咲く庭で(第十四章 松坂と吉田のファーストコンタクト)

黄エビネの咲く庭で(第十四章 松坂と吉田のファーストコンタクト)

第十四章 松坂と吉田のファーストコンタクト

 ある日、吉田が会議を終えて、自分の机に戻ってきた時だった。
 吉田の机の電話が鳴った。内線からの電話だった。
「はい、もしもし」
「社長、厚生労働省の松坂さんという方からお電話です」
「えっ、厚生労働省?そうか、つないでくれ」
 電話の向こうの、吉田の会社の女性社員が、松坂を吉田に取り次いだ。

「はい、お電話代わりました。吉田でございます」
「吉田

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黄エビネが咲く庭で (第十三章 日本の医療の課題)

黄エビネが咲く庭で (第十三章 日本の医療の課題)

第十三章 日本の医療の課題

 松坂のスマートフォンが鳴った。メールをしてきたのは、高校の同級生の鈴木だった。
 鈴木からのメールには、近々、松坂の仕事終わりに会いたいということが書かれていた。
 松坂は、鈴木がIT企業で仕事をしていることを知っていた。最近はお互いに忙しくしていたから、会うのは久しぶりのことだった。
 松坂は鈴木に、
「仕事の後に会って飲みながら話そう、日時と場所を調整させてくれ

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黄エビネが咲く庭で (第十二章 政治家と省庁と民間企業)

黄エビネが咲く庭で (第十二章 政治家と省庁と民間企業)

第十二章 政治家と省庁と民間企業

 吉田の会社の鈴木が厚生労働省に連絡を取ろうとしていた頃だ。

 厚生労働副大臣の小川は、厚生労働省の厳選した数人と、デジタル庁の濱田とその部下数人、そして財務省と経済産業省との会議を招集していた。
 日本の医療DXを推進するための勉強会を立ち上げるための会議だった。 

 小川は濱田との対話の後、非公式で財務省、デジタル庁とも話し合い、日本の医療DXを促進させ

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黄エビネが咲く庭で (第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ)

黄エビネが咲く庭で (第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ)

第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ

 医療には、さまざまな人たちが関係している。
 患者さん、患者さんのご家族、医師、看護師、薬剤師、さまざまな検査の技師、社会保険庁や都道府県及び市町村など、幅広い職種・業種が医療に関わっている。
 病院や診療所、クリニックなどで見かける外来のパソコン(電子カルテや検査の指示を出すオーダリングシステムなど)も、その専門のIT業者が医療機関をサポートしていて

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黄エビネが咲く庭で (第十章 医療の利権争いの胎動)

黄エビネが咲く庭で (第十章 医療の利権争いの胎動)

第十章 医療の利権争いの胎動

 デジタル庁長官の濱田は、デジタル庁の小さな会議室の中で一人、イライラしていた。
 長官の席で、椅子に深く腰掛け、天井を見上げたり、床を見たり、部屋の隅を見たりと視線があちこちにキョロキョロしてしまっていた。
 濱田は、落ち着きを全く無くしていて、腕組みに力が入っていて、足も貧乏ゆすりが止まらなかった。
 その理由は、ついさっきまで、内閣総理大臣の太田から日本のデジ

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黄エビネが咲く庭で (第九章 課題だらけの日本の医療)

黄エビネが咲く庭で (第九章 課題だらけの日本の医療)

第九章 課題だらけの日本の医療

 吉田と蒼生は、他のプロジェクトメンバーと一緒に、日本の医療のビッグデータとその生い立ちについて調査を始めた。

 調査の対象は下記のとおりで、それらをプロジェクト内のメンバーが分担して調査し、その結果は随時プロジェクトメンバー全員にシェアされた。
・日本の厚生労働省が推し進めようとしている医療の提供体制
・日本の医療の仕組みの更なる理解
・それらを支えているIT

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黄エビネが咲く庭で (第八章 吉田と蒼生の共同戦線)

黄エビネが咲く庭で (第八章 吉田と蒼生の共同戦線)

第八章 同志となった吉田と蒼生

中高年のぼやきは、ビジネスの種?

 蒼生は母の葬儀から戻り、また仕事の日々が再開した。

 その頃、蒼生の勤務先であるインフィニティヴァリューの社長の吉田は、社内に新たなプロジェクトの立ち上げを宣言し、そのメンバーの募集を告げた。
 新たなプロジェクトは、医療のビッグデータを扱う新規サービスの開発から顧客の創出、そしてそれらを近い将来吉田の会社の事業の柱の一つに

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黄エビネが咲く庭で (第七章 末期の水、後悔の念)

黄エビネが咲く庭で (第七章 末期の水、後悔の念)

第七章 末期の水、後悔の念

 蒼生は母の死を父から聞いてから急いで実家に戻ったものの、到着したのは母の納棺が終わった後だった。
 蒼生の仕事の引き継ぎや客とのスケジュールの調整などに手間取り、都内の職場から自宅に一旦帰り、礼服や香典などの葬儀の用意を整え、着替えをたずさえ、新幹線に飛び乗って移動したが、実家に着くまでに半日近く時間を要した。
 
 棺の中の母は、テレビ電話で見た時よりも、さらに少

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黄エビネが咲く庭で (第六章 スマートフォン越しの母子)

黄エビネが咲く庭で (第六章 スマートフォン越しの母子)

第六章 スマートフォン越しの母子

 蒼生が母とスマートフォンのアプリ越しに顔を見ることができたのは、その頃のことだった。蒼生が父に頼んで、母の病室に入った時にスマートフォンのアプリでテレビ通話できるようにしてもらったのだ。
 蒼生の昼食の時間は、母のそれとちょうど同じ時間だったから、蒼生も仕事に穴を開けずに済むし、何より蒼生自身が母の身を案じていたので、母と話せることがありがたかった。
 蒼生の

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黄エビネが咲く庭で (第五章 父と母のひとときの儚い幸せ)

黄エビネが咲く庭で (第五章 父と母のひとときの儚い幸せ)

第五章 父と母のひとときの儚い幸せ

 退院後、蒼生の母の開口一番は
「ああ、やっぱり家はゆっくりできる」
だった。
 蒼生の父は、自宅で妻と他愛の無いこんな話ができることを心から喜んでいた。
 いつものように妻が作るご飯を食べ、妻と一緒に庭に咲くさまざまな花の手入れをし、休みの日には時折遠出をして、年に1回くらい県外に旅行に出掛けて・・・。
 そんな日がまた戻ってくると、蒼生の父は信じて疑わなか

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黄エビネが咲く庭で (第四章 母のリハビリ、父のお見舞い)

黄エビネが咲く庭で (第四章 母のリハビリ、父のお見舞い)

第四章 母のリハビリ、父のお見舞い

 その日から、蒼生の父は毎日、妻が入院している病院にお見舞いに行った。
 連日、車で往復130km以上の距離を、妻の着替えや入院に必要な書類などを携え、自分で軽自動車を運転しながら、愛する妻に会うために、蒼生の父はハンドルを握った。
 大雪が降る日は、交通渋滞やノロノロ運転の中、片道2時間以上かかることもあった。それでも蒼生の父は、妻のお見舞いに行った。とにか

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