武知志英

日本の医療業界、製薬業界、IT業界、データ解析業、病院経営のコンサルティングなどのビジ…

武知志英

日本の医療業界、製薬業界、IT業界、データ解析業、病院経営のコンサルティングなどのビジネス経験を持つ。複数のメディアに寄稿するなど、執筆活動も展開中。

マガジン

  • 黄エビネが咲く庭で

    このマガジンは、医療の小説です。 医療・製薬・ITなどのビジネスを手掛けてきた私、武知志英が、日本の医療の質を高め、日本に住む人たちが安心して生きていけるようにする処方箋を、実際の医療の世界に基づきつつ、フィクションで描いた小説です。

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黄エビネが咲く庭で (第一章 日本の医療をITで変革する)

第一章 日本の医療をITで変革する 「蒼生、国が長く続くためにはな、最低三つのことが必要なんだ。何だか分かるか?」  吉田からの急な質問に、思わず蒼生は戸惑った。吉田は、蒼生の勤務先のIT企業『インフィニティヴァリュー』の社長だ。蒼生は心の中で、 「(おいおい、サラリーマンばっかりの駅近の居酒屋で、ビールと焼き鳥片手に天下国家の談義か?)」 と思った。  だが、吉田という人はいつも、なんでもない時に何気なく言うことが、ビジネスにおいて極めて重要な示唆であることが多い人だ。イ

    • 黄エビネの咲く庭で(第十四章)

      (第十四章) 松坂と吉田のファーストコンタクト  ある日、吉田が会議を終えて、自分の机に戻ってきた時だった。  吉田の机の電話が鳴った。内線からの電話だった。 「はい、もしもし」 「社長、厚生労働省の松坂さんという方からお電話です」 「えっ、厚生労働省?そうか、つないでくれ」  電話の向こうの、吉田の会社の女性社員が、松坂を吉田に取り次いだ。 「はい、お電話代わりました。吉田でございます」 「吉田社長ですね、初めまして。私、厚生労働省の松坂と申します。突然のお電話で大変申

      • 黄エビネが咲く庭で (第十三章 日本の医療の課題)

        第十三章 日本の医療の課題  松坂のスマートフォンが鳴った。メールをしてきたのは、高校の同級生の鈴木だった。  鈴木からのメールには、近々、松坂の仕事終わりに会いたいということが書かれていた。  松坂は、鈴木がIT企業で仕事をしていることを知っていた。最近はお互いに忙しくしていたから、会うのは久しぶりのことだった。  松坂は鈴木に、 「仕事の後に会って飲みながら話そう、日時と場所を調整させてくれ」 と返信した。  松坂と鈴木が会ったのは、その1週間後の夜のことだった。二人

        • 黄エビネが咲く庭で (第十二章 政治家と省庁と民間企業)

          第十二章 政治家と省庁と民間企業  吉田の会社の鈴木が厚生労働省に連絡を取ろうとしていた頃だ。  厚生労働副大臣の小川は、厚生労働省の厳選した数人と、デジタル庁の濱田とその部下数人、そして財務省と経済産業省との会議を招集していた。  日本の医療DXを推進するための勉強会を立ち上げるための会議だった。   小川は濱田との対話の後、非公式で財務省、デジタル庁とも話し合い、日本の医療DXを促進させる司令塔を構築しつつあった。  一方、小川の呼びかけに賛同して集まった財務省、

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        黄エビネが咲く庭で (第一章 日本の医療をITで変革する)

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        • 黄エビネが咲く庭で
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        記事

          黄エビネが咲く庭で (第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ)

          第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ  医療には、さまざまな人たちが関係している。  患者さん、患者さんのご家族、医師、看護師、薬剤師、さまざまな検査の技師、社会保険庁や都道府県及び市町村など、幅広い職種・業種が医療に関わっている。  病院や診療所、クリニックなどで見かける外来のパソコン(電子カルテや検査の指示を出すオーダリングシステムなど)も、その専門のIT業者が医療機関をサポートしていて、やはり彼らも医療に関わっている。    ベッド数が1,000床前後の大規模な病

          黄エビネが咲く庭で (第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ)

          黄エビネが咲く庭で (第十章 医療の利権争いの胎動)

          第十章 医療の利権争いの胎動  デジタル庁長官の濱田は、デジタル庁の小さな会議室の中で一人、イライラしていた。  長官の席で、椅子に深く腰掛け、天井を見上げたり、床を見たり、部屋の隅を見たりと視線があちこちにキョロキョロしてしまっていた。  濱田は、落ち着きを全く無くしていて、腕組みに力が入っていて、足も貧乏ゆすりが止まらなかった。  その理由は、ついさっきまで、内閣総理大臣の太田から日本のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の進捗が遅れていることをなじられ、濱田のリ

          黄エビネが咲く庭で (第十章 医療の利権争いの胎動)

          黄エビネが咲く庭で (第九章 課題だらけの日本の医療)

          第九章 課題だらけの日本の医療  吉田と蒼生は、他のプロジェクトメンバーと一緒に、日本の医療のビッグデータとその生い立ちについて調査を始めた。  調査の対象は下記のとおりで、それらをプロジェクト内のメンバーが分担して調査し、その結果は随時プロジェクトメンバー全員にシェアされた。 ・日本の厚生労働省が推し進めようとしている医療の提供体制 ・日本の医療の仕組みの更なる理解 ・それらを支えているIT技術の調査 ・それらの課題の探索 ・その他、医療とデータに関するあらゆること

          黄エビネが咲く庭で (第九章 課題だらけの日本の医療)

          黄エビネが咲く庭で (第八章 吉田と蒼生の共同戦線)

          第八章 同志となった吉田と蒼生 中高年のぼやきは、ビジネスの種?  蒼生は母の葬儀から戻り、また仕事の日々が再開した。  その頃、蒼生の勤務先であるインフィニティヴァリューの社長の吉田は、社内に新たなプロジェクトの立ち上げを宣言し、そのメンバーの募集を告げた。  新たなプロジェクトは、医療のビッグデータを扱う新規サービスの開発から顧客の創出、そしてそれらを近い将来吉田の会社の事業の柱の一つにするまで育て上げるという壮大なプロジェクトだった。    吉田はこれまで、日本人

          黄エビネが咲く庭で (第八章 吉田と蒼生の共同戦線)

          黄エビネが咲く庭で (第七章 末期の水、後悔の念)

          第七章 末期の水、後悔の念  蒼生は母の死を父から聞いてから急いで実家に戻ったものの、到着したのは母の納棺が終わった後だった。  蒼生の仕事の引き継ぎや客とのスケジュールの調整などに手間取り、都内の職場から自宅に一旦帰り、礼服や香典などの葬儀の用意を整え、着替えをたずさえ、新幹線に飛び乗って移動したが、実家に着くまでに半日近く時間を要した。    棺の中の母は、テレビ電話で見た時よりも、さらに少し顔色が黒っぽかったが、綺麗に死化粧をしてもらっていた。体のむくみは取れて、大動

          黄エビネが咲く庭で (第七章 末期の水、後悔の念)

          黄エビネが咲く庭で (第六章 スマートフォン越しの母子)

          第六章 スマートフォン越しの母子  蒼生が母とスマートフォンのアプリ越しに顔を見ることができたのは、その頃のことだった。蒼生が父に頼んで、母の病室に入った時にスマートフォンのアプリでテレビ通話できるようにしてもらったのだ。  蒼生の昼食の時間は、母のそれとちょうど同じ時間だったから、蒼生も仕事に穴を開けずに済むし、何より蒼生自身が母の身を案じていたので、母と話せることがありがたかった。  蒼生の両親が住む県では、新型コロナの影響で、県外からの人の流入を禁じていたため、蒼生は

          黄エビネが咲く庭で (第六章 スマートフォン越しの母子)

          黄エビネが咲く庭で (第五章 父と母のひとときの儚い幸せ)

          第五章 父と母のひとときの儚い幸せ  退院後、蒼生の母の開口一番は 「ああ、やっぱり家はゆっくりできる」 だった。  蒼生の父は、自宅で妻と他愛の無いこんな話ができることを心から喜んでいた。  いつものように妻が作るご飯を食べ、妻と一緒に庭に咲くさまざまな花の手入れをし、休みの日には時折遠出をして、年に1回くらい県外に旅行に出掛けて・・・。  そんな日がまた戻ってくると、蒼生の父は信じて疑わなかった。  だが、現実にはそうはならなかった。  蒼生の母の軽度認知障害が、蒼生

          黄エビネが咲く庭で (第五章 父と母のひとときの儚い幸せ)

          黄エビネが咲く庭で (第四章 母のリハビリ、父のお見舞い)

          第四章 母のリハビリ、父のお見舞い  その日から、蒼生の父は毎日、妻が入院している病院にお見舞いに行った。  連日、車で往復130km以上の距離を、妻の着替えや入院に必要な書類などを携え、自分で軽自動車を運転しながら、愛する妻に会うために、蒼生の父はハンドルを握った。  大雪が降る日は、交通渋滞やノロノロ運転の中、片道2時間以上かかることもあった。それでも蒼生の父は、妻のお見舞いに行った。とにかく毎日病院にお見舞いに行った。そうしなければ、蒼生の父の胸の中の切なさや不安から

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          黄エビネが咲く庭で (第三章 蒼生の母の病、夫婦の愛)

          第三章 蒼生の母の病、夫婦の愛  蒼生の母は、膠原病という難病の一種を20年以上患っていた。蒼生の母は、膠原病によって腎臓が痛んで、高血圧になっていた。そのため、血圧を下げる薬と、血液をサラサラにする薬と、膠原病の炎症を抑える薬を服用し続けていた。  主治医の治療のおかげで、治療開始後まもなく血圧は順調に低下した。だが、膠原病による腎臓の炎症だけがいつまでも続いた。蒼生の母は、毎回受診たびに血液を検査されていて、その結果を見て主治医が腎臓の炎症を抑える薬の量を調節していた。

          黄エビネが咲く庭で (第三章 蒼生の母の病、夫婦の愛)

          黄エビネが咲く庭で (第二章 日本のIT業界の革命児 吉田)

          第二章 日本のIT業界の革命児 吉田  吉田は、日本のITの世界では名が知られている存在だ。  吉田は日本でのIT業界の先駆者であり、今でも最先端の生成AIや機械学習、ビッグデータの解析プラットフォームの開発、そしてそこに関する新しいサービスの開発にも自ら陣頭指揮を取っている。  テレビやビジネス雑誌にも頻繁に登場し、取材を受け、最新のAIの解説などもしている。その吉田に憧れて入社した社員も多い。  だが、そうした吉田の会社のインフィニティヴァリューには、ライバルも多い。企

          黄エビネが咲く庭で (第二章 日本のIT業界の革命児 吉田)

          このNoteでこれから書いていくこと

          私はこのNoteで、日本の近未来の医療の世界を小説にして書いていきます。 私は、日本の医療を将来も持続的に発展できる、明るい世界にしたいです。そのために資する小説を書きます。 日本は世界でもトップクラスの医療水準であり、患者さんの金銭的な負担が少ないという、世界でも稀有な国です。 ですが、その日本の医療が極めて危機的な状況にあります。 その原因や現状などは、今後追々書いていきますが、大まかな構想としては、近未来の日本の医療をITの技術やデータ解析によって明るい未来に至ると

          このNoteでこれから書いていくこと