武知志英

日本の医療業界、製薬業界、IT業界、データ解析業、病院経営のコンサルティングなどのビジ…

武知志英

日本の医療業界、製薬業界、IT業界、データ解析業、病院経営のコンサルティングなどのビジネス経験を持つ。複数のメディアに寄稿するなど、執筆活動も展開中。

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  • 黄エビネが咲く庭で

    このマガジンは、医療の小説です。 医療・製薬・ITなどのビジネスを手掛けてきた私、武知志英が、日本の医療の質を高め、日本に住む人たちが安心して生きていけるようにする処方箋を、実際の医療の世界に基づきつつ、フィクションで描いた小説です。

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黄エビネが咲く庭で (第一章 日本の医療をITで変革する)

あらすじ  日本有数のIT企業の吉田社長と社員たちが、同社の社員の母の死をきっかけに『日本の医療の質の向上』にチャレンジする。社員たちは日本の医療のシステム、データなどを調査し、日本の医療のデータやその活用、システムなどにさまざまな課題があることを明らかにした。  その頃、日本の各省庁も日本の人口減少等への危機感から、医療に一層関わっていた。吉田社長は、奇しくも社員の人脈で省庁との繋がりを得て、省庁が集う勉強会に参画する。そこでは、民間IT企業と各省庁、他のIT企業や政治家

    • 黄エビネが咲く庭で (第二十一章 五月の空) 

      第二十一章 五月の空 『医療・介護DX推進会議』の発足に向けて  吉田たち五人が『医療・介護・福祉DX推進会議』の発足に向けた話し合いをしていた頃、四大臣もこの推進会議をどのように推し進めていくかについて話し合っていた。  ただし、彼らの論点は、いかにして『医療・介護・福祉DX推進会議』を自分たちの手柄とし、次の内閣改造や選挙で自分たちに有利になるように仕向けるかであった。    厚生労働大臣の小川にしてみれば、自らの在任中にこれほど社会へのインパクトがある企画が上がって

      • 黄エビネが咲く庭で (第二十章 SHIN-KNOWの威力)

        第二十章 SHIN-KNOWの威力  第3回医療DX勉強会が始まった。  井出が今回も会の進行を担当した。 「それでは皆様お揃いになりましたので、第3回医療DX勉強会を開催いたします。まずは本日のアジェンダの確認から・・・」  井出は、アジェンダに従って粛々と勉強会を進行した。  第3回の勉強会では、電子カルテデータやレセプトデータ、ナショナルデータベース、処方箋データ、最近のウェアラブルデバイスから得られるヘルスケアデータなどの日本の医療に関わるデータの特徴を全員で理解

        • 黄エビネが咲く庭で (第十九章 分水嶺の第3回医療DX勉強会)

          第十九章 分水嶺の第3回医療DX勉強会 SHINーKNOW(シンノウ)、誕生  インフィニティヴァリューのメンバーは全員、第3回医療DX勉強会に向けて作業を急ピッチで進めていた。  彼らは松坂からの提案に応えるべく、インフィニティヴァリューのBIツールにさらに詳細な解析・統計処理・将来の予測などの新機能を開発し、テストし、実装した。  新しいこのツールは、従来のBIツールに増して、はるかに高性能だった。  吉田は、このデータ解析ツールをインフィニティヴァリューの新サービ

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        黄エビネが咲く庭で (第一章 日本の医療をITで変革する)

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        • 黄エビネが咲く庭で
          21本

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          黄エビネが咲く庭で (第十六章 吉田と松坂の核心と革新と確信)

          黄エビネが咲く庭で (第十六章 吉田と松坂の核心と革新と確信) 医療DX勉強会、開催される  第1回医療DX勉強会が開催された。  この勉強会で初めて、日本の医療のDXに関わる厚生労働省、デジタル庁、財務省、経済産業省、吉田らを中心とした有識者数名が顔を合わせた。    吉田はこの時、全員の挨拶と名刺交換時に、井出とも挨拶した。吉田は、井出がデジタル庁の名刺を持っているものの、井出が本来エスタブリッシュシステムズの人間であることは知っていた。  「(IT企業のビジネスに直

          黄エビネが咲く庭で (第十六章 吉田と松坂の核心と革新と確信)

          黄エビネが咲く庭で (第十八章 電光石火)

          第十八章 電光石火 第2回医療DX勉強会 開催   第2回医療DX勉強会が開催された。  第2回から、デジタル庁の井出が部下の崎本を勉強会の管理運営の一員として参加させた。  また、インフィニティヴァリューの吉田は、蒼生を参加させた。  蒼生は、彼の母を亡くした経緯と、それを通じて医療におけるデータの重要性を医療の消費者の立場から勉強会で発言することになっていた。  勉強会の冒頭、崎本と蒼生は、この勉強会の参加メンバー一人一人と挨拶し、名刺交換をした。  二人にとって

          黄エビネが咲く庭で (第十八章 電光石火)

          黄エビネが咲く庭で (第十七章 錯綜する思惑)

          第十七章 錯綜する思惑  吉田たちは、松坂の仲介で、POC(Proof of Concept:概念実証)としてではあるものの、厚生労働省のNDB(ナショナル・データベース)にアクセス可能になり、レセプトデータを日本全国の規模で分析できるようになった。  その分析結果は随時厚生労働省に共有され、同省内の各会議体での議論に活用された。  吉田のインフィニティヴァリューのBIツールは、厚生労働省の中でも徐々に知られるようになった。  そのBIツールは、従来のビジネス用の表計算ソ

          黄エビネが咲く庭で (第十七章 錯綜する思惑)

          黄エビネが咲く庭で (第十五章 吉田たちに差し込む一筋の光明)

          第十五章 吉田たちに差し込む一筋の光明  井出がデジタル庁長官の濱田に対して医療DX勉強会のアジェンダの案を見せながら、勉強会の方向性や議論の進め方などを話し合っている間、蒼生たちはレセプトデータの活用についての議論を深めていた。    蒼井たちはレセプトデータを扱っている社会保険や国民保険の担当者にコンタクトし、アポイントをもらった。そして、その担当者にレセプトデータがどのように活用されているのかや、そのデータを分析しているかなどを事細かにヒアリングした。  その結果、蒼

          黄エビネが咲く庭で (第十五章 吉田たちに差し込む一筋の光明)

          黄エビネの咲く庭で (第十四章 松坂と吉田のファーストコンタクト)

          第十四章 松坂と吉田のファーストコンタクト  ある日、吉田が会議を終えて、自分の机に戻ってきた時だった。  吉田の机の電話が鳴った。内線からの電話だった。 「はい、もしもし」 「社長、厚生労働省の松坂さんという方からお電話です」 「えっ、厚生労働省?そうか、つないでくれ」  電話の向こうの、吉田の会社の女性社員が、松坂を吉田に取り次いだ。 「はい、お電話代わりました。吉田でございます」 「吉田社長ですね、初めまして。私、厚生労働省の松坂と申します。突然のお電話で大変申し訳

          黄エビネの咲く庭で (第十四章 松坂と吉田のファーストコンタクト)

          黄エビネが咲く庭で (第十三章 日本の医療の課題)

          第十三章 日本の医療の課題  松坂のスマートフォンが鳴った。メールをしてきたのは、高校の同級生の鈴木だった。  鈴木からのメールには、近々、松坂の仕事終わりに会いたいということが書かれていた。  松坂は、鈴木がIT企業で仕事をしていることを知っていた。最近はお互いに忙しくしていたから、会うのは久しぶりのことだった。  松坂は鈴木に、 「仕事の後に会って飲みながら話そう、日時と場所を調整させてくれ」 と返信した。  松坂と鈴木が会ったのは、その1週間後の夜のことだった。二人

          黄エビネが咲く庭で (第十三章 日本の医療の課題)

          黄エビネが咲く庭で (第十二章 政治家と省庁と民間企業)

          第十二章 政治家と省庁と民間企業  吉田の会社の社員である鈴木が、厚生労働省に連絡を取ろうとしていた頃だ。  厚生労働大臣の小川は、厚生労働省の厳選した数人と、デジタル庁の濱田とその部下数人、そして財務省と経済産業省との会議を招集していた。  日本の医療DXを推進するための勉強会を立ち上げるための会議だった。   小川は濱田との対話の後、非公式で財務省、デジタル庁とも話し合い、日本の医療DXを促進させる司令塔を構築しつつあった。  一方、小川の呼びかけに賛同して集まっ

          黄エビネが咲く庭で (第十二章 政治家と省庁と民間企業)

          黄エビネが咲く庭で (第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ)

          第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ  医療には、さまざまな人たちが関係している。  患者さん、患者さんのご家族、医師、看護師、薬剤師、さまざまな検査の技師、社会保険庁や都道府県及び市町村など、官民問わず幅広い職種・業種が医療に関わっている。  病院や診療所、クリニックなどで見かける外来のパソコン(電子カルテや検査の指示を出すオーダリングシステムなど)も、その専門のIT業者が医療機関をサポートしていて、やはり彼らも医療に関わっている。    ベッド数が1,000床前後の

          黄エビネが咲く庭で (第十一章 活用しにくい日本の医療のデータ)

          黄エビネが咲く庭で (第十章 医療の利権争いの胎動)

          第十章 医療の利権争いの胎動  デジタル庁長官の濱田は、デジタル庁の小さな会議室の中で一人、イライラしていた。  長官の席で、椅子に深く腰掛け、天井を見上げたり、床を見たり、部屋の隅を見たりと視線があちこちにキョロキョロしてしまっていた。  濱田は、落ち着きを全く無くしていて、腕組みに力が入っていて、足も貧乏ゆすりが止まらなかった。  その理由は、ついさっきまで、内閣総理大臣の太田から日本のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の進捗が遅れていることをなじられ、濱田のリ

          黄エビネが咲く庭で (第十章 医療の利権争いの胎動)

          黄エビネが咲く庭で (第九章 課題だらけの日本の医療)

          第九章 課題だらけの日本の医療  吉田と蒼生は、他のプロジェクトメンバーと一緒に、日本の医療のビッグデータとその生い立ちについて調査を始めた。  調査の対象は下記のとおりで、それらをプロジェクト内のメンバーが分担して調査し、その結果は随時プロジェクトメンバー全員にシェアされた。 ・日本の厚生労働省が推し進めようとしている医療の提供体制 ・日本の医療の仕組みの更なる理解 ・それらを支えているIT技術の調査 ・それらの課題の探索 ・その他、医療とデータに関するあらゆること

          黄エビネが咲く庭で (第九章 課題だらけの日本の医療)

          黄エビネが咲く庭で (第八章 吉田と蒼生の共同戦線)

          第八章 同志となった吉田と蒼生 中高年のぼやきは、ビジネスの種?  蒼生は母の葬儀から戻り、また仕事の日々が再開した。  その頃、蒼生の勤務先であるインフィニティヴァリューの社長の吉田は、社内に新たなプロジェクトの立ち上げを宣言し、そのメンバーの募集を告げた。  新たなプロジェクトは、医療のビッグデータを扱う新規サービスの開発から顧客の創出、そしてそれらを近い将来吉田の会社の事業の柱の一つにするまで育て上げるという壮大なプロジェクトだった。    吉田はこれまで、 ・日

          黄エビネが咲く庭で (第八章 吉田と蒼生の共同戦線)

          黄エビネが咲く庭で (第七章 末期の水、後悔の念)

          第七章 末期の水、後悔の念  蒼生は母の死を父から聞いてから急いで実家に戻ったものの、到着したのは母の納棺が終わった後だった。  蒼生は、自身の仕事の引き継ぎや客とのスケジュールの調整などに手間取ってしまった。  なんとか都内の職場から自宅に一旦帰り、礼服や香典などの葬儀の用意を整え、着替えをたずさえ、新幹線に飛び乗って移動したが、実家に着くまでに半日近く時間を要した。    棺の中の母は、テレビ電話で見た時よりも、さらに少し顔色が黒っぽかったが、綺麗に死化粧をしてもらって

          黄エビネが咲く庭で (第七章 末期の水、後悔の念)