余裕のある人たちは後継者育成をして下さいよ
Web検索などをすると、世の中には豪邸やステキなアトリエを持って維持しているような有名な染色・染織作家さんや、メーカーさんがこれだけ沢山いるのに、なぜ若い人たちが修行したいと思っても入れるところが非常に少ないのか?疑問だなあ、と思うのです。
それでいて、後継者いない〜!というのですから。
ウチは来月をも知れぬほどに貧弱な経営状況ですが、後継者育成を常に心がけています。普通の会社のような雇用条件では出来ませんけどね。
ちなみに、ウチでは技法や制作姿勢もすべて公開しています。同業に仕事の方法を聴かれたら全て教えてしまいます。ここまで業界が零落したら、ヒミツも何も無い。自分じゃなくても誰かが生き残れば良い。淘汰される可能性は、常に自分も含まれているのだから。
そもそも、後継者育成は、ウチのような底辺がやるよりも、有名な人達がもっとやるべきだと思うのですが。。。有名じゃなくても余裕のある人が。。。
私は基本的に後継者育成を具体的にやっていない人は、伝統の未来展望云々を語っても信用しておりません。(が、やり方はいろいろです。後継者育成は弟子を入れるだけではないので)
そうはいっても私自身は、学歴もない、ほぼ修行もない、業界経験もほぼ無い、所属も受賞歴も全く無い、ないない状態でずっとやっているわけですが。。。
逆に、私はあまりに何も分からない、人脈も無い状態から(関係者から陰湿な妨害すら受けました)叩き上がったので、後進にはある程度の道を示してあげて、和装染色業界で制作を目指す人のなかの、生き残る人の割合を高めたいと思う感じですね。
現状の年齢で45歳以下ぐらいの友禅作家さんだと、友禅で〇〇先生に師事、というのは現実にはかなり高齢になってしまった先生に師事して、先生も仕事がないので常勤の弟子としてではなく、付かず離れずな感じで、まるで教室に通うような感じで週に何日か指導してもらった、そんな関係を数年していただけ、なんてのも多いようです。
高齢の先生を師匠にしてしまうと、もう師匠もしっかり指導をしたり、叱る、ということは面倒なので、まるで孫を観るように弟子に接してしまうものです。なのでプロ養成には向かない傾向があります。
で、その中途半端な修行の後、女性なら結婚して、その後子供の手が少し離れたからまた友禅をやりはじめて。。。という流れの人なども多く、技術的なことや文様の完成度が低くなってしまう傾向があるんですね。
それで、団体展に出品して品評会や勉強会、講評会でお金がかかり。。。と。。。
そういう人の場合は、元からよほどの才能が無い限り、文様は古典柄の完成度が今ひとつ、自分の柄をやるとイラストになってしまう。。傾向があります。
男性なら、しばらく和装系染色業界の現状を観て、こんな内情じゃ、新規参入で食うなんて到底無理、無理無理無理ぃ!!ということが分かって、生業にするのは諦め他の業界へ行く、ということが多いです。
なので、専業で修行出来て、さらに独立して専業でやるとなると、やっぱり世襲が残りやすいのが事実ですね。もちろん世襲が悪いわけではありません。素晴らしい方々が沢山いらっしゃいます。
が、それだけだと業界の未来は広がらないので、やっぱり外部からの人材が欲しいと思います。
それと、先達にも問題があって、工房というよりは、個人でやっている人の場合。。。元々気楽に個人で職人家業をやっている人は、弟子を入れるのは超絶面倒に感じてしまうものなのです。
個人でやっている分には、深夜までダラダラ仕事をして、昼頃起き出して、近所の顔なじみの喫茶店でブランチを取りながらコーヒーを飲んで会話して、そろそろ仕事すっかー、なんてペースで仕事を楽しんでいたのに、弟子が入って来たら朝、ちゃんと仕事場にいなければならないわけです!それがすごく面倒に感じます。笑
それと、元々職人の殆どは、後進の教育スキルやシステムが無いのです。自分も師匠や先輩から教わったわけじゃないし。盗めの時代。そういう人たちだから、弟子に教えるのは超絶面倒に感じるわけです。
さらに入って来た弟子が、美大なんか出ていたり、他の工房でちょっと経験していたりすると、師匠である自分の言うことを聴かなかったりするので苛立ちますしね。だったらなんでウチにいるんだ!その教授の弟子にでもなれよ!だが作品で食えないから教授やってんだけどな!なんて感じ。笑
それに、弟子に仕事を失敗されて、一瞬で数十万が飛ぶのは経営的にかなり辛いですからね。弟子を取るというのは、教える負担(肉体的、心理的)弟子に失敗される負担、弟子が通ってくること自体の負担、その他その他、たくさん負担を抱えることになるのです。見返りが来ることもなく、後ろ足で砂をかけられて出ていかれることも多々あります。
元々、和装染色系の職人が手にできる工賃は低いですから、そこから弟子の養育費や失敗されるロスなどをカバーするのは非常にむづかしいのです。。。という事情もあります。
とはいえ、
呉服系模様染業界の先輩たちは「問屋からの仕事がないし、給料も払えないからそんな状況で雇うのは。。責任感から弟子を取れません」なんておっしゃる人もいますが、しかし修行したい人は必ずしも食える給料を欲しがるわけではないんですね。
現状は、染色をやりたいという人たちを、染色教室プロコースや、あるいは「あからさまに、ただの安価な労働力、絶対に食えるようにはならないシステムの工房で、使い捨て労働力として使う」というところが待ち受けている感じです。
それなら、キチンと通用することが無料で習える、そして業界の人脈をつくってくれる、ということなら無給でも是非習いたい、という人はいるものなんですね。まあ、そういう事情を知らずに「奴隷工房」に入ってしまい、10年も過ごしてしまう人もいるのですが。。。(それは制作人生終わります)
むしろ、少しでも給料を払う、としているところは、弟子の行動の自由は許さない(SNSをやっているのがバレただけで破門!などあります)業界の人脈は絶対に知らせず、弟子の未来につながることは、師匠である自分の仕事が減るから一切しない、お金も給料から食費や指導費なるものを差し引いてお小遣い程度しか実際には渡さないところが多いです。
それなら、給料がなくても未来につながるところで働きたいと思う若い人は多いんですね。
ウチは最初は少額ですが、給料を払っていましたが、あえて給料を払う形式は止めました。むしろ、給料を払うとだめだったのです。給料を払い、さらに色々オープンにして場を整えても、給料を払うことによって勤め人感覚になってしまい、弟子が能動的にはならなかったのです。自分のために自分を育てるという意思を持てないのです。
その代わり修行中の、仕事にまつわる経費の一切は工房が持ち、最初からあらゆる人脈を紹介し、弟子の行動の自由を許し、外で関わりをつくることを許可し、弟子の作品を販売する補佐をするように変えました。(全ての経費を工房が持ち、売れたら経費を差し引いた金額全額を弟子に支払う)そして、弟子には工房名義のコーポレートカードを持たせますので、実際に、生活にはあまり困らない状況にしております。
ようするに「最初からあなたは独立した人、そういう意識で仕事をして下さい。自分で工房を借りて生活している、という意識でいて下さい。それを工房がサポートをするということです。独立することが前提なら、それはとても有効で有利な立場です」と。
どこかでバイトしながら工房に通ったら常勤ではいられません。中途半端にどこかの先生についても、やはり修行に集中出来ません。
そういうことではなく、ウチではその当人の覚悟さえあれば、制作を中心にして生きていけるシステムにしてあります。(工房では給食制で、元コックだった親方が料理を教え、飲食文化についていろいろ教えます。かなりの贅沢が出来ます。笑)
実際に、それは工房としては、かなり大変なのです。適当な、手仕事系で良くある程度の金額を支払ったことにして、そこからいろいろ経費を差し引いた金額を払う方が楽なんですけどね。それで親方は責任はありませんよ、とした方が。
まあ、ウチは弱小で無名でお金もないので、いろいろ考えるわけですが、私を信じてくれるなら、相性が合えば、きっと修行するには良いところだよ、というシステムにはしてあります。
あとは、職人仕事だと年齢がネックになることが多いですね。
伝統系の職人仕事は、精密で高度なことを身に着けないと出来ないし、それは長年(だいたい10年は必要)かかってやっと身につけられるものなので、若い頃から修行しなければならないわけです。が、今はなかなかそれがむづかしい。
学校を出てどこかに就職→やっぱり手仕事をやりたい、という人で、どこかで修行したい、なんて来ることが多いのですが、そういう人は26〜35歳になっている人が多いのです。
そうなると、長期外国旅行に行った時の借金があったり、誰かとルームシェアをしていたり、車やバイクを持っていてその経費やローンがあったり、その他、既に自分なりの生活スタイルが出来上がってしまっていて、それはもうある程度のお金がないと維持出来なくなっているんですね。
で、そういう人たちは、手仕事をやりたいと言っても、本音では自分の心地よい生活を捨ててまで手仕事をやりたくはない。だから、むしろ、自分からプロ養成コースの教室に行って良く分からないお免状をもらって、クラフトフェアなどにちょっと出て作家、と名乗っている人が多いようです。
数十年業界でやっていて、超絶技術を持っている人でも専業では食えない業界なのに、他に仕事をしながらチョチョイと練習しただけで作品で食えるような天才はそうそういないわけですが、なかなかそれは理解されません。「自分だけは違う」と皆さん思っていますからね。
「制作一本で食う」というのは「他に仕事を持ちながらライフワークとしての制作人生」とはまた違う厳しいシステム構築が必要なのですが、それはほぼ出家に等しいです。(ライフワークとしての制作の否定ではありませんよ)
なので、在家でやりたい人は、ウチには向かないので、ウチではないですね、と説明します。
ダラダラ書いていろいろ分散してしまいましたが、まあ、有名で権威もお金も場所もある、余裕のある先生がたは、もっと「独立して食える弟子」を育てて下さいよ、そうしてくれないと業界の未来は無いですよ、とは思っております。
先生がたは、自分が所属する団体で行う、講評会、勉強会、研究旅行などに参加してくれる、そういう意味で勉強熱心な人を集めるのには熱心のように観えますが。。。
もちろん、ちゃんとした弟子を育てるべく尽力されている方がいらっしゃるわけですが。。。それが増えて欲しいです。
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