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漆15:漆器の歴史(日本・前編)

おはようございます。
今日は朝から雨がしとしと降り、どんよりとした雰囲気の朝。気持ちの良い一週間の幕明けとはいかないが、気温的には過ごしやすい。

さて、2週間以上かけて学んできた漆に関して、今日からその歴史を振り返ってみていこう。

漆にはとても長い歴史があり、約1万年以上前の縄文時代の装飾品にも漆が使用されていたことがわかっている。

縄文時代・弥生時代

福井県鳥浜貝塚遺跡から出土した木片は当初「ヤマウルシ」と思われていたが、新しい基準に基づいて再度検査した結果、12,600年前(縄文時代草創期)のウルシの木であることが判明した。これが世界最古のウルシの木片であり、これまでの遺跡調査から、日本列島には縄文時代早期以降ウルシが継続して生息していたことが確認されている。
縄文・弥生時代は、土器や農耕具、漁具など生活するための道具に漆を使用していたが、この時代は出土品の数も少ないため、あまり詳しくは分かっていない。

飛鳥時代

仏教の伝来により、仏具や寺院などにたくさんの漆が使用されるようになり、その結果、国による漆器生産が始まった。奈良県の法隆寺が所蔵している国宝「玉虫厨子(たまむしのずし)」は、その側面には有名な「捨身飼虎図」が密陀絵(日本の油彩絵画技法あるいは漆器や陶磁器の上絵装飾技法の一種、これ自体が漆絵という見方もある)にて木造に漆で流麗に描かれている。

奈良時代

奈良時代の仏像彫刻の傑作、阿修羅像が脱乾漆(粘土で成形された原形に麻布を張り重ね、その上を刻苧〈こくそ、木粉と漆などを練り合わせた物〉と言われる下地漆で細部を整え、漆を塗って仕上げる)という漆と布だけで造られた像として世界的に有名。
真摯に真直ぐ見つめる寂しげで苦しげな眼差しは人間の本来持っている刹那ゆえの祈りを感じさせるが、漆で作られたものが1200年以上も前からあるその繊細な表情を維持して伝えている事実からも漆の耐久性の高さを如実に物語っている。

平安時代

藤原一族が栄華を極めた時代だけに漆の名品も数多く作られた。中でも片輪車蒔絵螺鈿手箱は形も描かれている題材も実に優美で、平安貴族の生活を垣間見ることが出来る。

建造物としては平安時代末期、藤原清衡によって建立された中尊寺金色堂はお堂全体が蒔絵・螺鈿・厚い金箔で覆われた漆の芸術空間を創出し、その圧倒的迫力はこの世のものではない極楽浄土をつくりあげ、漆芸術の頂点を極める建造物として、現在も昭和の大修理を経て燦然と輝きを放っている。昭和の大修理の製作主任を務めた人間国宝である大場松魚は、修復の際を振り返って「恐ろしい再生の仕事に取組んだもの」と、当事の漆工技術の高さと規模に感嘆の声を上げていた。

また作者不詳とされている日本最古の物語『竹取物語』には、豪華に蒔絵を施したとされる家の中の様子が描かれている部分があり、”漆部“という漆工に携わる超一流の腕の良い職人衆、特殊職人集団が既にいたことが伺える。岩波文庫の”竹取物語“解説部分には、『「美しき屋を作り、漆をぬり、蒔絵をして壁する」という壮麗な空想をほしいままにしえたのは、またやはり、彼が漆工に関係あった士族のながれをひくものであったからではないだろうか。』と記してあり、物語の作者は漆部の流れをひく人ではなかったかと興味深い推察している。

鎌倉・室町時代

鎌倉から室町にかけて今でも博物館などでよく見られる漆器に“根来塗り”がある。紀州にある真義真言宗の総本山である根来寺の僧達が、自分達の日常使う器物に朱漆や黒漆を塗ったもので、上塗りされた朱漆が長い年月の使用によって磨耗し、中塗りの黒漆が表出し、その時代を経た妙味が今もって至極珍重されている。長い年月磨耗してもなお美しさを失わないほどにしっかりとした下地がちゃんと施されていたということに留意したい。
蒔絵に関しては、この時代に蒔絵粉の開発が進みごく微細な金銀粉まで作られるようになったそうで、室町時代にはすでに今ある漆工芸のほぼ全ての技法が確立されたのではと考えられている。

安土・桃山時代

室町時代末期における漆工品の代表的なものに、豊臣秀吉の正室北政所が秀吉の霊を祀るために1606年に創建した高台寺内に造った漆塗りの霊廟がある。この霊廟を飾った蒔絵は“高台寺蒔絵”と称されるほど特徴ある平蒔絵(研ぎ出し蒔絵に対して、細かな銀金粉を使用し、磨き上げていくだけの蒔絵)。また、その平蒔絵を施した調度品は日本の代表的な輸出品として、海外に輸出されていった。


*上記の情報は以下のリンクからまとめています。

日本の気候にあった木々で作られたものが残っている例も多々あるが、こうして見てみれば漆でさらにコーテイングしたことで、より多くの作品がより良い状態で何百年も経った現代にまでその当時の技術、作風、そして空気感までも伝えてくれていることがよくわかる。
漆はその美しさと耐久性が時間を経ることで、ある種タイムカプセルのような奇跡の存在であることを教えてくれる。
明日は歴史の後編を見ていこう。


僕は幸せになると決めた。
今日もきっといい日になる。
一歩一歩、着実に歩もう。


皆様も、良い一日を。

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