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自由律俳句(その十)『日々唯不死』出版等

 noteに発表してきた自由律俳句を編集し、また種田山頭火句集の書評などを入れた、『自由律俳句集 日々唯不死』をAmazonからキンドル及び紙バージョンで出版しました。

このうち、最新の作品を以下にご紹介します。

〇 2024年3月、土曜のため、まだほんの一部しか咲いていない桜の下に、大勢の花見客がいる。そして、暖かい陽気に誘われて、公園には老夫婦、家族連れ、ペットを連れた人たちが、あちこちにたむろしている。人が沢山いる公園の姿は良いものがある。

公園の人の多さに喜ぶ 寂しい自分がいる

やっぱり一人でいるのは寂しいのだと気づく公園の芝生

気持ちは既に桜が咲いている三月の終わり

イースターとは知らず 桜が復活する今年の春

子供と遊べる時間は あとどのくらいあるのだろう

公園の そこにみんながいる その幸せ

〇 2024年4月、近くの桜を見て、安い立ち食い蕎麦のランチを摂る。運河の静かな流れを見て、刹那的な享楽的な時間から日常に戻ったことにほっとする。

運河の流れのように しずかに生きていたい

運河を眺めるだけの 良い時間が過ぎてゆく

空と運河と水と林 そこに私はいない

散って桜は美しくなる はたして人は

枝の鳥たちも桜も愛でている 風が暖かい

〇 2024年5月、湯島天神―お茶の水―神保町―皇居外苑―日比谷公園―日比谷―有楽町ガード下―新橋ガード下を漫遊する。湯島天神には合格したお礼「おかげ参り」の参拝客が多くいた。レモン画翆の「学生街の喫茶店」は既に消えている。駿河台下交差点にあった三省堂ビルも更地になって、ショベルカーが作業していた。皇居外苑の芝地には、大勢の外国人観光客がピクニックをしている。日比谷を歩く人の大半は、外国人観光客だった。有楽町ガード下の沖縄の居酒屋に入って泡盛を味わう。

おかげ参りときいて おどおどする老爺一人

その小さな通りには 学生街も喫茶店もなかった

巨大ビルの跡地に 時間だけが見える駿河台下

今上陛下の微笑み吹きわたる 皇居外苑の芝地

日比谷のカフェでケーキを分け合う 疲れたおじさん二人

泡盛に 身体を癒してもらい グラスが光る

ガード下の異次元ドアは どこかへ逃げていた

〇 2024年5月、初島、伊東、熱海を旅する。通勤・通学の時間帯の電車には、小学校低学年の子供が乗っている。初島へ向かうフェリーは意外と楽しかった。島は、溶岩があちこちにむき出しの火山島で、オフシーズンのこの時期、釣り人は多かったが観光客は少なかった。携帯電話に仕事関係の要件がかかってきて、長電話する人がいた。家族向きのアミューズメントパーク(温泉付き)があった。伊豆半島の向こうに富士山が綺麗に見えた。

 伊東温泉の客は少なめで、出稼ぎの外国人従業員になにか親しみを感じた。隣接した林から聞こえるウグイスの声が楽しかった。熱海でランチに寿司を食べた。熱海の街は再開発途中だが、海岸沿いにある廃墟と化したホテル跡が、まるで要塞のように見えた。

電車で眠る女の子 起こしてくれたおばあさんに また会える日が来るだろうか

大きな船に乗ると 老人は少年になってしまう 鈍重なからだが動いている

釣り人の竿は 富士も釣れよと海に飛び 空にトンビ舞う

旅先で受ける長電話 携帯を投げ捨てられなかったあの頃

初島に上陸したゴジラの足跡をみる 溶岩が生きている

初島のゲソ揚げとビール 富士と海と風とともに

ブランコに乗ると 女性は子供になれるらしい

初島の露天風呂から 釣り船に裸の挨拶をした

酔っぱらい 夜の露天風呂逃して 朝にウグイスを聞く

朝風呂は 風流に雨降る 露天に沈む

窓の外が明るいから 今日も暑くなるだろう 朝食がすすむ

お遊戯の音楽聞こえて ウグイス黙り 宿を出る

裏道に干物屋が見つかった 小アジを四つ買う

寿司屋で太刀魚を しずかに味わって海を想う

熱海駅のスタンプは もう定年を迎えている

ホテルの廃墟が 戦争の爪痕に見えてしまう


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