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#ポエム

小説セラピー「夜明けのラジオ」(あゆみさんの物語)

小説セラピー「夜明けのラジオ」(あゆみさんの物語)

 夜が怖かった。
 明日も仕事があるというのに、妻と子供が寝たのを見届けると、ふと足元から不安や恐怖が込み上げてきて、全身の力が抜けていく感覚に襲われる。
 原因はおそらく同僚からの相談だろう。
 あいつは同期入社だった。出会った頃からお互いによきライバルとして切磋琢磨し、よく飲みに行った親友でもあった。
 そんなあいつが、まさか鬱になって休職するなんて思いもよらなかった。しかも、もうすぐ結婚して

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小説セラピー「父と金魚」(Sさんの物語)

 今だから言いますが、お父さん、私はあなたが嫌いでした。
 あなたはひどい父親でした。確かに戦争が始まる前のあなたは父として、一家の長として、そして私たち兄弟の遊び相手として立派だったのかもしれません。職場では慕われ、近所からは一目置かれ、なにより私たち家族から愛されていました。
 戦争があなたを変えたのでしょうか。
 あなたは開戦以後、極端に塞ぎ込んでしまいました。誰の言葉にも耳を貸さず、まだ幼

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