出社要請で社内に緊張関係 先駆的グローバル企業の光と影 コロナ拡大のなかメンタル復職社員の「通勤訓練」は妥当か
セールスフォース米国本社のブレット・テイラーCEOが、出社か在宅勤務かをめぐり「上司と部下の間に緊張関係が生じている」との見方を示していることを、日本経済新聞が報じている。
日経新聞によると、テイラー氏は夏以降に日本の顧客を含む100社あまりのトップと面会したところ「誰もが『柔軟な働き方』のあるべき姿を話題に挙げた」と言う。コロナの影響が薄れるなかで「多くのCEOがどのように従業員とのつながりを取り戻し、企業文化を再構築すべきか模索している」。テイラー氏は2020年を「恐怖の年だった」と振り返る。先行きが見えず、人々は勤務先にとどまろうとした。21年は一転して世界的な「大離職」が起きた。「多くの人が働く目的を見つめ直した」。激動を経て、「今は経営陣や管理職と従業員の間に緊張関係が生じている。CEOはオフィスに戻るよう求め、従業員は抵抗している」
コロナ拡大初期、セールスフォースは各国で在宅勤務をいち早く導入した。日本では在宅勤務導入の遅れが問題視されていたなか、同社日本法人では、2020年2月25日付けのプレスリリースで、「新型コロナウイルスの社内外への感染拡大抑止と、当社社員とその家族の安全確保のために、 2月26日~4月30日の期間において、社員の働き方に関してテレワークや時差出勤を推奨する」と発表された。
2021年2月9日には米国本社から、日本含む世界各国のオフィスでリモートワークを恒久化する計画が発表された。
同社がアピール材料にしているGreat Place To Work主催の「働きがいのある会社ランキング2021年版」では、この取り組みが評価され、2位にランクインした。
しかし、東京地裁で係争中の同社を相手取った発達障害者差別訴訟において、2020年3月にメンタル悪化から復職を目指す元社員への通勤訓練が行われていたことがわかった。根拠となったのは厚生労働省の復職の手引きだった。
この裁判で、原告である元社員の上司の障害者雇用や契約更新への拒否姿勢を示す証言が出ており、基礎疾患を抱える原告の通勤訓練について同社は、「2020年4月7日に緊急事態宣言が発令されているので、3月に通勤訓練の指示をしたのは妥当だ」と対応を正当化。
これには元社員は複雑な気持ちだ。同社は在宅勤務導入の先駆性が評価されていたが…。
ハラスメント類型には「人間関係からの切り離し」があるが、例えば、隔離部屋でひとりで作業させたり、飲み会は全員参加が暗黙のルールとなっている日系企業でひとりだけ飲み会に呼ばれないことも、「人間関係からの切り離し」とみなされる。
同社では2020年2月以降、事実上全社員が在宅勤務に切り替えられ、障害者採用の社員もその対象となった。復職に向けた通勤訓練の必要性はあったのか。ひとりだけ在宅勤務が許可されず通勤訓練だけを行うことが必須とされることは、「人間関係からの切り離し」とみなされるか。
また、上司の「障害者雇用への拒否姿勢」と「メンタル悪化し休職」との因果関係、産業医の判断の公平性はどうなのか。
これらについて、裁判所の判断が注目される。次回は11月14日11時に第8回期日。
同社広報は外向きには、訴訟に発展した問題やそれを受けての社内外向けの対応について、係争中を理由にコメントせず、回答の結びの言葉で「平等と多様性が私たちをより良い企業にすると信じていますので、私たちはより平等で、包括的で、持続可能で、より良い世界を目指しています」とコメント。
また同社人事本部長・鈴木雅則氏は、先月9月25日に都内で開かれた障害者の雇用などをテーマにしたイベントに登壇し、「インクルーシブなビジネスには、トップの本気、社員の声を拾うことが大切」などと発言。これについて筆者がリンクトインで発信したところ、3000件近くのインプレッション数となり、「言行不一致」「SDGsウォッシュ」「イベントがブラックユーモア」などのコメントもあった。
冒頭のテイラー氏の発言のとおり、シリコンバレー企業はじめ各国で、出社か在宅勤務かをめぐり、会社と社員の間で争いが起きている。それはテイラー氏の企業でも起きている。日本法人で起きていることは、テイラー氏の耳にも入ることにならざるを得ないだろう。米国本社は日本法人を監督できていたのか、問われることにもなっていく。
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