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雨の降る中、自転車飛ばして君に会いに行った

昨晩、珍しく息子が机に向かっていた。宿題なんてするわけがない。何をしているのか、何となくすぐに分かった。

「手紙書いてるの?」

そう尋ねると、息子は「なんで分かったの?」という顔をしながら頷いた。

終業式の日、隣の席の女の子から手紙をもらったという。ピンク色の封筒の中、ピカチュウのかわいい便せんに、大きくて拙い字で息子に宛てた言葉が並んでいた。夏休みに遊べる日にちと時間、そして、「もし遊べたら、ちひろくんの家の近くの駐車場に行くね」と書いてあった。

その女の子Yちゃんは、昨年も息子と同じクラスで、その当時からとても仲が良かった。家庭訪問の時、担任の先生に「隣の席のYちゃんと仲が良すぎて、授業中もよく喋っています」と言われたほど。授業参観で様子を見ると、二人で肩を寄せて笑い合っていた。今年も同じクラスになり、偶然にもまた隣の席で、相変わらず仲良くくっついて笑いながら話していた。

そういえば最近、息子はお昼ご飯も食べず、下校直後に自転車で出かけていたんだけど、どうやらYちゃんのところに遊びに行っていたみたい。


息子は、好きな色の折り紙の裏に、返事を書いた。「僕もその日は遊べます。Yちゃんの家は遠いから、僕がYちゃんの家に行くね」。

封筒を作って、大事に手紙を中に入れた。


「明日も、遊ぼうって約束してるんだ」

「そうか、じゃあ、お菓子を持って行こうよ。手紙と一緒に渡したら?」

そう言うと、息子は嬉しそうに頷いた。


今日。小雨の降る中。息子は手紙とお菓子を持って、自転車に乗ってYちゃんの家に向かって走って行った。道中、事故に遭わないか心配で、楽しい時間を過ごせるか心配で、手紙を渡せたか心配で、なんだか私の方が緊張していたかもしれない。


帰宅後、息子に聞いてみた。

「今日、楽しかった?」

「うん。でも、悲しいことが一つあった」

「どうしたの?」

「俺と、Yちゃんと、その他にAちゃんっていう女の子も来ていてね、Aちゃんは僕のことを好きだって言うんだ。それで、僕がYちゃんに手紙をこっそり渡そうとしたら、横取りされて、破られて、排水溝に捨てられちゃったんだ」

あの手紙は、渡せなかったのか……。それは悲しいね。

「でもね、ちゃんと直接伝えたから。夏休みは遊べるから、俺がそっちに行くよって」


伝えたいことを話せたことに、少し安心した。でも、あんなに一生懸命書いていた大事な手紙が捨てられてしまったことを思うと、聞いている私も辛くなる。


でも。今日から始まった夏休み。大好きな子と遊べるね。他にも、じいちゃんと釣りに行ったり、映画を観に行ったり、色んなことができるね。

余計なことを考えず、ただ楽しく過ごせる時間は、決して多くはない。しがらみや、エゴ、責任、社会、条件、世間体、そういうものを一切背負わず、ただ好きで一緒にいたいと思える相手と出会えることも、残念だけど多くはない。

君の過ごす今という時間がどれだけ貴重なものか。君と過ごす相手と出会えたことがどれだけ貴重なことか。どうか、今を精一杯感じて欲しいと思う。

いつか、その価値が、きっと分かる時が来るから。

夏休みだね。

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