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働いて叶えた、でーっかいエビの、うーっまいエビチリ

なぜ働くか?という問いに対してはもうほんと色々な答えがあるが、そこからさらに深掘りしたなぜお金を稼ぐか?というところだってそりゃもう人それぞれだ。
本当に理由が多岐にわたる上に割とそれぞれの生活そのものを色濃く映すので詳らかにするのは憚られる類の話題であることは承知であるが、最近「いやァ、こういうことのためにお金稼いでるよな」と思ったことがある。

「エビチリが食べたい。」
そういう気持ちが春一番のように訪れること、皆さんありますよね。
その日の私にも春が訪れ、頭の中はエビチリ一色な訳です。あぁ、あの甘辛い味付けにビッタビタに浸った衣をコロコロと纏ったプリップリのエビ、食べたいッ…となっちまったわけですよ。

ただ不思議なことに、今までそういうエビチリって実は食べたことはなかった。正確にはあったのかもしれないが、外食でそのようなエビチリをいただいたことはなく、あと少なくとも実家・現我が家双方におけるエビチリはでっかいエビがドンドンドーン!ではなく、どちらかといえば小粒寄りのエビをたくさん系が主だった。まぁ正直に言えばお値段的な理由ではあるのだが、それはそれでまた美味しい。ソースが良く絡んですんごく良いんですよね。

なんならもっと言うとでっかいエビも、もしかしたら食べたことほとんどないかもしれない。エビフライのエビを大きなエビの原体験だと認識していたが、ある程度の年齢以降はもっと大きいエビのエビフライ食べたいな、となんとなくいつも思っていた気がする。あのエビが巨大だと思っていたのは私がまだ子どもで物理的に口が小さかったからなのでは?と思う。
しかし、食べたかったのはでーっかいエビの、うーっまいエビチリなのだった。見た目や食感や香りには明確なイメージが伴う。イマジネーションの世界の可能性がエビチリ方面に拡張されていく。このままいくと新エリアができてもおかしくなかった。

ということで私は出かけた。こういう時に行くのはスーパーなのだ。物の大きさという主観的な概念を求めるならばインターネッツの知見よりも目視で原料を見定めたい。加えてこの欲求は春一番。激しく速いので、気がついた時には不完全燃焼の燻りだけを残して過ぎ去ってしまう可能性もある。
求めるのは速度だ。ビートを止めるな。

そして…運良くそこにあったのだ。マイ・イマジナリー・でーっかいエビに良く似た、殻を剥いて冷凍されたブラックタイガーの15個入り。迷わず手に取りたいところだが、刹那わたしは逡巡した。普段買ってるエビの、およそ3倍の値段だったから。そりゃ、関係者各位の努力のおかげでこの一回で生活を圧迫するほどの…というお値段なわけでは正直ない。けれど、やはり普段と比べるとドキッとした。

ーーー私の信奉する買い物哲学の中に、こんなものがある。「買う理由が値段なら買うな。迷う値段が値段なら買え。」パソコンや家電など比較的大きな決断、あとは裏切りたくない一目惚れをする時はこの言葉を思い出し自己の消費の正当性を未来に託す。

今回はそれでもまだ迷った。
そこでそれでも足りない時の二の矢の呪文を詠唱した。

「こういう時のために働いてんだよな〜」

これである。
私はそっと納得し、エビをカゴに入れた。

なぜ働くか。
なぜお金を稼ぐか。
冒頭でも触れたようにそのシンプルな問いに対して答えは複雑で難しい。答えは人によるだけでなく、時と場合にもよる。

この時の私の答えは…夢を叶えるためだった。
もっと細かくいうと、最大限に価値があり心から欲しいと思った物に対して素直になり味わう機会を手に入れるためだった。

エビチリは、でーっかいエビの、うーっまいエビチリは、本当に美味しかった。大きなエビで作るとソースの味はもとよりあらゆる食感がトゲトゲの吹き出しに入った濁点まみれの効果音みたいな感じの情報量で迫ってくる。しかし噛めば噛むほどに味わいが変わり、最後は素材の優しい風味を残して一口が終わるのだ。
心なしか一緒に入れた刻み長ネギの風味まで増幅されたように感じる。大満足の食事だった。

「いやァ、こういうことのためにお金稼いでるよな」なんてちょっとふざけて言ってみたが、あらゆる幸福が労働の対価として得られていることに私はしみじみとならざるを得なかった。私は働くことが好きだ。できることが増えて、出会う人が多く、友達ができることもあり、居場所があり、そしてこうしてときどき夢だって自分で叶えることができる。そして労働も夢の実現も1人で出来ることではないということもまた私にとっては尊く、一皿を通じて私の存在を迎えてくれている社会というものに今一度巡り合ったような気さえするほど、美味しく嬉しい食事であった。

エビチリ、大好き。

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