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大学は生成AIとどう向き合うのか。手探りながらも方向性を表明。

ChatGPTがもたらす衝撃、沸き起こる議論、危惧、心配・・・

2022年11月、ウクライナに軍事侵攻したロシアが世界を不安に陥れている最中、衝撃的なニュースが地球上を駆け巡りました。

オープンAIが開発したChatGPTという名の生成AIの登場です。

まるで達人が創作したかのような流麗な文章、プロ顔負けのハイレベルな画像や音声の創作――おどろくべきこれらの生成物は、これまで人類が想定していたAIのレベルをはるかに凌駕するものでした。

人間にとって役立つツールが誕生したとなれば、まず産業界からは大歓迎されるのが定石。

実際、米半導体大手のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)のリサ・スー最高経営責任者(CEO)は、人工知能(AI)向けの半導体市場が今後「3~4年で年率50%成長する」との考えを示し、半導体産業は生成AIの誕生を千載一遇のチャンスとして大歓迎している様子が伺えます。

 

一方、寝耳に水とばかりに、AIのあまりに急速な進展を危惧する声も多く上がっています。
 
ChatGPTのような言語系生成AIは大規模言語モデル(LLM)という技術が使われ、膨大なテキストデータから学習した結果をもとに回答する仕組みゆえに、はたして、プライバシーや著作権の保護はちゃんと守られるのだろうか、と心配する声。
 
生成AIが脚本や画像作成などの仕事をわれわれから奪ってしまうと不安に駆られたハリウッドの映画や演劇の関係者たちによる猛烈な反対運動は、一向に終息が見えない・・・。
 
あるいは、実際に使ってみると、ChatGPTの回答は誤りが多く、決して「正しい」とは限らない、等々、
これまで、多くの心配や危惧の声が次々とあがっています。

これに対し、生成AIの生みの親であるオープンAIのCEO・アルトマン氏は、慶應義塾大での公開討論の場で、「AIはさらに賢くなる」と述べ、生成AIは発展途上の技術であると述べています。

 はたして、そうした諸課題を解決できるのか。

多くの国々では、こうした危惧する声に押され、ChatGPTをはじめとする生成AIにどのように対応すべきなのか、について議論がはじまっています。
日本が開催国となった2023年のG7でも、生成AIは喫緊の主要議題の一つとなったことは記憶に新しいところです。

世界を巻き込んでいる生成AIに関する議論からは、まだまだ目が離せませんね。
 


最高学府=大学にとっては座視できない脅威に

最高学府である大学も、生成AIの登場にはとても敏感でした。
少なくとも、当初はもろ手を挙げて歓迎する、という立ち位置にはありませんでした。
 
なぜなのか。

知の拠点である最高学府=大学は、いうまでもなく、専ら学問研究と学生の教育を生業としているわけです。
その土台は、教員や学生による日々の論文・レポートの作成、そしてその査読や評価という作業で成り立っているのです。
つまり、学問研究=論文作成、は世界共通の概念と言っても過言ではないでしょう。

この度、出現した生成AIは文章作成を得意技の一つにしているわけですから、大学の生命線というべきこうした論文作成に影響が及ぶことは必至であり、大学関係者にとっては、座視できない事態になったというわけです。
 
たとえば、研究者や学生たちが論文やレポート作成で生成AIを乱用し、そこで生成された文章を無断で、安易に採用するようなことになったら、それこそ一大事でしょう。
大学の存立が危ぶまれてしまいます。

そこで、各大学は、何とか生成AIとどう向き合うか方針を定め、使用のルールを、急いで打ち立てて公開しようということになったわけです。
これまでの大学という概念、そして存在価値を守るためにも。



声明は次々に。でも、方向性はさまざま

ChatGPTが登場して4カ月ほど経過した3月27日、東京外国語大学が発信した声明を皮切りに、日本国内の大学でも、矢継ぎ早に生成AIに対する姿勢を示すメッセージが次々出されました。
現在までに多くの大学が、大学としての見解やスタンスをホームページで表明しています。
 
これらの情報は、九州大学IR室の学術推進専門員の森木銀河氏がWebページに一覧をアップされていますので、ご覧ください。

各大学から発信された初期のメッセージを眺めてみると、ほとんどの大学は、生成AIがもつ問題点や危険性に警戒感を示しつつも、大学によって生成AIに対する温度感、距離感が少しずつ異なっていることがわかります。

たとえば、

上智大学は、学生に対して生成AIが作った文章等の使用を認めないとの厳しい態度を示しています。

東京大学は、教員や学生に対して、「まず皆さん自身で使ってみるのが良いと思います」としながら、現時点で考えうる問題点や危険性を列挙して注意を促しています。

東北大学は、架空の授業課題の例を示しながら、学生が生成AIを活用したとしても教員がそれを「見抜くことは難しい」ことを指摘し、教員に対して、まず生成AIに何ができて何ができないかを確認することを促しています。

等々

こうしてみると、多くの大学は、考え方、スタンスは異なっていますが、生成AIには課題が山積しており、対応策についてはまだ手探り状態であるという点はほぼ共通していると言っていいでしょう。
未だ決定的な統一的な対処法は見出されていない、ということです。

 上智大学ホームページより
 ChatGPT 等の AI チャットボット(生成 AI)への対応について(3/27発表)PDF

 東京大学ホームページより
 生成系AI(ChatGPT, BingAI, Bard, Midjourney, Stable Diffusion等)について(4/3発表、理事・副学長・太田邦史(教育・情報担当)名で発表)

 東北大学ホームページより


 

出色だったデータサイエンス学部の先駆け・滋賀大のメッセージ

そのようななかで、7月14日に出された滋賀大学のメッセージは出色と言えるのではないでしょうか。

 データサイエンス学部を最初に立ち上げた大学だけあって、積極的に生成AIを活用する立場を打ち出しており、かなり大胆と言えます。

「本学では、生成AIの使用について一律に禁止することはしません。
生成AIを活用するリテラシーを学生・教職員全員が身に付け、教育・研究・業務の諸活動に生成AIを積極的に取り入れることを目指します。生成AIの出力内容を批判的に分析し、上手に使いこなすことができれば、諸活動を飛躍的に向上させることも考えられます」

 
「生成AIが今後普及していくことを考えると、禁止することは現実的では
ありません。生成AIを上手に活用することにより、学生は論点整理や、情報収集などに活用し、個々人の学びを深めることが可能です」

 

学生に対しては、
「生成AIが今後普及していくことを考えると、禁止することは現実的ではありません。生成AIを上手に活用することにより、学生は論点整理や、情報収集などに活用し、個々人の学びを深めることが可能です」
 
教員に対しては、
「教員にとっても、討論のテーマ作成に利用するなど生成AIを適切に活⽤した教育を進めていくことで、教育効果を高める可能性もあります。生成AIを禁止するのではなく、むしろ大胆に生成AIを活用していくことを期待します」
 
 
滋賀大学は、教職員・学生双方に対して、積極的に活用しなさい、というスタンスであることがよくわかります。




従来の課題では意味をなさなくなる

そして、滋賀大学のメッセージのなかで、特に注目したいのは、次の部分です。

「今後、翻訳や要約、単に知識を確認するような課題は意味をなさなくなることが予想されます」
とし、
「教員が課題設定をする際は、授業中の小テストの実施、口述試験等との組み合わせ、批判的分析を必要とする課題への変更など、課題の設計や試験実施方法の工夫を行い、適切に学修成果を評価する必要」
があると、課題や評価をする教員側に対して注文を付けています。

教員に対して意識改革を迫っている、と解釈できるのではないでしょうか。

つまり、生成AIが誕生してしまった以上、これが流布していることを前提にして、漫然とこれまでと同じような課題設定をしていてはいけない、というメッセージですね。

ここには、教員による課題設定、つまり試験やテストの作題・作問、そしてそれに対する評価の在り方についての新しい方向性が示唆されている、と読み取れるのではないでしょうか。

そして、この考え方には、単にキャンパスで学ぶ学生に対する課題設定だけでなく、未来の学生=受験生に対する新しい入学者選抜(入試)にもつながっていくヒントが含まれていると感じるのです。



あくまで、メッセージは内部向け

今回、国内の大学が発したメッセージをいくつかご紹介しました。
徐々に生成AIに対する姿勢がネガティブなものからポジティブなものへと変化しているように感じられますが、これまでのところ、対象者は基本的に、自校の教職員もしくは学生に留まっています。

対象を大学内部の人たちとするのは至極当たり前ではあります。
しかし、将来の大学生、つまり大学入試対策の準備に入る受験生たちや中高生に対してはどうなのか。
 
というのも、生成AIはあっという間に拡散し、中学生や高校生といった世代にも当たり前のツールになる日は近いはず、だからです。

大学は、受験生たちへどのようなメッセージを用意しているのか。
あるいは、用意していないのか。


次回は、生成AIが大学入試や大学入学者選抜に与える影響を
探ってみたいと思います。

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