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生み出してしまった人間が永遠に背負うことになる責務——教育は生成AIから逃げることなく、その役割を果たしていけるのか

AIは不可逆的テクノロジー。だからこそ・・・

スウェーデンの哲学者でオックスフォード大学教授のニック・ボストロム氏は、
「AIは『不可逆的なテクノロジー』だ。いちど実現してしまったものを後退させたり、なしにしたりはできない」
と断言し、
「だからこそ、常に人類が望む目標に進むよう設計しなければならない」
と述べています。

さらに、ボストロム氏はシンギュラリティに関して、

「近い将来、我々は必ず『いかにAIを制御するか』という難問に直面する。シンギュラリティーなどあり得ないと高をくくっていては、いずれ人類自身の価値や生命が脅かされるリスクを抱えることになる」

と語り、シンギュラリティ到来への心構えを説いています。

ボストロム氏が言わんとするところは、シンギュラリティは必ずやって来ることを前提にして、私たちは、その段階に至っても、AIに白旗を上げるのではなく、いかにわれわれ人間がAIをコントロールすべきか、という難しい課題と格闘し続けなければいけない、ということになります。


 

生み出した人間に、永遠の責任が生じる

ここで、教育における生成AIについて、重要なテーゼが見えてきます。
それは、

すぐれたテクノロジーを生み出したことによる報酬を受けるのも人間だが、
生み出してしまったことによる責任も、人類が未来永劫、背負うことになる。

となると、この高度なAIに対するあらゆる角度からの研究、開発は永遠に続けなければいけない、ということになります。
 
人間は生成AIから逃げることはできず、むしろもっともっと研究・開発を重ねていかなければいけない、とういうわけですね。



使いこなせる人材
的確な指示を与えられる人材

では、教育現場においては、今後この生成AIをどのように扱うべきなのか、教師には何か求められることになるのでしょうか。
 

工学者で東京大学大学院教授の堀井 秀之氏は、これからSTEAM教育や探究学習が重要になることを説いたうえで、
「新しい知識を生み出す専門家になる人材」
「生成系AIを的確に使いこなせる人材」
「生成系AIを使いこなす人に的確な指示を与えられる、創造性やコミュニケーション能力に秀でた人材」
の育成が主要なテーマにってくる、と言及しています。

堀井氏は、人間の知能に追いついてしまった生成AIであってもそれを“的確に使いこなし”、さらに“使いこなす人に的確な指示を与えられる”人材を育てることが重要であると述べています。

言い換えれば、使いこなすレベルは当たり前で、使いこなす人への指示を出せるくらいの高度なレベルの人材育成が必要というわけです。
AI技術の研究開発へ飽くなき探究心をもつ若者を育て続ける信念が、教える側には求められるということですね。



読書感想文では、むしろ使わせるべき

生成AIへ探究心を持つ若者を育てる――
そのためには、まず教育現場でAIを積極的に活用することで、生徒たちの関心も高まるのでしょう。

IT教育に詳しい東北大学大学院教授・東京学芸大学大学院教授の堀田 龍也氏は、たとえば夏休みに書かせることの多い読書感想文ではAIを積極的に活用すべきだ、としています。

私個人としては、子供に読書感想文を書かせることは十分に有意義だと考えています。例えば、対話型のAIに問いかけをすると、さまざまな解釈や見解が返ってきて、他者と対話しているように感じることがあります。それを使って自分の感想文をより良くするのは、むしろ良いことです。自分とは違う感想に触れたり、それを基に自分の考えを相対化したりすることも大事だからです。

さらに、

AIだけでなく、「YouTube」の解説動画を見たり、「Wikipedia」で調べたりといったICTを活用した学習方法は、これからの学びに必要なコンピテンシーです。それを先生方は理解して、むしろ活用を促すべきだと思います。

2023.08.21教育とICT Online
AIの登場で学ぶ意味を伝えることがより重要に――堀田龍也氏インタビューより

と、積極的な活用をしてほしいと訴えています。
 


「人が人を教育する」とは

堀田氏は、教員の先生方への心構えにも言及しています。

知識だけを教えるのが先生ではありません。
先生方は、「学ぶのは子供自身」であるという視点を持つべきです。
しかし、子供が理解できないと「私が全て教えましょう」となることがあります。それはある意味過剰であって、「私が教えることはあるけれど、学ぶのは君たちだよ」と伝えることも必要なのです。

突き詰めていくと、「人が人を教育するとはどういうことか」に戻るのだと思います。先生が子供の人生のために学びの意味を伝え、子供たちが「学びたい」と思うようにさせていくのが教員の役割になっていきます。


生成AIの登場は、生成AIと人間の関係のあり方を改めて問うことになり、教育現場では、教育のあり方そのものを再定義する必要性が浮上してきたようです。

教育とは何か? 教えるとは何か?

私たちには重い宿題が課せられることになりました。



「AIはほとんどの問題を解けるようになる」

では、本題に戻り、生成AIは入試も変えるのか?を考えてみたいと思います。

第1回でも見ましたとおり、いまのところ国内の入試においては大きな変化はみられてはいません。

しかし、経済協力開発機構(OECD)のアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長兼事務総長教育政策特別顧問は、5月15日、東京都千代田区の日本記者クラブで記者会見質疑応答の場面で、

「AIはいずれ、ほとんどの大学入試の問題を解けるようになるだろうと私は自信を持って言える」

と断言し、試験の在り方をより思考力を問うものに変えていく必要性に
言及する一幕もあった、とのことです。

ならば、これから、受験生や学生に何を問うべきなのか。



教師は楽をできなくなる

独自のLLMを研究開発するオルツで最高技術責任者(CTO)を務める西川 仁氏は

「教員がこれまで楽をしていたとも言え、もっと手間暇をかけて学生を評価しなければならない。教員が学生の理解度を本気で測る作業を考える必要が出てきた」

と手厳しい意見を述べています・・・

 西川氏はさらに、

「機械(AI)にできることは機械に任せて、人は機械にはできない独自の視点や意見を持つことが重要。教員がそれを評価しなければならないという意味で楽ができなくなったことは、建設的な変化だ」

2023年7月18日発行「日経パソコン 教育とICT No.25」より

と述べています。


西川氏は、教員が楽を出来なくなったことが建設的な変化である、と、
皮肉とも受け取れることをおっしゃっています。
教育現場への生成AIの浸透は、教員受難の時代の到来を意味しているのでしょうか。

いずれにせよ、これからの課題の出し方、評価の仕方も、教育者たち全員に課せられた大きな宿題となるのでしょう。



 

ChatGPTは中央値。
だからこそ、リベラルアーツが大事

独立研究者の肩書で各方面に発言されている山口 周氏は、教育する側にとっても見逃せないメッセージを語っています。
山口氏は最新刊のなかで、ChatGPTが出す答えは統計でいう中央値である、と指摘したうえで、これからは中央値ではなく“外れ値”を生み出す戦略が大切になると言及し、だからこそ、“リベラルアーツ”が重要である、と唱えています。

当たり前の正解、つまり「中央値の戦略」でChatGPTと戦えば人間に勝ち目はありません。人間が人間にしかできないことを思考し、あるいは行動して大きな価値を生み出すためには、現状では当たり前だと思われていることを徹底的に疑い、「深い合理性を持つ外れ値の戦略」を見つけること、これしかありません。さらに言えば、だからこそ今世界中で「リベラルアーツの復権」が叫ばれているのでしょう。なぜなら、リベラルアーツとはまさに「思考を束縛するものからの自由=リベラルになるための技術=アート」だからです。

『ChatGPTは神か悪魔か』(宝島社新書、2023年10月刊)75頁より

★リベラルアーツに関しては、本「越えていく大学」シリーズの「「リベラルアーツ」に望みを託して」全6回も、ぜひ併せてお読みください。



「自分を信じることが大事」

ここで再び、八冠を達成した将棋の藤井聡太さんに登場してもらいましょう。

中学段階から使い始め、いわばAIとの対話・格闘によって実力を養ってきた藤井聡太さんは、次のような持論を述べています。

「当時のソフトは強かったけど、疑わしいところもあった。導入した段階から、AIを活用しつつも自然に自分で考えてみるという感じになった。AIの将棋観の良いところを取り入れるためには、自分で考えることが絶対に必要だと思う」

読売新聞 2023年11月1日掲載 解説 「AI感覚」と考え抜く力 融合より
 

“AIの良いところを取り入れるためには、自分で考えることが必要”

AIを知り尽くしている藤井さんならではのこの言葉は、われわれがこれから生成AIとどう向き合うべきかについて、とても大切なサジェスチョンを与えてくれているようです。


シリーズの最後に、数年先に出されるかもしれない
大学入試問題を予想してみます。

※なお、この拙文は生成AIの手を借りずに執筆させていただきましたことを申し添えます。


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