白庭ヨウ

5000m14分台、10000m29分台の走る物語作家(志望)。物語が好きだから、物語…

白庭ヨウ

5000m14分台、10000m29分台の走る物語作家(志望)。物語が好きだから、物語を書く。ジャンルも主張も後からついてこいが信条。職業物語作家になるべく修行中。タイムリミットまであと2年半。https://youwhitegarden.wixsite.com/create

マガジン

  • 面白庭小噺

    コロナ対策の一環として、ほっこり出来る物語をこちらにまとめていきます。あなたが元気になれますように。

  • イジン伝~桃太朗の場合~

    『イジン伝~桃太朗の場合~』連載投稿を読みやすくするため、この一編をマガジンにまとめます。ご利用下さい。

  • 白庭ヨウと

    今の私を作った素敵な人々事々について書きました。かなり私的な記事なので気になった方のみご覧ください。

  • 白庭ヨウのエッセイ

    私のエッセイをまとめています。ホルンばりのへそ曲がりが好物の方におすすめです。それ以外の方は……、もし気に入ってもらえましたならば!

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走らずにはいられない(わけない)

 「私の人生で走ることは」と書き出すことに違和感を感じるほど「私の人生」と「走ること」とは重なっていて、ほとんど同一である。  そう言うと「走ることが好きなんですね」と好意的に返してもらえることが多いのだが、私は苦笑して「いや、そういうわけでは」といつも注釈を加えなければならなくなる。 私は「走ること」が好きなわけではないのである。私が「私の人生」を手放しに好きだと言えないのと同様に。 走ることは呪いである。  恩師の前で一度こう言って注意されたことがあるのだが、あえ

    • 長らく投稿していませんでした。新人賞に投稿する物語に取り組んでいました。来年5月末に結果発表なので受賞の有無に関わらず形はどうあれ公表できると思います。 自分が納得の出来る質で公表したい気持ちが強くこうなりました。連載していた物語もなんとか救い出したい。 何卒宜しくお願いします。

      • 面白庭小噺(たんぽぽ)

        何も咲かない寒い日は下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く。 高橋尚子選手 座右の銘  時間は動いているものにのみ働く。止まっているものは時間を受け流し、後になって小さく、しかし致命的な風化が進んでいたのに気づき、消えてしまう。時間は誰もに平等に働いているのではない。万物は流転し、その流れの早いものがより先んじることが出来る。だからこそ、動け、動け。動くことが世界への貢献なのだ。 ◇◇◇◇◇ 「なんて言われてもなあ。私は嫌だな。動くのは疲れるもの」 「口をつぐめ、

        • イジン伝~桃太朗の場合~まとめ(XXXXX~XXXXXVI)

           屋上からは世界のすべてが見える。朗たちが住んでいる世界は真っ二つにした団子みたいな半球で、円周部で天と地が交わりその先はない。閉じられたドームの中にいるようなものだ。この学校が世界で最も高い建築物だから見晴らしは格別なのだが、屋上にはめったに生徒がやってこない。  というのも、天球上に配置された九つの太陽が日没までじりじりと照り輝くからで、日陰を探そうにも一つの太陽から隠れれば残り八つの太陽に晒される有様なのだ。朗は脱いだ学生服を羽織るようにして日差しを遮ってはいるものの、

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        走らずにはいられない(わけない)

        • 長らく投稿していませんでした。新人賞に投稿する物語に取り組んでいました。来年5月末に結果発表なので受賞の有無に関わらず形はどうあれ公表できると思います。 自分が納得の出来る質で公表したい気持ちが強くこうなりました。連載していた物語もなんとか救い出したい。 何卒宜しくお願いします。

        • 面白庭小噺(たんぽぽ)

        • イジン伝~桃太朗の場合~まとめ(XXXXX~XXXXXVI)

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        記事

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXVI

          前回記事【 彼らは校門を出ると敷地を囲うフェンスに沿うようにして走った。街は校舎を中心にした放射状に道を持ち、その道々の両側には所狭しと数階建ての建物が建ち並んでいる。その用途はほとんどが人々の居住地で、同じ間取りの部屋に様々な人々が暮らしている。  人々は全自動食事生成機を始めとする社会保障システムの恩恵を受け、生きたいように生きる。ある人は家の中に閉じこもり誰とも交流することなく一生を終えるし、ある人は音楽を街の広場で奏で踊り明かす。またある人は本を読み本を書き人々に配り

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXVI

          面白庭小噺(コンビニ)

           現在、日本には五万五千を超えるコンビニが存在する。これは日本の人口約2千人に一軒、一都道府県に約12百軒、約6.9平方キロメートルに一軒コンビニがあるということだ。よくある例えで言えば東京ドーム140個分の面積に一軒のコンビニ。  ふむ、意外と少ないかもしれない。しかもそのうち我がコンビニ同盟に所属する店舗は十軒に一つ。一軒につき2万人の人々の笑顔を背負っているのだ、これほど多忙なのも頷ける。もっと協力者を募らなければ。    何度目だろう、この分かりきった計算を繰り返しそ

          面白庭小噺(コンビニ)

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXV

          前回記事【 朗の家は学校からさほど離れていない郊外にあった。この表現に矛盾があると猿野に噛みつかれた朗も 「でもそう言うしかないんだ」 と素っ気なく言うしかなかった。しかし、だからこそ朗は隠れ家として自分の家が適当だと考えたのであった。“鬼”の包囲網が到達しておらず、比較的国の統制システムが緩いから安全だろうと朗が説明すると、走るのに疲れて既にほうほうの体になった木地川が息も切れ切れ尋ねた。一呼吸ついては話すといった具合だったので聞いている朗たちは頭を働かせて彼の言葉を再構成

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXV

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXIV

          前回記事【 彼らが昇降口から出ると不気味な音が聞こえた。かすかな、それでも確かな一音の連なり。コツン、コツン。すべての鬼がずれることなく同じリズムで刻む足音。姿は見えない。だが確実に近づいている。 ――生徒の呼び出しです。これから名前を挙げる生徒は速やかに職員室に集まって下さい。桃太朗くん、犬村涼菓さん、猿野徹信くん、木地川詩羽くん。以上四名は至急職員室に集まって下さい。繰り返します……――  そこに校内放送が加わる。いつもと変わらないトーンで人工の感情が平板な電子音声が昇降

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXIV

          面白庭小噺(葉桜)(原題:葉桜の季節に)

           桜の花が散るとやってくるその男は、私がここにいる時期を知っているみたい。誰も桜に見向きをしなくなったとき、私はここに降りてこられる。 「……やあ。久しぶり。毎年待たせてすまない。どうも桜の季節は来れなくてね」  男は芽吹いた葉衣に着替えつつある桜の木を見上げて目を細めた。夏の盛りになればここはすっかりその木の影に入る。そこで私は秋の終わりに木の葉が地面に絨毯を敷いてしまうまで“半径私の見えるところ”の世界に生きる。 「いいものを持ってきたよ。君、これ欲しいって言ってた

          面白庭小噺(葉桜)(原題:葉桜の季節に)

          葉桜の季節から

          「うん。新緑だね。五月だね」  五月晴れ、乾いた陽気に人誘われて公園には幾組かの家族連れがある。腰に手を当て桜を見上げた少女は一人で同じ言葉を繰り返す。 「うん。新緑だね。五月だね」  頷き、手を、目を、顔を、口を、脚を、大きく広げて彼女は言う。青いワンピースにぴかぴかの革靴、おさげは左右に分けて一つずつ。そばかすだらけの顔で、鼻先とほほにどこかでつけてきた泥汚れが白い斑点になっている。少女はみんなの注目の的だ。みんなは彼女を指差しくすくす笑う。 「ピンクが緑になった

          葉桜の季節から

          気をつけて帰れな。ん。

          前置き 実家から家に帰るとき、祖父が言う。あぐらを組んで背中をまん丸にして、ちょっと微笑んで。 「気をつけて帰れな。ん」  セリフはいつも同じ。それに私が応えて何か言ったってもうほとんど聞こえていない。私の声が通らなくって小さいからというのもあるけれど。でもそれでいい。私も祖父からそれ以上の返事は期待していない。一言で、伝えたいことは十分私の中に響いてくるから。 生き抜いてきた人 祖父はちょうど終戦間際にこの世に生まれた。彼の父、私の曽祖父はだからシベリア抑留も経験した

          気をつけて帰れな。ん。

          面白庭小噺(電信柱)

           あ、夜が明けた。雲が多いけれど素敵な朝日だ。丸くてちょっとひんやりしてるこの風もけっこう好きさ。帽子をかぶったお兄さんが今朝も自転車に乗ってやってくる。独り言、日本語じゃないんだ。抑揚のある愉快な感じの言葉。時々はイヤホンから弾むような音楽が聞こえてくる。今日も一日お元気で。  こっちはまだ真っ暗だよ。同じ日本でもお天道様がやってくるのは違う時間なんだ。おまけに真っ黒な雲がびゅんびゅん空を飛んで今日は一日荒れそうだ。雷は、困るなあ。誰も切られたりしなけりゃいいがなあ。あい

          面白庭小噺(電信柱)

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXIII

          前回記事【「一体どうしたっていうのよ。そんな怖い顔をして」  突然猿野の隣の女子が声を震わせて桃田に問うた。彼女は思わず自分が立ち上がり声を荒げたことに気づいてすたんと腰を下ろした。唇を噛み握った拳を見つめて真っ赤になった彼女の呼吸は浅く、こらえきれないように脚が貧乏揺すりを続けている。猿野は話していた友人たちから離れ席に戻って彼女と桃太を見比べる。  静かになった教室にぎいいと響いたのは犬村の椅子が引かれたからで、彼女はすっくと立ち上がり、誰に見向きすることもなく教室を出て

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXIII

          面白庭小噺(腕時計)

           あなたは“プロ執事”をご存知か。執事というのがそもそもプロフェッショナルの仕事ではないかという疑問、そのとおり。ではなぜわざわざ“プロ”なのか。それは私が特定の家や人に仕える執事ではなく、その時々必要に合わせて依頼を受けて務める執事、今風に言えばフリーランスの執事であるからだ。そこでは人柄よりも仕事の精度が重要になってくる。人間関係が希薄にならざるを得ない中で甘えやミスは致命的である。  だからこそ依頼人の、ご主人の要求は絶対だ。私には長年のキャリアで果たせなかった要求は

          面白庭小噺(腕時計)

          そのレスキューは再出動が織り込み済み

          前置き 山や海で遭難した人々は一度救出されれば二度と同じ失敗は繰り返さない。死にかける経験なんてほとんどの人はまっぴらごめんだ。  だが、心は違うらしい。そのレスキューは一度の救出で出番を終えることがほとんどない。再出動、再々出動、それ以上だって当然のように必要だ。破片まで拾えないからなのか、レスキュー隊に恋をしてしまうからなのか、落ちた瞬間に閃く快感のせいなのか、それともそれ以外か。  私が落ちる理由はたくさんあるのだが、その頃の私は電話そのものに疑いを持っていた。つまり、

          そのレスキューは再出動が織り込み済み

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXII

          前回記事【 朗はもと来た道を駆けに駆けた。鬼怒井がこの国の最高権力者に就いたとき以来、“鬼”は世界の周縁部にひっそりと立ち尽くすのみだった。その“鬼”が今突然に動き出して他でもないここに集まろうとしている。猿野たちの話とどこまで関係があるのかはわからないけれど、鬼怒井が何か大きな変化をこの世界に起こそうとしているのはたしかだと朗は思った。そして冷ややかで美しい彼女の鋭利な眼差しを思い出し寒気を感じていた。  彼とすれ違う生徒たちは何事かと振り返った。目立つことを恐れて一人にな

          イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXII