杳(よう)といいます。我流の物書きです。 生活に埋もれてすっかり文章から遠のいてしまっ…

杳(よう)といいます。我流の物書きです。 生活に埋もれてすっかり文章から遠のいてしまったので、ここにはこれから、昔や今の文章を載せてみようと思います。

最近の記事

不染鉄

真っ黒な銀杏の樹 画面いっぱいに広がるのは、黒 巨木の向こうに見えるのは、黄色 救いがないのに 救われているような、黒

    • 枸杞の実

      枸杞の実が、漢方で言うところの「肝」や「腎」に良いと聞いてハーブティーにドカドカと入れてみたところ、「1日の摂取目安は20粒以内程度」と分かり慌ててより分けた昼四つ。 乾燥した状態や、お粥に入れたくらいではあまり存在感のない枸杞の実ですが、お茶ではなかなかの存在感。 色も味も、完全にハーブティを食っています。 かすかな甘みと杏仁っぽい匂い。 (杏仁防腐の付け合せだから、これは杏仁の匂いではなく枸杞の匂いなのかも) 効能の一番の魅力は、目の養生に良いとのこと。 近頃かすみ

      • 今日は時々焦げ臭い。

        • 本と映像メディアの、共通点は物語性で、差異点は現実を再構築する作用かな。後者は生きる力になる。

        不染鉄

        • 枸杞の実

        • 今日は時々焦げ臭い。

        • 本と映像メディアの、共通点は物語性で、差異点は現実を再構築する作用かな。後者は生きる力になる。

          昨年の10月に亡くなってたらしい。ご冥福をお祈りします。 「我々は幸福を探そうとすることによってではなく、良きにつけ悪しきにつけ、自分の生活の一つ一つの細部に深く沈潜することによって幸福になるのである」 ーチクセントミハイ『フロー体験 喜びの現象学』

          昨年の10月に亡くなってたらしい。ご冥福をお祈りします。 「我々は幸福を探そうとすることによってではなく、良きにつけ悪しきにつけ、自分の生活の一つ一つの細部に深く沈潜することによって幸福になるのである」 ーチクセントミハイ『フロー体験 喜びの現象学』

          【随筆】拡がった『自己』の先にあるもの

          「3億円の税金で、公立の美術館にウォーホルを展示するなんて…」  夕方のニュースでそんな街頭インタビューを見た。インタビュアーがどんな尋ね方をしたのかは知らないが、他にインタビューを受けていた中高齢の方々は、概ねこんな意見だった。 『芸術を理解しないなんて風情がない!』  こう捉えてしまうこともできる。けれど、冒頭のコメントが云いたいことはつまり、「自分は満たされていない」という事なのではないか。  この場合は物理的に「お金がない」ということかもしれない。「そんなお金

          【随筆】拡がった『自己』の先にあるもの

          【随筆】外邪と憂鬱

           近頃夕日がすごく綺麗だ。  美しい季節であると同時に、人々が不安定になる季節でもある。僕の周りでも、何だか変な諍いを睛にする機会が増えた。怒っている人が多いのだ。もちろん僕も例外ではない。何だか憂鬱なのだ。 (更に、僕は諍いを睛にするだけでも…何なら怒った人が背後に立つだけでも、自分が攻撃されたわけでもないのにものすごく疲れる体質なので、今の状況はなかなか辛い。世間ではHSPという言葉が流行っているけど、僕も似たような性質は持っているのかもしれない)  メンタルと身体を

          【随筆】外邪と憂鬱

          【随筆】心理療法と侵襲性

           ぼんやりと職業をカミングアウトしたばかりだけど、実はある程度当事者性も持っている。尤も、そういう支援者は多いのではないかと思うけれど。  そういう要素のせいか、トラウマティックヨガとか、ポリヴェーガル理論とか、そういうのを勉強していると、ふと心がざわつくことがある。共通するのが、身体へのアプローチについて触れられている場面だ。別に直接身体に触れられているわけではないのに、身体にアプローチするという理論を聞いただけで、交感神経や背側迷走神経が働き始める。怒りとも恨みともつか

          【随筆】心理療法と侵襲性

          【随筆】ソマティックなメンタルヘルスのすゝめ

           実はひっそりとメンタル関係の職種なのだが、近年、フィジカルな要素に注目した理論や心理療法が増えてきたな、と感じている。健康な生活を送っている、特にメンタル需要のない人でも、「マインドフルネス」「ヨガ」などの言葉は聞いたことがあるだろう。要は、「心」と「身体」を切り離して考えることはできないのではないか、という考え方だ。  個人的にも、そういう方向性には賛同しているし、社会的にも世界的にもそうなのだろうと思う。殆どの学問にはずぶの素人でしかないが、漠然と、いろいろな学問で同

          【随筆】ソマティックなメンタルヘルスのすゝめ

          【短編】見覚えのない短冊

           目を醒ますと、部屋の隅に巨大な笹が置いてあった。  咄嗟にカレンダーを確認した。8月16日。七夕ではない。そもそも独り暮らしのアパートに突然現れて良い代物ではない。見覚えのない笹を見つめて、私はベッドの上で固まっていた。  どんなに目を凝らしても、それは消えなかった。厳然とそこに実在している。私は、自分では処理しきれない事態と判断し、珈琲を呑むためにベッドから立ち上がった。 「おはよう」 誰かの声がした気がして、私は振り向いた。誰もいない。よくあることだったので

          【短編】見覚えのない短冊

          【短編】不眠症

           カバンの中に半錠の白い錠剤。  喫茶店に入ってから見つけたそれを、私はなんとなく弄んでいた。ステンドグラスの影。グラスの中の正方形の氷。乱雑にモノが詰め込まれたカバン。そしてピルケースに潜んでいた半錠の睡眠薬。  それは、毎日私が自分で半分に切って呑んでいる薬だった。不眠症というものは、毎日意地の悪い不安と覚悟を強いてくる。今日は寝られるだろうかという不安。大丈夫だろうと薬を飲まずに寝室に入り、気がついたら日付変更線を超えていたときの焦り。そしてまた、昨夜と同じことが起こ

          【短編】不眠症

          【随筆】文字の色

           子どもが男の子だったら、名前は緑色にしようと思っていた。草の緑ではない。硬く重々しくそれていて滑らかな幹を持つ、樹木の緑だ。でも、色から逆引きして文字を見つける辞書は今のところ存在しない。愚かなことと分かりつつ、Googleで『緑色の名前』と検索したけどやっぱり出ない。こういう感覚が万人共通のものではないと知ったのは、だいぶ後になってからだった。  きれいな名前の人が羨ましかった。名字と名前がどちらもキレイな山吹色のヒト。名字が青で名前の後ろに行くほど白く透明になっていく

          【随筆】文字の色

          【短編】鬱金香の毒

          その日は、よく晴れていました。 白い廊下は青空色に翳っていました。ランドセルの赤が妙にくっきりと友人の背中に浮かんでいました。彼女は私の前を踊るように歩いています。 「どこに行くの?」 「良いところ」 少し振り向いて彼女は答えました。 私は彼女の声が好きでした。明るいのに、この時期の女の子特有の甲高さが無いのです。高すぎも低すぎもしない落ち着いた声で、その声が語ることならば、なんだって信じてしまいそうな程でした。私は、国語の授業の朗読の時間が大嫌いでしたが、他の子供が

          【短編】鬱金香の毒

          【短編】最期のワルツ

          明日、死んでしまおう。 そう決意すると、私の頭はなんだか妙にすっきりして、いつも見る通学路すら美しく活きゝと見えてくる思いだった。 道を歩いている人が、血液と内臓をうごめかせる生き物であるという事。風に揺れる草が、一つ一つの生きている細胞で造られているという事。空気が動いている事。日差しが暖かいこと。 そんなことがいちいち新鮮に感じられる。私はなんだか倖せな気持ちだった。 「おはよう」 「あ、おはよう」 いつも見る友人の姿も、今日が見収めになると思うと、愛おしくす

          【短編】最期のワルツ

          【随筆】花火大会

           3年ぶりの花火大会が地元で開催された。義実家の軒先から、空いっぱいに広がる光の華を見る。生まれて初めて花火を見る息子は、怖がる様子もなく、興味津々といった睛で夜空を見上げ、時々嬉しそうに笑って私の貌を見ていた。  その笑顔を見て、一瞬胸がざわつく。    そもそも私は、こんな風にお祭りを楽しむ事自体に、どこか居心地の悪さを覚えるたちだ。お祭りにしろ、年中行事にしろ、そこに参加することに、何故か後ろめたさを感じてしまう。それが、行事という事象の社会的側面を個として過敏に感じ

          【随筆】花火大会

          【短編】干からびた胎児

           水槽の水が溢れた。  ひどく揺れたせいで、取り返しがつかないくらい溢れてしまっていた。運転していた僕は焦った。後部座席に置いた水槽の水は激しく揺れている。床には既に、くるぶしまで水が溜っている。黒っぽい絨毯の上に、何センチも水が溜って揺れている。このままでは沈んでしまう。僕は柄杓を探し出し、揺れる車内の中で何度も何度も水を掬い出した。何度も何度も。それでも水は減らなかった。柄杓が小さすぎるのだ。焼け石に水という言葉が頭をよぎった。それでも水を掬い出していたら、ようやく水が

          【短編】干からびた胎児