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【随筆】文字の色

 子どもが男の子だったら、名前は緑色にしようと思っていた。草の緑ではない。硬く重々しくそれていて滑らかな幹を持つ、樹木の緑だ。でも、色から逆引きして文字を見つける辞書は今のところ存在しない。愚かなことと分かりつつ、Googleで『緑色の名前』と検索したけどやっぱり出ない。こういう感覚が万人共通のものではないと知ったのは、だいぶ後になってからだった。

 きれいな名前の人が羨ましかった。名字と名前がどちらもキレイな山吹色のヒト。名字が青で名前の後ろに行くほど白く透明になっていくヒト。
 僕の夫は、僕と結婚する前は、黒から徐々に黄土色で、そこに一刷毛の緑が交じる、大人びた色の名前だった。結婚して僕の姓になってから、落ち着いた黒みが消えてしまった。万人の感覚ではないと判っていても、そう見えてしまうのでどこか申し訳なく感じてしまう。でも、彼は名前が格好良くなったと笑ってくれた。そういう事ができる人だった。

 今日の空は眩しいくらいの青だ。空を口にすることができたら、きっと人工甘味料の甘い味がするに違いない。

 

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