【年齢のうた】 コレクターズ その1●29歳で唄った「…30…」のもの悲しさ!
リビングのドアノブが完全に動かなくなり……アセったぁ~!(出川哲朗調)
レバーが、傾きはするものの、扉の中の部品が稼働せず、開かなくなりましてな。
内部にあるラッチという部品の交換となりました。notゴッチね(アジカンの)。
ともかくレバー回りが固くて、ずっと調子悪かったんですね。それでも日々やることがいっぱいあって、つい先送りにしてしまってて。今回は業者がすぐ来てくれて、どうにかなったけど、それまでの数時間はまあ不都合でした。トイレに行くにも、顔を洗って歯を磨くにも、ひと苦労。
しかし自分の人生、こういう感じですね。面倒なこととか、トラブルとか、困った事態になったりするけど。その中でツラいこと、悲しいこと、苦しいことはあるけど。それでも何だかんだ、どうにかなるというか。
と言っても、ドアノブ以上に、もっとどうにかしたいことばかりですけど。
そんなバタバタをどうにか乗り越えて、今日はSHERBETSを観て来ました。ベンジーたちのディープな世界にどっぷり。
それまでの今週は、10-FEET大好きなカミさんが盛り上がっておりまして。紅白出場決定! Zepp Hanedaのライヴが最高だった! そうかそうかうんうん良かったね~と受け答えをしております。新曲「Re方程式」への世間のリアクションはどうなんでしょうね? TVドラマのタイアップ曲ということで、なるほどここが落としどころかぁと思ったりしました。
さて今回は、ザ・コレクターズについて書きます。
これまた前々から取り上げようと考えていたバンドです!
そもそも僕はこのバンドのファンだったんですが、この仕事をしはじめて2本目のインタビュー取材がたまたまコレクターズだったんです(ちなみに1本目はスチャダラパーでした/渋谷系の時代)。
今回取り上げるのは、自分がコレクターズに出会ってほどなく新曲として聴いた曲です。
三十路を迎えるのはそんなに悲しいかい?「…30…」!
ザ・コレクターズは結成が1986年で、翌1987年にメジャーデビュー。日本に現存する、数少ないモッズ・バンドの代表格である。
1stアルバムからはずっとメジャーレーベルで活動していて、この長い時間の中の要所要所で音楽シーンと絡んできた。
初期の代表曲は「僕はコレクター」。デビュー前はネオGSというつかみどころのないムーブメントの一バンドとみなされていて、その混沌の中から登場した。とくに初期はブリティッシュ・ロック、それもビート・バンドやサイケデリック・ロックの要素を基盤にしながら、個性的な楽曲を次々とリリースしていった。
1993年のシングル「世界を止めて」はスマッシュヒットを記録。バンドはこの渋谷系の時代以降も精力的に活動を敢行していった。
実はTVアニメ『こち亀』の歌も唄っている。
ベテランバンドだけにもちろん山あり谷ありで、詳述はしないが(各自で調べてほしい)、メンバーチェンジあり、ブレイクを期待された時期あり、心の病に襲われたことも、ポッドキャスト番組のおかげで謎の人気を獲得しはじめたことも、まあいろいろあった。
そうして活動を継続してきたバンドは、結成30周年を迎えた2017年に、初の日本武道館公演を成功させる。
その後には、このバンドと日本のモッズ・シーンをテーマにした映画が制作された。
昨年は35周年記念で2度目の武道館を行っている。
最新アルバムは昨秋リリースの『ジューシーマーマレード』。サイケなムード漂う会心作だ。
そして今年は渋谷のクラブクアトロでのマンスリーライヴを主軸にした活動を継続しているところである。12ヵ月分のチケットはすでに完売。
さて、このコレクターズを結成したのは、バンドのヴォーカルにしてソングライターでもある加藤ひさし。現在、62歳。そして彼は来週、次の誕生日を迎える。
その加藤が書いてきた楽曲には、年齢を題材にした曲がいくつか存在する。わけてもコレクターズのファンによく知られていると思われるのが、「…30…」だ。
1990年リリースの4枚目のアルバム『ピクチャーレスクコレクターズランド~幻想王国(まぼろしのくに)のコレクターズ~』に収録されている曲である。
「…30…」で加藤は、始まり付近でちょっと鼻にかけた唄い方をする。どこか演じてるような歌唱スタイルだ。それを引き立てる軽妙なカントリー調の演奏、クラリネットの音色。
そこで唄われているのは、どうにも寂しい男の心情である。
主人公の、そろそろ30になろうとしている男。これはもう加藤その人である。1960年11月生まれの彼が、自分の思いを唄っているのだ。
序盤でいきなり老人のように、という表現があったり。それに、太ったり、頭髪が寂しくなったり……不安は尽きない。
とてもヘヴィで、ハードで、ブルー。とにかく、やりきれない、複雑な思いを吐露しっぱなしで、曲は終わる。
そもそもタイトルの30の前後に三点リーダー(…)があるのが、なんともわびしさを強調している。ペーソスにあふれた曲である。
29歳の時点で、こんなもの悲しい歌を、ちょっと自虐的に書いた加藤ひさし。ユーモラスに描かれてはいるが、彼自身にはシリアスなことだったとも感じられる。やはりかつては、30歳になること、三十路に入ってしまうことは、そのぐらい大きな事実だったのだ。
僕がこの曲を初めて聴いたのは20代の前半の頃。その時は、「そうか、30歳になるというのはそこまで深刻で、しんどいことなのか」と思ったものだ。と言っても、自分自身は「まだ先のことだよなあ」と捉えていたというのが本音である。
英国風味、その下敷きはビートルズか
加藤がこの「…30…」を書くにあたり、意識していたのではないかと思われるのが、ビートルズの「ホエン・アイム・シックスティ・フォー」である。
ビートルズのみならず、ポピュラー音楽史における傑作と位置づけられているアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に収録。ポール・マッカートニーが書き、彼が唄っている曲だ。文字通り、64歳になった僕を君は愛してくれるかな、という歌詞。ポールがこれを書いた1966年は、彼のお父さんが64歳だったからという話である。
このアルバムが1967年6月のリリース。それこそ人生の悲喜こもごもを軽やかに唄ったポールのこの歌は、とてもイギリス的。そう、ちょっとザ・キンクスっぽくも感じる。
このキンクスの「サニー・アフタヌーン」は、さっきのビートルズ曲の前年である1966年の6月の発表。こちらも加藤ひさしがかなりのめり込んだバンドで、これまた人生を見つめているような歌詞である。曲自体のレイジーな感覚も含め、素晴らしい(ついでに「およげ!たいやきくん」<1975年12月発売>に似ているとの声も昔から多い)。
コレクターズにはこんなふうに年齢を題材にした曲がいくつかある。
そんな中で今回の「…30…」には、加藤が昔気質の親の家庭で育ち、どうしても歳を気にしながら生きなければならなかった背景が大きいようだ。それに昔は、世の中全般がそういうムードだったと思う。「もう30歳になるんだろ」とか、「いつまでも子供じみたいことやってるんじゃないよ」とか。
かつてのロックンロールは、そうした若者の気持ちを代弁するものであった。それも年数を重ねるうちに、だんだんと変化していったわけだが。
そして加藤自身はそうした常識を押し付けられた自分の環境について、わりとよく話している。
次に紹介するのは3年前、加藤が還暦を迎える時のインタビュー。コレクターズのファンクラブであるコレクトロンの会報誌に掲載されたもので、インタビュアーは僕である。この時はアルバム『別世界旅行 ~A Trip in Any Other World~』(2020年)のリリース前でもあった。
この回のファンクラブ会報は、還暦記念のインタビューだけに彼の人生を振り返る内容で、それゆえに何歳の時はこういうことをして、こんなことを考えてて……という話がよく出てくる記事になった。
●加藤さんは一度就職されてるじゃないですか。それは親御さんへの意識もあったんですか?
いや、それももちろんあるんだけど、『THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~』という映画でコータローが語ってるとおり、あの頃はインディーズというものが確立してないから、プロじゃない以上はアマチュアなんだよね。その、アマチュアで無職でいることが許せなかったの。そういう自分っていうのが……カッコ悪かったんだよね。とにかく肩書としてはサラリーマンやるしかなかったというか。いや、もちろん生活のためもあるし、大学から就職活動もして、その先に就職したからね。
●ラジカセを作る会社でしたよね。で、その会社を辞めたのが?
会社を辞めたのがデビューする前で。25歳の時で……あの頃は25歳って、すごい早熟なんだよ。今で言うところの35よりも上かもしれないね。みんな25までに結婚するのが当たり前。
●女の人なんか、とくにそう言われてましたよね。
そうそう。女の子なんかもう22ぐらいだよ。男も大学卒業して、就職して3年もしたら結婚して……家も買って頭金入れるぐらいだね。そのぐらいの勢いの落ち着き方をしてないと許されなかったわけだよ。一般常識として。で、25歳までバイクというバンドをやったんだけど、それはバンドのメンバーももう25歳で、どっちか白黒つけなきゃまずいっていう風潮があったわけだよ。だから25歳でバイクは解散したの。そこでギタリストは自分の家業を継ぐと言って辞めちゃうわけ。でも俺とリンゴ田巻(初期のドラマー)は諦めきれないから、あと1年やろうと思った。それで作ったのがコレクターズなんだよ。それで86年からスタートするんだけど、コレクターズが87年にデビューできなかったら、たぶん俺はバンド辞めてたと思う。
●そうだったんですね。で、加藤さん、その頃にリクルートでも働いてますよね?
うん、経理のバイトね。リクルートのフロムエー(アルバイト情報誌)で、まだバブル全盛期だったから、バイト代がえらい良くて。就職してる時より全然稼げたのよ。
(中略)
だから、えらくいい暮らししてたわけだよ。サラリーマンやってる時よりもね。今思えば、すごいバブルだよね。
●で、その頃に、今度は結婚されましたよね?
うん、28で結婚したから、3rdアルバムの時にね。
●それはどんな決断をされたんですか。
いや、決断も何も、さっきも言ったけど「男は25で結婚しなきゃいけない」って、ずっと強迫観念にかられてたわけだよ。それがもうデビューもしたし、とりあえず俺はもうプロのミュージシャンになった。それも3rdアルバムの頃には落ち着くじゃない? 結婚するなら今しかないなと思って、自然の成り行きだね。
このように、25歳までに形にならなかったら夢をあきらめるという取り決めは、音楽やバンドの界隈のみならず、演劇でもお笑いでも映画でも、スポーツでも何でも……とにかく夢を追いかける若者たちがよく口にしている。たぶんこのことは今の時代にも大なり小なりあって、各所の若い子らが親なり周囲なりに約束したりしているのではと思う。
ただ、加藤の場合の25歳で結婚ってのはかなり早いというか、急かされてるほうじゃないだろうか。このへんは育った環境なのか、親からの価値観なのか。
で、それを意識しながら生きていた加藤は、実際にはマジメな人なのだと感じる。
コレクターズ、そして加藤のことは、さっきの引用も含めて、ここまである程度紹介しているが、整理する意味でも、あらためて。
若い頃からモッズ・シーンで活動していた加藤ひさしは、25歳で前身のザ・バイク(後期はバイクス)というバンドに行き詰まりを感じ、解散させる。しかしその直後に彼はザ・コレクターズを結成し、数ヵ月後にはすでに知り合っていたギタリストの古市コータローが加入。26歳で、ついにチャンスをつかんだ、という流れである。
そのことは、たとえばこちらの記事でもちょっと触れられている。
(前略)
その後、中学でビートルズに出合い、高校時代からバンドを始め、大学でパンクロックにはまった。しかし大学卒業後、いったん就職する。
「カセットテープを作る会社に入ってね。バンドは仕事の後にやる感じ。やっぱりバンドで食えるようになるって思えなくてさ。親にも言えないし、食えないのにバンドやってるのもカッコよく思えなくて」
それでも25歳を越えたとき、「1年だけ音楽に専念して、ダメならやめる」と決心し、会社をやめた。そして26歳で結成したザ・コレクターズでデビューを果たした。
「ほんと、巡りあわせだよ。ずっとバンドだけでやっていたら、きっと途中で挫折してやめていただろうし。だから就職したことも、すべて巡りあわせだと思うんです」
誰もが、イヤでも年齢を気にしながら生きざるをえなかった時代と、そんな環境。それだけに加藤にとって、30代に、三十路になることは、さぞ重たいことだったと思う。
長年のファンである自分は、「…30…」を過去に何回かライヴで聴いている。近年はさすがにしょっちゅう演奏はされないが。
その中でよく覚えているのは、リリースから5年後のライヴでのこと。この歌をパフォーマンスしながら加藤は、終盤のテンポがゆっくりになる箇所で、僕は30さ、そろそろ30…5! 35! と唄っていたことを、はっきりと覚えている。
そして考えてみればその頃は、今度は僕のほうが30代が近づいている時期だった。ただ、加藤と違って、自分は30歳になることをそこまで重たくもシリアスだとも感じていなかった覚えがある。
その理由として考えられるのは……ひとつは僕のほうは1960年生まれの加藤より下の世代だけに、30代に対する、大人になることに対する世のプレッシャーがゆるまっていただろうということ。言い換えれば、いま60~70代の人たちは、若き日に夢や自由を求めた一方で、「大人になれ!」という身内や世間からの同調圧力がかなり強かったはずだ。
たとえば加藤より上の世代のムーンライダーズが、やはり30歳になることについて唄っていたように(そういえば先日コレクターズのメンバーと話していて思い出したが、彼らとライダーズの対バンが30年ぐらい前に日清パワーステーションで企画されたことがあり、僕はその貴重なライヴを観ていたのだった)。
そしてもうひとつの理由は、加藤はバンドのフロントマンにしてリーダーであり、しかも、すでに家庭を持つ立場でもあった。僕は今の仕事を始めていたが、独り身でただ働いてばかりの人間なんかに比べたら、彼が背負うものはよっぽど大きかったはずである。
「…30…」という曲自体はだんだんと老いて、カッコ悪いおじさんになっていく自分を悲しんでいて、面白おかしくは描いている。しかも歳をとることはそれだけでは終わらない。何しろ責任が増え、関係性が増え、抱えるものが増え、しがらみも増えてしまう。
そういうものを笑い飛ばそうと唄った加藤ひさし29歳。若い。かわいい。でも必死で、切実。
そんな加藤も、もうちょっとで63歳。もはや30の倍の年齢さえも超えてしまっているのである。
<ザ・コレクターズ その2>に続く