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珠玉集

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心の琴線が震えた記事
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#読書

宮沢賢治の元素図鑑

作家・詩人である宮沢賢治が鉱石好きだということはなんとなく知っていたのですが(作中にいろんな鉱物の名前が出てくる) 鉱物&元素好きの息子がこの本を読んでいたので ↓  宮沢賢治の元素図鑑ちょっと借りて読んでみると… すごく良い!!!文学と化学をいっぺんに学んだ気分!!! 宮沢賢治の文章と、 そこに含まれている鉱石の名前。 鉱石の解説と写真。元素のいろいろ。 それが1冊になってるんです。 読みだしたら、心の中で (へぇ〜)とか (あっ、あれがそうか…)とか

拝啓、ミア・カンキマキさま。

ミアさま、ああ、ミア・カンキマキさま! あなたのお書きになった『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』が、どれだけ私の心を熱くしたかわかっていただけるかしらん? あなたと清少納言(あなたにならってセイと呼ばせてもらうわね)との、国境も時空も越えて結ばれた関係性。その絆に私はときめいてしまった。 ソウルメイト。 あなたとセイはまさにソウルメイトだわ。 好きな作家って、ソウルメイトなのよね。 心から大好きになると、もうどこに行っても、何をしていても、作家さんは私と常に一緒

2024年7月読書記録 謎のアンデッド、川端、無垢なアメリカ

 今月は、青空文庫(太宰治)とそれ以外の小説に分けて投稿します。  青空文庫以外では、8冊の小説を読みました。遠藤周作の2冊は別記事で。 イーディス・ウォートン『無垢の時代』(河島弘美訳・岩波文庫)  ウォートンは20世紀前半に活躍したアメリカの女性作家です。無垢=イノセントという言葉は、アメリカという国やアメリカ文学を語る際の重要キーワードと言われます。清教徒(ピューリタン)が作った国ということもあり、一時期禁酒法が施行されていたり、妊娠中絶が大統領選挙の重要争点になっ

両手に抱えた分厚い冒険

新しい本を手に入れる。 それは新たな未知の冒険を手にしたのと同じことを意味する。 つまり本が厚ければ厚いほど長く壮大な冒険が私を待ち受けていることを意味していて、だから同じ内容でも上下巻に分かれているらしい日本語訳の『白痴』(F・M・ドストエフスキー)よりも一巻完結で約五センチメートルの厚さでずしりと重さを実感できるチェコ語訳の『白痴』のほうがロマンがあると勝手なことを思っているし、確か京都で大学生をしていた頃に買って今も実家のどこかに収納されているはずの『細雪』(谷崎潤一郎

どうして佐田先生は黒ジャージに白衣を着ているのか? ~渡邉有「月に背いて」感想文~

#創作大賞感想 読んでいる最中、ずっと鼻水が出ていた。 本屋に行っても、図書館に行っても、鼻水を出し続ける僕は、なんらかのアレルギーなのかと思っていた。 ただ、今回ばかりはタブレットでの読書だ。紙のアレルギーというわけではなさそうだ。ではなぜ、これほどまでに鼻水が出てしまうのだろう。 おそらく、アレルギーのように、体の中で、物語が何かを刺激しつづけていたのかもしれない。 興奮するほど鼻水が出てき始めたのは、この小説に暗躍する白と黒に気づいたからである。 * 「月

山岸凉子の『日出処の天子』から始まった読書連鎖。読書は旅、そして冒険!

面白い作品を読んだとき、いてもたってもいられなくなる。 この世界をもっと知りたい。この作家の作品をもっと読みたい……。 そんな感じで関連する本や映画、はたまた聖地巡礼など、作品世界がどんどん広がることがある。 前回、奈良の美術商店で百済観音像のレプリカ彫像を購入したことを記事にした。 これだって、元はと言えば山岸凉子の歴史漫画『日出処の天子』に夢中になったことがきっかけだ。 最初にこの漫画を読んでから、10冊以上の本やアレコレを経由して、ローンで美術品を買うところまで行

『渚にて 人類最後の日』 ネヴィル・シュート

悲しく救いのない終末小説。しかし、ここまで救いがないにも関わらずこんなにも美しく、穏やかに凪いだ読後感を与える小説が、他にあるだろうか。 物語の舞台設定は1963年。この小説の初版は1957年なので、近未来というよりも同時代を描いたフィクションだ。 60年代初頭に起きた第三次世界大戦で核戦争が勃発し、核爆弾によって地球の北半球は壊滅状態になった。 今は南半球に位置する国だけで、かろうじて人間が生きているが、放射性の降下物の前線は徐々に南下しており、いずれ世界全体が汚染される

名刺代わりの谷崎潤一郎10選

 先日、谷崎潤一郎の作品がテーマの読書会をしました。もともと敬愛する作家ですが、皆さんのお話を聞いて、ますます谷崎愛が深まった気がします。  ということで、青空文庫で読める谷崎作品のうち、特にお勧めしたい10作を年代順に選んでみることにしました。   『刺青』   実質的な第一作です。この小説を永井荷風に認められた時の話が随筆『青春物語』にありますが、そりゃ、荷風も認めますよね。ここまで完成度の高い第一作って、そうはないのでは? 足フェチをはじめとする、谷崎文学を語る上で

体調とタイミング

高校生の時に風邪で学校を休んだ。 熱が出ているのだから寝ていればいいのだけれど、体がきつすぎると眠れないもので。 当時はまだスマホなんてものもなかったし、 テレビを見にリビングに行く元気もなかったし、 ラジオや音楽を聴くには なんとなくしんどかったから、 読書をしようと思った。 あまり分厚い本は読みたくない。 ちょうど学校から借りてきていた文庫本2冊がほど良い薄さだったのでそれを読むことにした。 この2冊。 薄いし、 スラスラ読めた。 名作だと思う。 …しかし、だ。

その声は聞こえない

突然ですが、親愛なるnoteの同志諸君におたずねします。 あなたは本を読むとき、頭の中で声が聞こえますか? ……。 いえ、声と言っても、神の声が聞こえるとか、エルサを呼ぶイドゥナの声が聞こえるとか、ではありません。 声に出さず黙読しているのに、あたかも音読しているかのような声が頭の中で聞こえる、ということです。 私は…… まったく聞こえません。 断言しますが、聞こえたことは一度もありません。 私よりはるかにたくさんの本を読んでいる友人にきいたところ、やはり「聞こえな

かすかな違和感

宮沢賢治の『どんぐりと山猫』ってご存じ? 彼の作品はバリバリ岩手の情景を描いているので 子供のころ、彼の作品はファンタジーではなく 現実のものと思っていました なので秋が来ると 「山猫からお手紙来たらどうしよう」 子どものわたしは怯えてました ---------------- 先日、たまにいけばなを飾らせてもらっている 古書店の店主が開催する 『宮沢賢治の童話を読む』の第2回に参加してきました この店主は宮沢賢治の研究をされている方で 大学でも講師をされています 全

『夏草の記憶』 トマス・H・クック

痛ましく残酷な、青春の愛の物語である。 南部の田舎町で、地元の医師として敬愛されているベン。しかし、穏やかな中年医師の顔からはうかがい知れない深い闇を、その心は抱えている。 妻にも親友ルークにも告げることのできない、ベンの胸に秘めた大きな重荷は、青春時代に起きたある出来事に関するものだ。 ベンがハイスクールの2年生の時、北部の大都会ボルティモアから、一人の転校生がやって来た。 浅黒い肌と黒い巻き毛を持つ美しい娘、ケリー。 どこか近寄り難い雰囲気を纏うケリーだが、ベンは彼女

エッセイ | 読書の終わりってあるのかなぁ?

 1冊の本を読み終えるとは、いったいどのような状態を指すのだろうか?  最初から最後のページに目を通せば、一般的にはその本を読んだと言われる。しかし、その中身をちゃんと理解しないまま読んだ気になっているだけかもしれない。  古典とか不朽の名作と呼ばれる作品は、いい意味で曖昧なものが含まれている。きちんと読んだつもりでも、あとになってから読むと、最初に読んだ時の感想とは異なることがある。というかむしろ、二読、三読するうちに、思わぬ発見や読み手の気持ちが変化するからこそ、名作

拝啓 読書様。これが私の遊びで、続く葉脈になります。

私が貸した星野道夫の「旅をする木」を手に持ち、後輩が私のもとにやって来た。 「お返しします」 私は、この後輩を密かに読書好きにさせるように遊んでいる。遊んでいるというよりかは、遊んでもらっているのかも知れない。本に興味があると言った後輩は、彼女が読んでいるという伊坂幸太郎を好きかどうかを私に聞いてきたことが始まりだった。 私は、朝会社でわざと読書をしている。わざとだ。いつか「窓際の読書さん」と呼ばれたいと期待しながら過ごしている。そっと近付く女性が、読んでいる本を閉じた