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欠伸

思えば、もう何年も欠伸をしていない。 通勤電車の中、生い茂る植物のように同じリズムで揺られる人間たちを、不規則なリズムで欠伸が伝播していく。 欠伸は見えない線で人間を繋ぐ。 見えない線が僕を繋ぐことは、この先ずっと無いのかもしれない。 欠伸を真似てみる。 大きな口を開けて、喉の奥から重たい息を吐く。 鎖骨の辺りに力を込めながら、いかにも眠気が残ってるような表情を試みた。 偽物の欠伸から見えない線が延びることはなく、吐いた息が車窓を意味なく白く曇らせた。意味なく孤独を感じる。

    • 丸く小さい

      最近の自分に対して戒めの意を込めて書きます。 これまでコツコツと飛行機を築き上げてきた。 割とよくできた飛行機になったと思う。 これから飛ぶであろう大空について知り得る限りの対策も施したし、パイロットの特性にも向き合ってきた。 飛行機は離陸から1年が経った。 アクシデントもなく、変わりない空の旅を続けている。 経験値を得た最近では「この調子ならあの地点に着陸するのが無難だろう」と最終的な目的地を自分の中で見据えるようになった。順調そのもののように思える。あの目的地なら、1

      • 金曜日

        3ヶ月ほど前から毎週金曜日にバーへ行くようになった。 22時辺りに仕事を終え、シャワーを浴び、その日一番好きな服を着て家を出る。 バーがある隣駅は栄えていて、22時を過ぎた頃は駅へ向かう人の流れがある。 1日を終えて帰路に就く人たちの流れ。 その流れに逆らうように駅を出て街へ向かう。 人の波に抗って歩いていると自分だけが長い1日を過ごしているような気分になり幸せを感じる。 先週よりも冷たくなった風は、季節が変わっていくさまを僕に伝える。在宅勤務で外に出ない僕はいつも季節

        • とらわれた男

          ※2002年10月8日14時36分。男は生まれた。 物心ついた頃から男の関心は、専ら歴史にあった。 それは、地球が生まれてから現在にいたるまでに起きた、ありとあらゆる出来事に対する興味だった。 男は全ての時間を、歴史に捧げた。 幼い頃は「勉強熱心な子だ」と喜んでいた両親も、狂気じみた彼の探究心を恐れ、次第に男と距離を置くようになっていた。 23歳を迎えた頃、男は全ての歴史を知り尽くした。 そして、これ以上にないほどの怒りを覚えた。 それは、西暦2000年余りに生まれたこ

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          サラダバス

          地球の9割が砂漠となり深刻な食糧不足が慢性化した今、 サラダバスだけが、渇ききった世界の唯一の救いだ。 サラダバスは忽然と遠くの陽炎から街に現れては、新鮮な野菜を車体後部に設置された配給口からドサッと乱暴に落として、瞬く間に陽炎の先へと消えていく。 サラダバスの正体を知る者は誰もいない。 噂では、サラダバスの真相を突き止めようと挑んだ街に、 サラダバスが再び訪れることはないらしい。 サラダバスなしでは街は枯れてしまう。 サラダバスに関わることは禁忌なのだ。 街では今日

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          局所的透明人間

          節約のためにpovoに乗り換えようと考えた。 契約に運転免許証かパスポート、マイナンバーカードが必要なのに、何も持ってなくて契約できなかった。 部屋の中でもタバコが吸いたくてアイコスをネットで注文した。2日後に配送されたが、運転免許証かパスポート、マイナンバーカードが必要なのに、何も持ってなくて佐川急便のおじさんに持ち帰られてしまった。 僕はたしかにここに存在しているのに、2度も僕は、僕の存在を証明できなかった。 たしかに、この年齢にもなって免許を持ってない、マイナンバ

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          シューゲイザー大学生 さようなら

          大学生という4年間のモラトリアム延長チケットは期限切れとなり、僕は社会に放たれた。ありきたりではあるけれど、本当に長いようで短かった。 学生のうちに耳にたこができるほど聞いた「今のうちに遊んでおけ」という言葉は、大学生でなくなった今になってようやく耳に入ってくるようになった。 大学生活はパッとしないものだった。(上の写真を見れば分かるが、本当に死んだ目をしていた。)(美術館で展示を見て興奮した直後でこの表情なんだから本当にダメだと思う。) 1年の春、上京してすぐに父親が

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          My Hair is Bad is My Trigger

          マイヘアがサブスクを解禁した。懐かしさと少しだけ寂しさを感じた。 僕たちは多感な時期にCDが主流の時代とサブスクが主流の時期の両方を味わうことができた。友達とCDを貸し借りする喜びも知っているし、サブスクで世界中の曲を気軽に聴く喜びも知っている。 CDは今でも手元にある。数々の友達の手に渡りそして僕の元に戻ってきていたCD。なけなしの小遣いで買ったCD。 マイヘアは長らくサブスクを利用しなかった。だから、聴く機会も限られていて、当時の思い出が色濃く残っている。僕にとって

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          蓋が足りない

          自分の個性を隠してしまうきらいがある。自分の変な部分が相手に見つかり距離を置かれ、自分が傷つくのが怖いからだ。防御を本能的に行なっている。臭いものに蓋をしている。でも蓋の数が足りないんだ。 結果的にそれは悪い結果しか生まないことは分かっている。何度も失敗している。分かっていても直せないんだ。 自分が変わっているという自覚がある。 自分の変わっている部分が、相手との調和を邪魔してしまうことが怖くて、臭いものに蓋をしようとする。 慌てて蓋をしている姿は客観的に見て、とても滑稽

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          ハシビロコウが殺された

          動物園のハシビロコウが殺された。正確には、ハシビロコウが消えた。 僕だけが「殺された」と断言している。空になった檻を見ながら。 ハシビロコウは人気があった。一番人気ではないにしろ、決まってハシビロコウを見に来る固定客が何人かいた。動物園に利益を与えるほどではないにしろ、動物園の個性ではあった。 ハシビロコウが消えてからも、固定客たちは名残惜しさからか、ハシビロコウの帰還に対する淡い期待からか、何度か来園していたが次第に姿を見せなくなった。今頃、また別のどこか同じような動物

          ハシビロコウが殺された

          弾力のあるプライド

          僕の中でプライドには円柱のイメージがある。 イメージの話ってすごく難しい。 プライドは高さで判断されることが一般的だから、自分の中でも円柱のイメージが出来上がっているんだと思う。でも、そもそもプライドを高さで測ろうとすると、高い方がいいのか低い方がいいのか分からない。 そこで最近考えたことがある。プライドは「弾力がある」がベストなんじゃないかということだ。弾力のあるプライド。 健康的なプライドを高さで表現しようとすると、うまくいかないことが多い。プライドは時と場合によ

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          変わってる

          「変わってるね」と言われることがたまにある。 その言葉自体に傷つきはしないけれど、たまに「変わってるね(生きづらいでしょう)」と含みのある言われ方をされる。生きづらいに決まってんだろうばかやろうと思う。 「変わってる」の本質はこだわりの強さだと思う。何をするにも時間がかかってしまう。自分に縛りを設けてしまう。気になったら際限なく悶々と考えてしまう。Googleを1日に何度も開いている。こうして文字にしていくと、やっぱり生きづらいことをしていると感じる。 しかし、こだわりを

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