ハシビロコウが殺された
動物園のハシビロコウが殺された。正確には、ハシビロコウが消えた。
僕だけが「殺された」と断言している。空になった檻を見ながら。
ハシビロコウは人気があった。一番人気ではないにしろ、決まってハシビロコウを見に来る固定客が何人かいた。動物園に利益を与えるほどではないにしろ、動物園の個性ではあった。
ハシビロコウが消えてからも、固定客たちは名残惜しさからか、ハシビロコウの帰還に対する淡い期待からか、何度か来園していたが次第に姿を見せなくなった。今頃、また別のどこか同じような動物園でハシビロコウを眺めているんだろう。
ハシビロコウが消えても、動物園の来客数は変わらなかった。変わらないどころか、パンダの子供が生まれ、客足が増加した。ハシビロコウがいた頃よりも、ずっと、ちゃんと動物園らしくなった。
僕だけが、まだ空の檻をじっと見つめている。
ハシビロコウは殺されたんだ。
僕だけが、まだ空の檻をただじっと見つめている。
3年後、僕はこの動物園のハシビロコウになった。
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